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小さな歴史『ロンドン狂瀾』中路啓太

2016-03-08 | books
第一次世界大戦を経験し、世界は平和を求め、軍縮を求める。1922年のワシントン海軍軍縮条約では戦艦や空母のいわゆる主力艦については米英:日:仏伊の保有艦の総排水量比率を5:3:1.75と定めた。しかし1万トン以下の巡洋艦については制限がなかったので、抜け道になってしまった。1927年のジュネーブ海軍軍縮会議では合意に至らなかった。そして1929年ロンドン海軍軍縮会議が開かれることになった。日本は対英対米7割は死守したい。特に軍部からの突き上げはキツイ。首相浜口雄幸、外務大臣幣原喜重郎は元首相の若槻礼次郎に白羽の矢を立てる。首席全権として会議に出席してもらうのだ。サポートは外務省の情報部長の雑賀潤に頼もう。さて、会議はうまくいくのだろうか。対外強硬の軍部を協調路線の浜口、幣原、若槻はどう抑えていくのだろうか…

ロンドン海軍軍縮会議、ネタはたった一つだけ。ただそれだけを描く。にもかかわらず、分厚い。何しろ、若槻が首席全権になることを決めるまで、92頁もかかった。

しかし、面白かった。ひどく面白かった。

山本五十六や東郷平八郎といった戦争の「英雄」 吉田茂、田中義一、西園寺公望、岡田啓介といった「有名政治家」などが生き生きとしたキャラクターとして登場する。統帥権干犯問題のような複雑な法解釈の話もいい。(浜口首相を襲った佐郷屋留雄が、「なぜ首相を襲ったのか」と尋問されて、「浜口が陛下の統帥権を干犯したからだ」と答えた。しかし「統帥権干犯とは何か」と問われると、答えられなかったそうだ)

ロンドン海軍軍縮会議という一つの舞台を通して、描かれる人間ドラマだった。(日本史の勉強として読むには、だいぶマニアックな気がする…)

軍人と文人の対立というのは古今東西普遍的に同じような形で存在する、そう考えてよいのだろうか。

ロンドン狂瀾

今日の一曲

ロンドンの歌、ということでBlurで"For Tomorrow"



では、また。
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