【碁を打つ女の話 ~ ある霊的体験から の巻】
年が改まり、門松が家々から取り払われて間もない
ある日のことである。
本因坊宅に出入りの骨董屋がやってきた。
重そうな物を背負い込んで来たと思ったら、
それは、やや古びた碁盤だった。
「檀那、こんな出物がございましたが、いかがでしょう。
なんだか見所があるような気がいたしますが……」
本因坊は、ひと目見るなり、驚いた。
扇屋の遊女・唐糸の愛蔵の碁盤が、
図らずも目の前に現れたのである。
身と魂とが離れ離れになったの如くであった。
一も二もなく、言い値で買い取って、喜んだ。
けれども、唐糸はどうしたのだろう。
碁盤を前に物思いに沈んでいるところに、
弟子の一人の信濃屋の主人が訪れた。
「これは結構な品ですな。
わたくしにお譲り願われますまいか」
本因坊は首を振った。
「実は、この盤には、少し因縁があるのです。
そう、安々とは、上げられません」
主人は、あきらめかねて粘りに粘る。
本因坊もついに譲歩して、当分貸すことにした。
しかし見た目がよくないので、ひと鉋(かんな)を当て、
線も引き直させることになった。
本因坊は、なじみの碁盤職人で平七という老人を呼び、
盤を預けた。
(つづく)
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