春とウンチと初恋と

あれは、そう・・僕がまだ小学2年の時。
ちょうど今頃の季節、午後の授業中の事だった。
その日は朝からお腹の調子が悪く、僕は断続的に
迫り来る便意と必死に格闘していた。
授業はまだ始まったばかり。授業中にトイレに行く事
など当時の僕にはとても考えられない事であり、
ただただ早く休み時間がくる事を願っていた。
担任は1年から引き続き若くてきれいな女の先生で、
恥ずかしいというのもあった。

油汗を額に浮かべ、身をよじりながらもノートの
書き取りに集中しようとするが、それは無理な話だ。
字を書き間違い、あわてて消しゴムで消そうと
手に力を入れた瞬間・・。

「あ・・・・・。」

力の無く情け無い声と共に、お尻とパンツの間に
圧迫された柔らかい物が拡散していくのを感じた。
『終わった・・・。』
これから小学校を卒業するまで、僕は『ウンコたれ』
のあだ名でずっと呼ばれ続ける事になるんだ・・。
あきらめの境地に達した僕は、
「先生・・トイレに行かせてください・・。」と
弱々しく言うと、教室を後にした。

個室に入りお腹に残った物をすべて出しきった後、
汚れたパンツをどうしようかと途方に暮れていたら
ドアの外から先生の声がした。
「大丈夫？パンツ汚れたんじゃないの？」
先生にはすべてお見通しだった。教室を出る時、僕は
よっぽど泣きそうな顔でもしていたんだろう。
「はい・・・。」
「パンツ脱ぎなさい。洗っといてあげるから。」
僕は言われる通りパンツを脱ぎ、ドアの隙間から
先生に渡した。
「心配しなくていいからね。」
「・・・。」

うれしくて涙が出た。なんて優しい先生・・。
これが僕の初恋だった。

教室に戻ったらクラスメートに何か言われるんじゃ
ないかと心配していたが、全く気にもしてない様子で
少し拍子抜けした。ひょっとしたら先生が何か言って
おいてくれたのかもしれない。
その後ノーパンのまま授業を無事終えたが、帰る前の
掃除で床の雑巾がけをする時に後ろから見えるんじゃ
ないかと気が気ではなかった。
（当時は男子はみんな半ズボンだったので。）
帰る時に先生から、きれいに洗ってビニール袋に
入れられたパンツをこっそり渡された。
「一応洗っといたけど、帰ってからお母さんに言って
洗いなおしてもらいなさい。」
「はい・・。」
僕はそれを真っ赤な顔をして受け取り、帰宅した。

それから数ヶ月後のホームルームの時、先生から
『結婚するので先生を辞める事になった』という
話を聞いた。
結婚相手の写真を見せてもらったが、髭ぼうぼうで
黒ぶち眼鏡をかけた、むさくるしいおっさん。
『何で、こんな男と・・騙されちゃダメだ先生！』
と思ったがもちろん口に出せるはずも無く、僕の淡い
恋心は早々と終わりを告げた。

この季節になると、たまに先生の事を思い出す。
今思うと、黒ぶち眼鏡の奥の目はとても優しそうな
瞳だった。きっと子供もいっぱい出来て、幸せに
暮らしているに違いない。
先生、お幸せに。