本朝徒然噺

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坂田藤十郎襲名披露興行を観に大阪・松竹座へ

2006年07月15日 | キモノでお出かけ
<お出かけ先>大阪・松竹座(七月大歌舞伎)
<着物>青磁色の絽鮫小紋
<帯>淡い藤色に幾何学模様の紗名古屋帯
<帯揚げ>水色の絽
<帯締め>青緑色の夏用帯締め
<根付け>波に千鳥の、銀製の根付け

紗名古屋帯

7月15日~17日の3連休、大阪と京都へ行ってきました。
今回の旅の最大の目的は、大阪・松竹座での坂田藤十郎襲名披露興行の観劇です。
連休初日、早朝の新幹線で大阪へ向かい、昼の部・夜の部を通しで観てから、京都へ向かいました。
連休2日目と3日目は、祇園祭の宵山と山鉾巡行を見物しました。
今回も、あちこち歩き回ってハードな旅でしたが(笑)、とても楽しめました。

遅ればせながら、旅日記も順次アップしていく予定です。

■この日のキモノについて

襲名披露興行を観るので、暑い日でしたが頑張って絹モノを着て行きました!
もちろん、家から着て行って、これで新幹線に乗りました。キモノを着て新幹線に乗るのにはすっかり慣れたので(笑)、衿元が汚れないように手ぬぐいをかけてグーグー寝ていました。
冒頭の写真は松竹座に着いてから撮ったものですが、着くずれしていなかったのでよかったです。

暑い日だったので、帯は紗の名古屋帯にしました。
インターネットのセールで数年前に買ったのですが、今回初めて締めました。
絽塩瀬や絽袋帯に比べると、数段軽くて涼しく感じられました。

■劇場案内

松竹座外観
↑松竹座外観。「坂田藤十郎襲名披露」と書かれた「のぼり」が立てられています。
松竹座は、日本で初めての西洋式建築の劇場です。

「京鹿子娘道成寺」パネル写真 「夏祭浪花鑑」パネル写真
↑正面玄関の両脇には、坂田藤十郎襲名披露狂言の大きなパネル写真が飾られていました。京鹿子娘道成寺(左)と夏祭浪花鑑(右)です。

「京鹿子娘道成寺」の絵
↑1階ロビーには、坂田藤十郎丈が演じる「京鹿子娘道成寺」の絵が飾られていました。これは、藤十郎丈が「2代目中村扇雀」を名乗っていたころ描かれたものだそうです。

坂田藤十郎襲名披露の祝い幕
↑舞台には、襲名披露のお祝いとして贔屓から贈られた祝い幕がかけられていました。

祝い幕の箱
↑2階ロビーには、祝い幕の入っていた大きな箱が飾られていました。

劇場の至るところが、襲名披露のお祝いムードに満ちていて、お芝居が始まる前や幕間の休憩時間も楽しめました。

■この日のカブキについて

日程を有効に使うため、がんばって昼夜通しで観ました。

昼の部の演目は「信州川中島」「連獅子」「口上」「夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)」、夜の部は「一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)」「京鹿子娘道成寺」「魚屋宗五郎」です。

(1)信州川中島

私の好きな片岡我當丈と片岡秀太郎丈が共演されていて、いつもながら、ご兄弟ならではの息の合った演技を披露されていました。
秀太郎丈扮する、口の不自由な嫁・お勝が姑を助けようと、琴を弾きながら(口が不自由なため普通にはうまくしゃべらないけれど、琴にあわせて歌うとすんなり言葉が出てくる、という役どころなのです)我當丈扮する長尾輝虎を必死で止める場面には、思わず見入ってしまいました。
秀太郎丈は何と、ご自分で琴を弾きながら、輝虎を止める演技をしていたのです。役者さんって、ほんとに多才だなあ……と思いました。

(2)連獅子

中村翫雀丈と中村壱太郎さんによる親子競演です。
とにかく迫力があって、それでいてきれいで、思わず食い入るように観てしまいました。
翫雀丈の踊りはきれいだし、壱太郎さんの踊りもとても素直な良い踊りだし、何よりも親子ならではのぴったりと息の合った踊りでした。客席も大いにわいていました。

(3)口上

今回の興行でも、東西の豪華な顔ぶれがそろって次々と藤十郎の襲名を祝う言葉を述べていました。
尾上菊五郎丈が「藤十郎のおにいさんと私には一つ共通点があって、それは『奥様がコワイ』ということでございます」と言って笑いを誘っていました(笑)。

(3)夏祭浪花鑑

中村勘三郎丈がニューヨーク公演でやったことでも有名な演目ですが、なんと意外にも、藤十郎丈が演じるのは今回が初めてだそうです。
藤十郎丈演じる団七が登場する場面と、最後の有名な「舅殺し」の場面は覚醒していたのですが、それ以外の場面はわりと単調なのでちょっと眠くなってしまいました……。
「舅殺し」の場面は、藤十郎丈の鬼気迫る演技と、市川段四郎丈の泥まみれになりながらの迫真の演技に、思わず見入ってしまいました。舅の体に刀をぐいぐいと押し込むところは、思わず「痛そう……」と心の中でつぶやいてしまいました(笑)。
最後にはお神輿も登場し、天神祭を目前に控えた夏の大阪にふさわしい、季節感を味わえる一幕でした。

(5)一條大蔵譚

主な出演者は片岡仁左衛門丈、片岡秀太郎丈、片岡孝太郎さん、片岡愛之助さんと、まさに「松嶋屋そろいぶみ」といった芝居でした。
松嶋屋さんは好きなのでうれしいんですが……これだけそろってしまうと、なんとなく芝居の“毛色”が似てしまって、ちょっと眠くなってしまいました……。
そんなとき、松嶋屋さんがずらりと居並ぶなかにさっそうと現れたのは、市川團蔵丈。團蔵丈の、よく通るお声と抑揚のある台詞まわし、スケールのある芝居で、一気に目が覚めました。思わず心の中で「三河屋!」と叫んでしまいました(笑)。

仁左衛門丈扮する一條大蔵卿が、阿呆を装った姿から平家討伐を志す勇壮な姿へと「ぶっ返り」で瞬時に変身するクライマックスの場面では、仁左衛門丈がさすがの貫禄を示していて、思わず見入ってしまいました。

(6)京鹿子娘道成寺

昼の部の「夏祭浪花鑑」に続き、坂田藤十郎襲名披露の演目です。
言わずと知れた長唄舞踊の名曲です。
白拍子花子が登場する場面では、演目にちなんで鹿の子模様をあしらったあでやかな衣装に身を包んだ藤十郎丈に、客席から大きな拍手と「きれい~」という声が上がっていました。
次々と衣装を変えながら、さまざまな踊りを披露する藤十郎丈に、最後まで客席は釘付けになっていました。

中村翫雀丈、片岡孝太郎さん、片岡愛之助さん、中村壱太郎さんほか、上方の若手の役者さんたちが演じる「所化(しょけ)」も、舞台に華を添えていました。

藤十郎丈の踊りのほかにもう一つ、私にとって大きな楽しみだったのが、三味線です。
私は、江戸長唄の流派の一つ「池之端派」の三味線を習っていると、以前に書いたことがありますが、今回、「道成寺」の立三味線(いちばん中心になって弾く三味線)を、池之端派の家元がつとめておられたのです。
池之端派の方たちは近年、歌舞伎長唄から遠ざかっていました(家元も私の師匠も、若かりし頃には歌舞伎座にあがっていたらしいのですが……)。それが今回、歌舞伎の「ひな壇」に、しかも立三味線で上がるなんて、実はとても画期的なことなのです。

チケットを買ったときは、家元が出演されることをまったく知らなかったのですが、直前になってそれを知り、ワクワクしていました。
思いもかけず貴重な舞台を見ることができて、とてもラッキーでした。

今から何年か前、藤十郎丈(当時・鴈治郎丈)が比叡山の薪歌舞伎に出演された際、家元や私の師匠が三味線を弾いたそうなのですが、そのときに藤十郎丈がとても気に入ってくださって、「私が『道成寺』をやるときはぜひ三味線をお願いします」と家元におっしゃったのだそうです。

それを、社交辞令ではなくちゃんと実現されるところが、藤十郎丈のすごいところだと思います。
興行主である松竹の説得など、現実にはきっと大変なことがたくさんあったのだと思うのですが、臆せずご自分の考えを貫く藤十郎丈には、まさに頭の下がる思いがします。
藤十郎丈はまさに「有言実行」の人なんだなあ……と、あらためて思いました。

(7)魚屋宗五郎

尾上菊五郎丈を中心とした「江戸前の芝居」です。
菊五郎丈扮する宗五郎の、歯切れと気風のよさに、胸がスカっとします。
お屋敷へ奉公していた妹を理不尽に手討ちにされて怒った宗五郎が、酔った勢いで屋敷へ乗り込んで行こうとする場面があるのですが、酒樽を持って花道の七三で見栄を切る菊五郎丈のカタチがとにかく良くて、客席からは大きな歓声と拍手がわいていました。
世話女房を演じる中村時蔵丈のほか、市川團蔵丈、河原崎権十郎丈、市川段四郎丈、大谷友右衛門丈など、江戸を代表する役者さんたちが大勢そろっていて、小気味よいテンポのお芝居になっていました。
江戸前の芝居ですが、大阪のお客さんたちも大いに楽しんでくださっていたようでした。


睡眠不足のまま朝早くから起きて着物を着て新幹線で移動し、昼夜通しで観劇というハードスケジュールでしたが、お芝居を観ているうちに、仕事や移動の疲れも時間も忘れてしまいました。

劇場に行く途中で買って行った、松竹座近くの「丸万寿司」の大阪寿司や、松竹座の地下の豆腐料理店で食べた幕間弁当も、とてもおいしかったです。
楽しい芝居を観ておいしいものを食べて、有意義かつ幸せな一日を過ごすことができました。

夜の部が終わって劇場を出たら、夜の9時。
松竹座のある道頓堀には、ネオンが輝いていました。

夜の道頓堀



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