Duke MBA 日本人ブログ

Duke University - Fuqua School of Business(非公式)

Biotech and pharmaceutical strategyについて

2016-11-29 15:56:31 | 授業紹介

 みなさんこんにちは。2年生のYです。早くも年内の授業は残すところあと2週となり、学期末のレポートの作成など少々慌ただしい日々が続いています。 このブログをご覧になっている受験生の皆さんの多くは2nd Roundに向けての追い込みでお忙しい事と思いますが、留学で得られる世界の広がりは、今の頑張りを補って余りあるものになる事間違いありませんので、あと少し頑張って頂ければと思います。

さて、今日はヘルスケアに強みを持つFuquaの授業の1つ、Biotech and pharmaceutical strategyについてご紹介致します。この授業は製薬企業に関するケースをひたすら読み続けるというかなり業界Specificな授業です。 一言にヘルスケアと申しましても、当然のことながら製薬会社だけでなく医療機器メーカー、保険者、医療従事者、規制当局、そして患者さんを含めた様々なプレイヤーが存在します。私は留学以前、官庁で医療分野を中心とした社会保障関係予算の策定に携わっていました。その中で感じていた事の1つは、これだけ多くのステークホルダーが存在し、価値観も多様化してきている中で、陳腐な言い方になってしまうかもしれませんが、より良い政策作りのためにはそうした異なるステークホルダーが抱える価値や考え方に想像力をどれだけ働かせて実のある対話をし、合意形成をしていけるかが重要だなという事でした。官庁で働き続けるだけではきっと物事の見方が偏ってしまうのではないか。そうした意味で、私が留学生活、特にFuquaに期待していた事の1つは、特に医療という文脈でより幅広い見方を身につける事でした。そして、まさにこの授業を受講する中でFuquaがamazing place to beだなとしみじみ感じています。

FuquaはHSM(Health Sector Management、注1)というヘルスケアに特化した専攻で有名なのですが、そのコースに登録する学生は、年によってバラツキがありますが、現在1学年のうち30%以上(ちなみに一学年のクラスサイズは400人強です)にものぼっています。この授業は冒頭に述べた通り、製薬会社の戦略に特化するという一般的には相当マニアックと思われる授業なのですが、にもかかわらず授業の登録を希望した学生の数は定員をオーバーするほどの人気です。授業の中では毎回ケースを基に製薬企業の意思決定に関するイシュー(価格差別などを含めたプライシング、特許戦略、保険償還、開発戦略、広告等)について扱います。クラスでは、製薬会社で勤めていた人は当然のことながら、医療機関で勤務していた学生、医師や看護師などの医療従事者、医療保険会社、投資銀行やコンサルティング会社のヘルスケアプラクティスのチームで勤務・インターンしていた学生、グローバルヘルスに関するNGOで勤務していた学生、米国の上院で医療政策の立案に携わっていた学生など多種多様な学生が凄い勢いでディスカッションを行っていて、正直彼らの議論を聞いているだけでもとてもeye-openingな経験です。担当教官はDavid Ridleyという先生で、彼は米国の製薬企業や規制に熟知しています。彼の研究を基にFDA(薬や医療機器の承認を行うアメリカの規制当局)にPriority Review Voucher(注2)という制度が出来ました。また授業にはロシュの元CEOのGeroge Abercrombieが常駐し、Davidや学生の発言に実務的な観点からフィードバックを行うという理論と実践のバランスが取れた素晴らしいクラスになっています。

先進国における高齢化による医療ニーズの増大や医療技術の高度化等によりヘルスケア市場が増加の一途を辿る中、ヘルスケアに特化した専攻を設けている学校も近年増えてきている印象がありますが、この授業を取る中で改めて感じたFuquaの良さは、ヘルスケア関係のバックグランドを持つ学生の多様性と厚みがあることだなと感じています。こうしたヘルスケア分野の中での多様性が担保されている環境は、Fuquaが持つHSMの伝統と、前述の通りその名の下に集まる一定規模以上の学生の数によって成り立っているものであり、ヘルスケアを売りにしている学校の全てが必ずしもこうした学習環境を提供できるものではないと考えています。

先日の授業では、保険収載時の薬価が諸外国の薬価を参照して行われることが多いことに着目して、(1)どの国からどういう順番で、(2)いくらで、新薬を上市していくのが製薬企業によって最適かという上市戦略について、コンサルティング会社が授業に来て講演をしてくれました。折しも日本ではこれまで2年に1回だった薬価の改定を毎年行うべき、諸外国における薬価の参照を速やかに行うべき、と言った薬価制度に関する抜本的な制度改正に関する議論が経済財政諮問会議(注3)などで行われているところで、こうした制度変更は製薬会社の意思決定にも大きな影響を与えそうです。

また、今日のケースでは子宮頸がんワクチンの価格戦略について扱いました。日本ではその副反応の可能性等が指摘されたことで、一般的にはネガティブに捉えられている印象のある子宮頸がんワクチンですが、クラスメイトと話す中でアメリカでは同ワクチンを接種することがある程度一般的になってきているなど、同ワクチンに対する見方が日本とアメリカでかなり異なることなどが分かり、日本とアメリカを含めた諸外国での医療のあり方の違いなどについても気付きがありました。

・・・といった感じで毎回の授業で新しいTakeawayがあり、授業が楽し過ぎて授業の前日の日曜と水曜は毎回夜明けが待ち遠しいといった心境です。言い過ぎかもしれませんが。

ちなみにこのクラスで知り合ったクラスメイト達と来年1月に開催されるヘルスケアビジネスコンテストに出場するべく現在準備を進めています。書類などによる選考が今後行われることになっていますが、見事本選に参加できることになった暁には、その模様をこのブログでお伝えできればと思います。長くなりましたが、ご一読頂きありがとうございます。

(注1)HSMについてはこちらを御覧下さい。https://centers.fuqua.duke.edu/hsm/home/about/

(注2)同制度の詳細についてはこちらを御覧下さい。http://priorityreviewvoucher.org/

(注3)11月25日に開催された同会議に提出された薬価制度の抜本改革案等についてはこちらを御覧下さい。

http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2016/1125/shiryo_04-1.pdf