1955年から話は始まる。実話に基づいているとのこと。冒頭、ヘレン・ミレンが旦那さんにネクタイを締めてあげている。どうやら彼の仕事の面接があるらしい。その面接がある会社まで彼女が車で送ってあげる。面接でその会社が求人しているのは訪問販売だと分かる。その面接で彼は落ちてしまう。しょげてビルの外に出ると、そこにはヘレン・ミレンが。「この地区で最も売り上げの少ない所の担当にしてもらうように言いなさい。それなら何も失う物はないのだから、大丈夫なはず」なるほど。怖い奥さんのアドバイスによって、仕事を得ることになった、彼ビル・ポーター。
さて、この初めのシーン数分だけで、3回驚いた。
・彼は言語に障害があり、上手く話せない。
・彼は右手がない、もしくはあっても動かない(義手かも知れない)
・ヘレン・ミレンは奥さんではなかった。母親だった。
この3つ目の 彼女=母 は特にその後の展開を多少予感させつつのいい意味での驚きを与えてくれた。
ネタバレしないように少し筋に触れると、ビル・ポーターの鞄とは、訪問販売の仕事について会社から支給されたブリーフ・ケースの事。ドクターバッグとかダレスバッグのようにも見える。原題のDoor to Doorとは訪問販売のこと。ビル・ポーターがきっとこのDoor to Doorビジネスで大成功を収めていくのだろうと、「だってこれ映画だもん」的視線で観ていると肩透かしをくらった。失敗したというよりは成功したのだが、「大」成功とまではいかない。しかし、ある地区を担当することになって、彼の訪問販売がどのように「最初は門前払いしていた人たちが、いつの日か喜んで迎え入れていたのか」を知るのは面白い。
見所は、「セールス、営業の仕事をしている貴方が非常に参考になる必殺営業トークを学べる」というような汚れた見方をすることによって見て取ることができるのではなく、
何と言っても、主役のビル・ポーターを演じた。ウィリアム・H・メイシーだろう。言語と体のハンデキャップを演じることもあるし、1950年代の彼から1990年台の彼まで演じることもまたある。少しずつ老けてゆくのだが、ビジュアルの見せ方もまた上手い。
障害がある人が必死に生きている様というのは、他に「赤ちゃん」「動物」と合わせて映画界ヒットの三種の神器と言ってよいだろう。だからあまりそこを評価したくはない。そこだけを観てしまうとこてこてになってしまう。そうではなく上記のメイシーのちょっと信じがたいほどの演技、後は自分のハンデキャップに同情されることを非常に嫌うビル・ポーターの生き方についてどう考えるかという辺りだろうか。
あまり言いたくはないのだが、必死に石に齧り付くようにして生きているとその先には必ず何かが見えてくるのかも知れない、とは思いたくないのに思ってしまった。こういう似合わないことを思うたびに、俺って結構普通なんだよなーとしみじみしたりする。
今日の教訓
「俺の鞄」
詰まっているのは
砕けた夢の欠片なのさ
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