囲碁漂流の記

妓女の碁盤2

碁を打つ女の話 ~ ある霊的体験から の巻】

 

年が改まり、門松が家々から取り払われて間もない

ある日のことである。

本因坊宅に出入りの骨董屋がやってきた。

重そうな物を背負い込んで来たと思ったら、

それは、やや古びた碁盤だった。

 


「檀那、こんな出物がございましたが、いかがでしょう。

なんだか見所があるような気がいたしますが……」

本因坊は、ひと目見るなり、驚いた。

扇屋の遊女・唐糸の愛蔵の碁盤が、

図らずも目の前に現れたのである。

身と魂とが離れ離れになったの如くであった。

一も二もなく、言い値で買い取って、喜んだ。

けれども、唐糸はどうしたのだろう。

 

碁盤を前に物思いに沈んでいるところに、

弟子の一人の信濃屋の主人が訪れた。

「これは結構な品ですな。

わたくしにお譲り願われますまいか」

本因坊は首を振った。

「実は、この盤には、少し因縁があるのです。

そう、安々とは、上げられません」

主人は、あきらめかねて粘りに粘る。

本因坊もついに譲歩して、当分貸すことにした。

しかし見た目がよくないので、ひと鉋(かんな)を当て、

線も引き直させることになった。


本因坊は、なじみの碁盤職人で平七という老人を呼び、

盤を預けた。

 

 

(つづく)

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