「警官の紋章」佐々木譲 角川春樹事務所 2008年
「笑う警官」「警察庁から来た男」に続く北海道警シリーズ第三弾
冒頭、翌日公判での証言を控えた男が友人に電話をかけ、証言をしない旨を伝えた後、踏切自殺を遂げる。自殺した者は誰かすぐに分かるが、電話をかけた相手は誰かのだろうか。そんなことはお構いなしに、その後は二つのエピソードが関係がないかの如くに進む。一つは「笑う警官」からの引っ張りで、読んだ人なら覚えているであろう郡司事件。盗難車の密輸と麻薬事件が道警のやらせだったのか、個人の暴走だったのか。この事件に佐伯という刑事がしつこく絡んでいく。もう一つは踏切自殺した警官の息子は優良な警官であるのだが、その息子が行方不明になる。時は折りしも洞爺湖サミットの直前。この失踪警官がテロを起こそうとしているのではないだろうか。その謎を津久井が追う。佐伯も津久井も前作で登場している。
私は、「笑う警官」は面白く読ませてもらったが、続く「警察庁から来た男」を読んでいない。「警官の紋章」が出たときに、この間のPART2にあたる作品が存在することを知った。しかし、どうせ読んでいなくても問題ないだろう。とたかをくくって読み始めた。すると、早速前の話が何度となく出てくる。しかも読んでいないとよく分からない。ので、一旦読むのをやめた。それから一週間以上この「警官の紋章」を放置し熟成させたら、なんだか読んでくれという顔になっていたので読んだ。一気に。
いやいや。震えた。暖房が壊れたから。そうではなくて佐々木譲のプロット、登場人物造形、最後のまとめ方、文体全てに震えた。「警察庁から来た男」を読んでいないにも関わらず、「笑う警官」を読んで(といってもすっかり忘れた)記憶だけで充分に対応できた。なんだか訳が分からなかったと感じたのは最初の方だけ。
二つの無関係なエピソードが続くとは言っても、元はどちらも郡司事件から来てる(ネタバレしない程度に書いておくと、郡司という刑事が派手に拳銃の検挙を数多くあげていたということと麻薬の売買に手を染めていたのではないかという疑惑とさらに道警の裏金にも大きく関係して道警を揺るがす大変な事態に・・・以下削除)この「笑う警官」のときのネタがまだ続いているというのもまた凄い。「警官の紋章」内の二つのエピソードがどこかで収束に向かうんだろうと想像しつつ読んでいたが、まさかそのタイミングで、まさかその情報を元に収束するのかと驚いた。(作家の使命の一つは読者を死ぬほど驚かせることにある)冒頭に自殺者が電話をかける相手が誰なのか分からないと書いたが、これが後になってボディブローのように効いてくる。佐々木譲はボクサーか?
いわば全ての謎が解決(読者にとっては謎が解けたという意味)したときに、その動機のあまりにも日常的なことに震えた。文字通り震えた。おぞましい殺人事件にはおぞましい動機(普通、周囲の友人が持っているとは思えない心情)があったり、あるいはおぞましい事件に裏には痛ましい、悲しい、同情すべき動機があったりする(松本清張の「砂の器」とか)しかし、「警官の紋章」で結局明らかになったことに、そしてその異常性の無さになんとも心の底の方が寒くなった。
と書くとそれがとてもこの作品で大事なことのように思われるかも知れないが、たぶんそうでもない。一般的な読みどころはなんと言ってもそれまでの第一弾、第二弾で出てきたエピソードがそれ単体で終わらせるものではなく、それを想起させながらきちんと決着をつけるこということだろう。最初から三部構成で書いたのかどうかは知らないが、そうであってもなくても傑作は傑作であり読んで面白ければその裏側に何があったかは我々読者には関係ない。
単体で「警官の紋章」を読む場合、75%の堪能率である。「笑う警官」→「警察庁から来た男」と読んだ後に読む場合120%の堪能率である(総務省調べ)そうそう。元々「笑う警官」は「うたう警官」だったのをタイトル変更したということも鑑みて「警官の紋章」というタイトルにも深い意味があったことを後になってしみじみ思う。(「笑う警官」と言えば、M・シューヴァル&P・ヴァールーのマルティン・ベックシリーズだ。しかし中学生の頃に読んだため忘れてしまった。無論佐々木氏が意識しなかったわけはなかろう)
※追記
「笑う警官」は2009年秋映画公開予定
「警官の血」はテレビ朝日系列で2/7と2/8 21時から2夜連続放送
ちょうど一年前に書いた、「警官の血」のレビュー
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すごく好きなブログです。本のこと、映画のこと、ちょっと私と感性が似てるかもと思いながら楽しく読んでいます。
すごく気になってること。「た・す・け・て」はどう読むのか?ヒントください。お願いしますm(u_u)m
過分な褒め言葉、恐縮です。
私にとっては自分と80%ぐらい感性が似ている人の意見が一番参考になりますね。
ところで「た・す・け・て」とは何のことでしょうか?
と思って過去記事を調べたら
http://blog.goo.ne.jp/full-chin/e/e2f3ab3e7f06eb74f6ba9efda5b1a01f
のことですよね。書いたこと忘れてました。
ヒントですか。携帯から読んでいると改行がおかしくなって読めないということでどうでしょうか。
会社のPCで人目を忍んで見てみます。ありがとうございます。
やはり携帯でしたか。
このブログ昨年くらいからどういうわけか携帯からのアクセスが増えているようです。
しかし、自分は携帯からネット接続することはめったにないため
携帯から読むということを考えずに記事を書いております。
私ならこんな字が多いブログを携帯から読むなんて無理ですね(笑)
欲しいんですけどね…
マイ携帯持ってないんです・・・(嘘です)
PCや携帯を使いこなしているというよりも
PCや携帯に使いこなされているような気がする昨今です。
できればPCも携帯も捨ててしまいたいところですがそうもいきません(笑)
マイPC持ってない。いいじゃないですか。