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町おこし058:証拠の写真

2018-03-23 | 小説「町おこしの賦」
町おこし058:証拠の写真
――第2部:痛いよ、詩織!

 菅谷幸史郎は、生徒会副委員長・柔道部の野方智彦に用事があって、部室に向かっていた。近道をしようと、運動部の部室棟の裏を通ることにする。開け放たれた窓からは、汗の匂いが立ちこめていた。そこで菅谷は、タバコを吸っている人影を認めた。
 近寄ってみると、生徒会長選挙を戦った越川翔たちだった。菅谷が近寄っても、彼らは悠然と紫煙を上げたままだった。
「きみたち、タバコはいかん」
「おお、生徒会長さまのお出ましだぜ」

 越川翔と並んで、菅谷をにらみつけているのは前島豊だった。彼は以前、恭二にもからんでいる。前島はドスのきいた声で、「おまえは、慈善ごっこをしていりゃいいんだ。うせろ」といった。すでに拳を固めている。越川が一歩前に、踏み出してきた。
 幸史郎は胸ポケットから、スマートフォンを引き抜く。カシャカシャと、連続音が鳴った。
「何を撮ったんだ」
 越川がいぶかしそうに、つめ寄ってきた。
「証拠写真だよ。おれにちょっとでも触れてみろ。刑事事件にして、損害賠償をしてやる」
「てめぇ、ちょっと図に乗り過ぎてないか」
「おまえたちみたいな、ワルは許さん。さあ殴ってこいよ」
「止めよう。ばかばかしい、こいつ、びびってやがるんだ」
「おい、越川。今度タバコの現場を見つけたら、二度と吸えないような口にしてやる」

「先輩に向かって、呼び捨てはないだろう」
 前島が殴りかかってきた。菅谷は右手で相手の拳を払いのけ、素早い動きで足を払った。どっさり倒れた前島の頭上で、またシャッター音が響いた。あ然としている越川の胸をつかみ、菅谷は自分の頭越しに、カメラを驚愕する顔に向ける。シャッター音が鳴る。
「いい子になれよな、越川くん」
 菅谷は何ごともなかったかのように、二人に背中を向けた。肉体労働で鍛えた身体は、学生服を引き裂くように盛り上がっている。

 その場に一緒にいた穴吹健二は、震えながら幸史郎の後ろ姿を見ている。健二は自分の境遇を、幸史郎と重ねている。彼は貧乏のどん底にいた。高校へ進学するために、土木作業員をして資金を貯めた。
 健二は彼に比べたら、自分の方がはるかに幸せだと思った。そして自分自身が、情けなくなった。

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