全国に50ある地方検察庁の中で、特別捜査部(特捜部)が置かれているのは東京、大阪、名古屋の3地検だけです。その中でも東京地検特捜部は、実績や陣容で他の特捜部を圧倒する存在です。警視庁捜査二課も同じように汚職や経済犯を扱う強力な捜査機関ですが、国会議員や中央省庁の幹部、大企業のトップなどが対象となる事件を扱うのが、地検特捜部であり、捜査二課が単独で扱うことはありません。そういう意味でも、権力者が最も恐れる存在が東京地検特捜部なのです。
なお、 1977年4月6日から1987年3月26日の期間テレビ朝日系で放送された「特捜最前線」シリーズは警視庁特命捜査課(通称「特命課」。架空の部署)を舞台にした刑事ドラマです。
また、「特命」と言えば、現在、テレビ朝日系で放送されている「相棒」シリーズは警視庁内窓際部署特命係を舞台にした刑事ドラマです。共に一切関係ありません。
例えば、過去の汚職事件や大型経済事件では、ロッキード事件(1976年)、リクルート事件(1988年)、東京佐川急便事件(1992年)、金丸信・元自民党副総裁脱税事件(1995年)、ゼネコン汚職事件(1993年)、大蔵省接待汚職事件(1998年)、ライブドア事件(2004)・・・そして、最近の日産ゴーン事件(2018年)など、世間を驚かせた大事件は、いずれも東京地検特捜部が捜査し、政界の実力者や経済界の大物を起訴・有罪に持ち込んでいます。
ちなみに、東京地検特捜部は現在は千代田区九段南の九段合同庁舎内の東京地方検察庁九段庁舎にありますが、以前は中央合同庁舎6号館A棟の8階にあったことから「8階が動いていると言われると永田町に戦慄が走る」と言われたりしました。また、東京地検特捜部に送検されると一審で有罪となる確率は99%以上、政治家の案件ではロッキード事件以降の捜査で完全無罪確定判決が出たことがない(ほとんどが控訴審有罪・上告棄却)ため、「不敗神話」と言われています。
さて、現在、日本中どころか、世界中、特にフランスを巻き込んで大騒ぎになっているのが、日産自動車の元会長カルロス・ゴーンさんの件です(まだ、容疑者であって、有罪・無罪が確定していませんので、ここでは“さん”付けで書きます)。
ブラジル生まれのゴーンさんは、両親の故郷レバノンで育ち、大学からフランスに渡っています。その後、タイヤメーカーのミシュランに就職し18年の勤務で好成績をあげます。その実績が評価されてルノーの上席副社長としてヘッドハンティングされます。ここでもルノーの再建に手腕を発揮しました。
そして、日産の再生を託されて日本にやってきたのが1999年でした。以来、日産を再び世界的メーカーに押し上げ、世界が注目する経営者となりました。最近は、ルノーと三菱自動車工業の経営にも携わり、世界的カリスマ経営者として君臨していましたが。
年収約20憶円と言われているゴーンさんですが、前職からキャリアアップするたびに年収も高騰していくという、金額の代償はありますが典型的な欧米パターンと言えるでしょう。日本ではごく一部の人でしょうけど、世界的に見ますとビジネス社会では一般的な栄転の仕方と言えるでしょう。逆に言えば、報酬がアップすることを求めて人々は転職していくのです。
これと同じだと考えてもいいのが、プロ野球のFA制度でしょう。
FA宣言をした選手が、「自分の評価を聞いてみたい」と言っていますが、早い話が「年俸としてどのくらいをもらえますか」ということだと思います。中には「お金じゃないのよ」という場合もあるでしょうけど、やっぱりそれなりに年俸は上がっています。実績を残した選手だけが手にできる特権ですから、胸を張っていいと思いますが、「その選手にそれはないでしょう」と思えないこともあります。ただ、その分、年俸相応の活躍ができなかったときのリスクもあることは確かでしょう。
ゴーンさんにしても、FA移籍選手にしても、人間、高額の報酬の中で期待されているのは、年俸に見合う働きだと思います。応分な活躍があれば誰もが認めるところでしょう。
FA移籍選手の場合、球団内もあるでしょうけど、ファンから見放されてしまうことになったら、お終いでしょう。ゴーンさんの場合は、株主を含めた日産内外の不満もあり、今回のような逮捕劇につながったのでしょう。
なお、ゴーンさんは罪状については否認しているそうで、罪を認めることはなさそうです。また、弁護団には元東京地検特捜部長の弁護士が加わったとのことです。この弁護士は、かつてライブドア事件や村上ファンドによるインサイダー事件などを手がけた元特捜のエースだった人です。ほかにも元検事や国際法に詳しい弁護士らを集め、自らへの事件に徹底抗戦の構えです。
「特捜 vs. 元特捜の弁護士」はどちらに。
ちなみに、プロ野球脱税事件(1997年)は名古屋地検特捜部が担当していました。プロ野球と特捜部は変なところで関係していたのです。