咲き乱れた桜から始まる、春の散策。
なんだかごたごたしている高田馬場駅から、護岸工事された神田川を歩く。
明治通りを渡って、交差点で90度にカーブする都電荒川線を横目にまた川沿いの散策路に入る。
最近、日中の気温が高いことは感じていたのだが、知らないうちに桜が満開になっていた。
川に架かる橋には近所の工場の人か、作業着を着た幾人かの人がスマートフォンで写真を撮影している。
時間はまもなく12時半をまわったところなので、お昼休みなのだろう。
工事の為に途中から散策路は封鎖されているが、虚空をさまようクレーンと桜のミスマッチがおもしろい。
神田川は新宿区と豊島区の境になっていて、橋を渡ると豊島区に変わった。
狭い路地を進めば上り坂にぶつかる。登れば目白台に着くのだが、相当の高低差だ。
そのため周辺には多くの坂道が存在している。
坂登りはとっておいて、台地の崖に沿って歩く。
狭い道路を頻繁に車が駆け抜けていくから、心落ち着かずに公園に逃げ込む。
立派な門には「新江戸川公園」とある。
砂利の広場を抜けると、回遊式庭園のようになっている。
桜も咲いて、芝生も鮮やかで春の訪れをゆっくりと感じながら散策ができる。
しかしながら豪雪の爪跡なのか、不自然に折れた松の木を見つけた。
虚空に立つ松の木は、先程の桜並木のクレーン車をにも似いている。
コースは池を取り囲むように整備されていて、そのほかにも枝道があるようだが、倒木のため通行止め。
今年の冬は厳しかったんだな、と今さらになって思い返す。
終盤に、小さな小川を飛び石で渡る。
地上に生えるべき草が、水中から生えていて可愛らしい。
公園を出ると、もう一度神田川と並走してから、右手に迫ってきた崖を登ることにする。
ちょうど良いところに坂道もある。
車の通る事ができない狭い坂の名前は「胸突坂」。
坂道は両側に草木が茂る。
まだ芽吹いていない木もあるから、夏ごろにはもっと鬱蒼とした雰囲気になるのだと思う。
片方の塀が高いから、切通しのように見えなくもない。
右手には関口芭蕉庵、反対側には水神社が建っている。
芭蕉庵というと深川を思い浮かべるが、この地にも数年間住んでいたといわれている。
登ってみると、さほど急傾斜とは思わないが、路が細いために長く感じる。
途中には休憩できるスペースが付いているからありがたい。
石でつくられた椅子に座って、坂道の塀でも観察してみる。
石積みがはっきりとわかる塀も素敵だが、塀の向こうに見える瓦屋根や樹木が絵になる。
坂道を登りきってもしばらくは現実から忘れ去られたような雰囲気が味わえる。
自動車の流れる道をつくると現代化が進んでしまうのだが、自動車の通る事の出来ない細道や行き止まりの道は時代に取り残される。
そのため、比較的古い時代の風景を残してくれるから嬉しい。
目白通りにぶつかると一気に現実に戻されてしまうのだ。
現実逃避したくなって、知らない路地に入ったら行き止まりだった。