さくらの陰に隠れて咲くが、かりんの花はピンクで美人だ。
草花ではないが初めての日に描くのにふさわしいと思う。
華やかではないけれど、その花の可憐さに誰でも心が和むだろう。
この花がここに来たのは、今から20年ほど前になる。主人の故郷、
甲斐の国では正月や旧正月でもない時に殆んどの人が帰省する。
甲斐の国の武将、信玄公が開いたという市がある。地名にも使われて
いるその市は二月の十日をはさんでその前後にひらかれる。
地名もそのまま「十日市場」というだけあって、その市が立つ街道は
端から端まで、出店でいっぱいになる。
私達が訪れた頃は、お祭りの出店と同じような雰囲気だったが、昔は、
海のものと山のものを物々交換をしていたようだ。
面白いものも結構あった。
小さい農機具や,餅つきの臼、ほうき、刃物類、ちょっとした衣類や
わら帽子、わかめやはまぐりなどの海産物、植木類などなど、子供が
喜ぶ、それもすぐ壊れる玩具とか、大人でも面白いものが沢山あった。
その中で、植木はいつも街道のはずれ、消防署の広場に陣取ってた。
いつもだと、そこまで歩いても、せいぜい5分ぐらいでいけるのに市
のときは20分、30分くらいかかる。人人、人なのだ
そのとき買ってきて、かりん酒を作るのが楽しみだった。
かりん酒をつけた後の実を、庭に捨てたのが自然に生えてきた。実生
だから花なんて咲かないだろう、と思ったが2,3本残しておいた。
そのかりんが今や、3,4メートるに伸びて、今頃の季節には可愛い
ピンクの花をつけ、秋には黄色の実を付ける。
若かった頃は、かりん酒に、ジャムに、蜂蜜漬けにして、毎年楽しん
で居たが、今や無用の長物に成りつつある。以前は知り合いの看護婦
さんが、冬になると喉の具合が悪くてと、一年分のかりん酒を作ると
師走になると持っていってくれた。
その看護婦さんも、お母さんの介護をしなければ成らなくなり、この
かりん、今では、実が落ちるまで誰にも見向きされなくなった。
今、花盛りのかりん、今年は沢山なりそうだ。無駄にしないで何とか
考えて実も生かしてあげよう。
ではまた