ギャラリーと図書室の一隅で

読んで、観て、聴いて、書く。游文舎企画委員の日々の雑感や読書ノート。

地霊との出会いを求めて 稲澤美穂子 日本画展 「有象 uzomuzo 無象」

2018年07月12日 | 游文舎企画
2018年5月1日~13日

会報「游」21号より No.3


《有象無象の落し物》


 神奈川県小田原市在住の日本画家、稲澤美穂子さんの個展。ホールには四曲一双の大屏風「游・弦」が重々しく置かれ、十三メートルの反物に描いた「有象無象の落し物」が天井から空中を舞った。ギャラリーには二〇一〇年の内モンゴルへの旅をきっかけに生まれた「?々」という大作をはじめ、今回の展示の中心となる和紙に土を使って描いた小品多数が展示された。
 稲澤さんは「?々」から「游・弦」まで描いてきて、制作に行き詰まり、描きたいという気持ちはありながらも、描く意味が見つからず苦しんだという。画材屋で買う岩絵の具では自分の表現ができないと思い、「土か!」と直感して奄美大島まで土を採りに飛んで行った。それからは日光、福島、津軽、隠岐の島にも行って土を採取した。
 もう一つの出会いは高柳町の門出和紙。稲澤さんは何度も高柳を訪れているが、昨年三月に門出和紙の小林康生さんと出会い、「ほんとうの和紙は楮に聞いて紙を漉く」という話を聞いて、本格的に和紙に土で描いてみようと思ったという。
 今回展示の作品はすべて、それから一年ちょっとで描いたものだ。稲澤さんの作品には日本画のセンスと、長く続けてきたデザイナーとしてのセンスが融合しているが、土の作品ではとりわけそれが強く出ている。「?々」に描かれた岩石を見ても分かるように、稲澤さんの作品は悠久の時間との出会いをきっかけにしたものが多い。土の作品はそんな時間の中ではぐくまれていく〝地霊〟との出会いを求めての模索のようなものかも知れない。 (柴野毅実)

《振り子の太陽》