ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

瓦版039 脳汁節

2007年08月24日 | ユクレー瓦版

 ユーナが夏休みで帰ってきているので、その夜のカウンターにはユーナとマナの二人が立ち、我々の、私とケダマンの相手をしてくれた。
 「ユーナ、良い子はもう寝る時間じゃないのか?」とケダマンが意地悪そうに言う。
 「バーカ、私は”良い子”の”良い”でもなければ、”子”でもないよ。もう18歳になったんだぜ。それにまだ、8時をちょっと過ぎたばかりじゃない。チョイ悪娘の私にとっては、夜はこれから始まるのさ。」と顎を突き出して言い返す。
 「何だ、そのチョイ悪って、どこがちょっと悪いんだ?顔か?頭か?」(ケダ)
 「うっ、ケダマンがカッコ良く見える。」(ユーナ)
 「何だそれ?」(ケダ)
 「私、目が悪いみたい。」(ユーナ)
 「あっ、はっ、はっ、はっ、ユーナの勝ちぃ。」(私)
 などと、我々は愉快に時間を過ごしていたのだが、マナは静かであった。失恋の後遺症がまだ残っているみたいである。
 
 そんなところへガジ丸がやってきた。カウンターの私の隣に腰掛けながら、
 「ユーナ、お前、あさって帰る予定を1週間延ばすって言っていたが、次の次の日曜日だと、夏休み最後の日だろう?大丈夫か?」と声をかける。
 「うん、日曜日じゃなくて、その前の金曜日に帰るから大丈夫。」(ユーナ)
 「金曜日って、その日に船は出ないぞ。」(ガジ丸)
 「ケダマンに送ってもらうよ。ねっ?」(ユーナ)
 「聞いてないぞ、俺は、そんな話。」(ケダ)
 「今、聞いたじゃない。お願いね。頼りにしてるよオジサン。」とニッコリ微笑む。可愛い娘にニッコリ微笑まれたんではケダマンも断れない。
 「しょうがねぇなあ。今度の金曜日だな。わかったよ。」(ケダ)

 などと話をしている間も、マナは静かなままである。黙ってお酌をしたり、料理を出したりしている。そんなマナにガジ丸も気付いて、
 「マナ、大丈夫か?あんまり悩むと体に悪いぜ。ほどほどにすれば。」と言う。ガジ丸の言葉に、マナは軽く肯いて、微笑んだ。元気の無い微笑だ。悩みは深いようである。悩みが深い、・・・ってことで、私は先週のことを思い出した。で、訊いた。
 「あっ、そういえば思い出した。先週、シバイサー博士が歌っていたんだけどさ。目から鼻から耳から口から脳汁が出るって、脳汁出しながら歌っていた・・・。」(私)
 「脳汁節ってやつだ。」(ケダ)
 「そう、あれさー、ガジ丸が作ったんだろ?どんな歌なの?」(私)
 「ノウジルブシ?・・・目から鼻から耳から口から?・・・あー、脳汁節か、それなら確かに俺の作った歌だ。でも、シバイサー博士が、何で?」(ガジ丸)
  「あんまり思い悩んでいるマナを見てさ、思い詰めるのは良くないぞって意味で、博士が脳汁節を歌ってあげたんだそうだ。面白そうな歌だったんで、ちゃんと聴いてみたいと思ってね。覚えてる?今、歌える?」(私)
 「うーん、覚えてるっていっても、決まっているのは錆の部分だけで、概ね即興の歌だからな、その錆の部分だけなら今、歌えるぞ。」(ガジ丸)
 「即興って、その時思ってることが歌詞になるってことか?」(ケダ)
 「そういうことだ。ほぼ語りだ。今で言うラップだな。沖縄音楽の節を借用している。タカデーラマンザイ(高平良万歳)だったかな。沖縄には昔からラップがあったというわけだ。まあ、秋田にも秋田音頭って伝統的なラップがあるがな。」(ガジ丸)
 「ガジ丸も、目から鼻から耳から口から脳汁を出しながら歌うの?」(ユーナ)
 「いや、俺はそんな器用なマネはできねぇよ。」(ガジ丸)
 「あー良かった。あれ気味悪いもん。じゃあ、歌ってみて。」(ユーナ)
 「うん、そうだな。最近、教科書から沖縄の集団自決に係わる文章が削除されたっていう問題があっただろ。それを材に、即興でやってみるよ。」(ガジ丸)
     

 というわけで、その後、ガジ丸の脳汁節が一通り歌われた。面白い歌だった。ガジ丸が歌い終わった後、即興の部分にどんな歌詞が入るか、我々も試してみた。いろいろな歌詞ができた。みんなで歌った。楽しかった。
 そんなこんなで夏の夜は賑やかに更けていったのだが、マナは一人、静かなままであった。ガジ丸がトイレに立ったとき、マナに呼び止められて、二人で何やらヒソヒソ話をしていたのを見た。後でガジ丸に訊くと、
 「しばらく休んで、旅に出たい。」と、マナが申し出たということだった。

 記:ゑんちゅ小僧 2007.8.24 →音楽(のうじる節)