今晩は、ふぶきです。

「CITY HUNTER」を中心に、北条司作品について語ってみます。

恋愛問題、再考。 その4

2008-05-26 03:54:41 | CH論
今晩は、ふぶきです。

2ヶ月以上も間が開いてしまいましたが、続きです。

『何故、香だったのか。』
結構考え込んじゃったんですよ。難しかった。(間が開いたのはその所為ではありませんが)
で、順番に考えてみました。

香とはどんな女か。他の女達と何処が違うのか。

CHに出てくる女性たちは、見た目だけじゃなく、いい女である場合が多い。
芯の強さと言うか、生きる強さを持っている。
困難の前に挫けそうになっているが、リョウのお陰でその強さを取り戻し、より美しく甦っている。
そんな女性が多い。

香も芯の強い女です。ですが彼女だけじゃないんですよね。
特に、レギュラー陣の女性たちはみんなツワモノです。
うーん、香だけを特化出来ません。

香は優しい女でもあります。
傷ついた心を癒す優しさや思いやりを持っています。
でも、それも彼女だけのものではありません。

そんなこんなを考えた末に、香にあって他の女性達にないのものは何か、を探さなくてはと思いました。
で、思い当たったのが…。

香は女を武器に使わない。

女の色香をもろに使う冴子は極端な例ですが、出てくる女性たちは皆、女を感じさせるんですよね。リョウをもっこりさせるような。
一部、18歳未満の少女達に例外はありますが。

まだリョウをもっこりさせてた初期の頃の香は、自分のことを“おれ”と呼ぶ男前のお姉さんでした。
自分のことを“あたし”と言うようになっても、己には色気がないのだと思い込まされていましたから、ハンサムな女って感じでした。
ヘアスタイルはショート。行動は大胆。
リョウにハンマーを打ち下ろす姿は女っぽさからはかけ離れている。

つまり、香は女を武器に使わない女として、リョウの周りにいる多くの女性たちとは違う、特別な存在として君臨する訳です。

そしてもう一つ。殆ど禁じ手とも言える、他の女性たちと違う点。
それは、香が槇村の妹であったこと。

死なせてしまった相棒の妹。
『頼む』と言われて預かった女。
たとえその立場が、香の意志で勝ち得たものではなくても、香を作る重要な部分。
だから、護り続けなければならない特別な存在として、香は君臨する。


でもね、いろいろとリョウが香を愛する理由を考えてみましたが、『何故、香だったのか。』ではないと思うに至りました。
つまり、『槇村香だったから』なのですよ、リョウが香を愛する理由は。

人が他人を愛するのに理由はいらない。
そこにいて、出会ってしまったから、愛してしまった。
私は運命論者ではありませんから、それを運命とはいいません。
「成り行き」です。
きっと、リョウも尋ねられたら、そんな風に云うに違いない、と思う訳です。


「香! おまえは今から 女じゃない! おれの相棒だ!!」
「おれもおまえを 女とは 思わない!! おれに ついて くるか!?」

恋愛問題、再考。 その3

2008-03-19 03:24:06 | CH論
今晩は、ふぶきです。

護る者と護られる者というリョウと香の関係。
リョウの強い思い、それは香を護りたいという事。
この手で香を護りたい。香を護る者は、自分でありたい。自分なら出来る。自分しか出来ない。
だから香を護るためには、香を自分の側に置いておかなければならない。

男と女という立場でありながら、リョウが敢えてその事に目を瞑ったままにして、香と生活を共にして来たのは、もし、香を女として意識してしまえば、この共同生活を解消しなければならないと思っていたから。

思いは変化する。
香を手放したくない。
何時までも自分の側に置いておきたい。

リョウの仕事を手伝う内に、裏の世界に馴染んでいく香。
それでも、リョウからすれば素人同然。
リョウの理性は語りかける。
お互いの立場を思うなら、早く香を表の世界に帰すべきだ。
手放すべきだ、と。
リョウの感情がそれを拒む。
香を手放したくない。もう少し自分の側に置いておきたい。

その感情を何というのか。
リョウも、もう気付いていた筈。
それは、愛情だと。



さて、こんなもんでしょうか。
リョウが香に愛情を感じるまでの過程は辿れましたね。
でも、これじゃだけじゃ、香じゃなくてもよかったんじゃないか、とも思えます。
何故、香だったのか。
その辺の所をもうちょっと考えてみなくては…。

「…ホントの解決は …これからさ」

恋愛問題、再考。 その2

2008-03-17 02:24:39 | CH論
今晩は、ふぶきです。

『恋は盲目』とはよく言いますが、恋をしている時はいい所しか見えないし、見せないようにしてしまうのが本当の所。
それが、生活を伴うと、見えなかった粗が見えてきて、幻滅してしまうのもよくある話。

じゃあ、始めから生活を共にしていたら、そこに恋は生まれない?
いや、そうでもない。
本音の部分に恋をしたら、それは無敵の恋です。それが香の場合。

では、リョウは香に恋をしたか。
多分、してないと思う。
(AHのリョウは明らかに恋に落ちてた。でも、臆病だったから、あんなに時間がかかっちゃった、んじゃないかと思う。)

リョウにとって、恋は駆け引きを楽しむもの。
香はそんな駆け引きが通じる女性ではなかった(真っ直ぐすぎだもの)し、そんなことをしなくても、香との生活は十分楽しかった。
ただ、恋の相手ではないけど、何があっても護りたい存在。
そんな風に見ていたんじゃないのか。
動機は確かに槇村の遺言だった。
でも、そのうちそんな理由は棚上げしても、護りたかったんじゃないか。

リョウの生き様には危険が付きまとう。
そのリョウの側にいるということは、同様に危険に晒されるということ。
いくら男勝りとはいえ、素人だった香を側に置いた時から、リョウは香を護り切ろうと誓っていた筈。その位の甲斐性はあった筈。
だから、冴子の代わりに人身売買組織に攫われそうになった時、リョウはかなり動揺した。
幸い連れ出される前に助け出せたので、素直に喜ぶリョウが見られる。

そして、銀狐の襲撃。
リョウは改めて思い知る。自分の側に誰かを置くことの危険を。
香の身の安全を考え、リョウは香を手放すことを決心する。
この時のリョウには、香に対して、まだ意識した恋愛感情というものはなかったのではないか。
香を手放す結論を出すのに躊躇がなかったから。ただ、寂しさは感じていたと思う。

ところが、香のとんでもない行動の所為で、リョウの決心は容易く覆された。
なんとかなるだろ、と思うリョウの心情の底には、喜びと安堵があったに違いない。
ただ、これまで以上に、香を護り切ろうと心に刻み込んだことだろう。

こうして、香との生活を続けていくうちに、リョウにとって、香はどんどんと特別な存在になっていった。


「おれは 香を奴から 守ります!!
 そして さよなら……です!!」

恋愛問題、再考。 その1

2008-03-16 01:07:48 | CH論
今晩は、ふぶきです。

もう1度始めから考え直してみる気になりました。

未だ消化できない疑問、リョウが香を愛する理由は何か、ということ。

創作物だから、作為の上に成り立った恋愛だから、それを考察しても仕方ない気はします。
でも、考えたい。
自分を納得させたい。
と言う訳で、創作物であること、作為の上に成り立っていることに目を瞑って、登場人物の気持ちに立って、まるでそこにその人物が生きて、感じて、考えているとして、そう思ってみる事にしました。

では…。

そもそもリョウに恋愛ができるのか。
と言うより、リョウにとって恋愛は禁止事項だったのではないか。
口説いても本気ではない。恋の駆け引きを楽しむため。
だから相手が本気になると逃げる。
恋愛は女性を生き生きとし、美しくする。
だから仮初めの恋愛を仕立てて、傷ついた女性達に活力を与えると去っていく。
それが信条だったはず。
一歩間違えれば、とんでもないプレイボーイだが、何故かそうはならない。
リョウの中にどこか拒絶感があるから。
賢い女性達はその事を感じ取るからドロドロと後を引かない(ことになっている)。
そうして生きて来たし、そうして生きて行く筈だったのに。

相棒の妹の香。確かに見た目も行動も男勝りだが、もっこりもしないような女じゃない。
ただ、本来は特定の女性を側に置いておくつもりがなかったリョウとしては、元相棒の妹で男勝りな女ということを、自分自身に対するいい言い訳にして、香を側に置くことにしてしまう。
実際、最初はリョウも香もユニオンに狙われていたのだから、一緒にいた方が都合はよかった。
その危険が去っても、香を側に置いたままにしたのは何故だろう。
自分自身にした言い訳や槇村の遺言を理由にしてはいたがどうだろう。

それは…、楽しかったから。
香との共同生活は、思いの外、煩わしさより楽しさの方が勝っていたのではないか。
まさか、もっこりなしで一緒に暮らしていける女性が現れるとは、思ってもいない事だったのではないか。
更に、「もっこりしない女」、と自ら言い募る内に、本当にそう思いこんでいた節さえある。
槇村のように『妹』と言い切るほどの家族感はないまでも、口説き文句を紡ぐ必要のない女性との気安い日々は、基本的に一人で生きてきたリョウにとって、思いがけなく楽しい日々だったに違いない。
偶に、気安さのままで、女性として扱ってみようかと思ってみたこともあったが、香の反応の面白さに止めてしまった。
明らかに香は自分を好いていることが分っていたから。

(やっぱり続き物になっちゃいました。)


「こ…これでいい…… これで いつものふたりにもどった… これが一番いい関係だよ……」

「冴羽リョウ」という男 その変化

2007-02-07 00:35:42 | CH論
今晩は、ふぶきです。

今週のAH、展開が「想定内」なので、コメントはなし、ということで…。
そう言えば、S国とT国はちゃんとなってましたね。やっぱり、マオ皇子の国で間違いないそうです。彼が絡んでくるのは必然ですね。再登場を期待しましょう。


その間を縫って…、では、CH論を再開しましょう。

CHが掲載されていた「少年ジャンプ」には「ジャンプ三原則」=「友情・努力・勝利」というものがあるそうです。
漫画のテーマとして、友情を育みながら、努力をして、最後には勝利する、を掲げた「成長」の物語を第一義とする、ということですね。
一部例外はあるものの、ジャンプのヒット作はこういった話が多いです。
対象読者が小中学生なので、「成長」をテーマにすると、分りやすいし、主人公に同化しやすいし、受け入れられやすいですから、当然のことと思います。
その意味ではCHは異なる路線だったかもしれません。

CHの主人公「冴羽リョウ」は「成長」しません。「完成」された男です。
だからどちらかと言うと、成長の暁にある「理想像」を提示した話だったと思います。
少年達にはあんなカッコいい男になれたらとか、少女達にはあんなカッコいい男と出会えたらというような。
さらに、女性の「理想像」として香も提示されましたしね。

「大いなるマンネリズム」もありとは言え、連載のためには「変化」も必要です。
「成長」という「変化」が望めなければ、何を「変化」させればいいのか。
答えは……「男女間」つまりは恋愛関係。(ノリとしては少女マンガに近い?だから女性ファンの方が多いのか!?)

CHはハードボイルド(?)なアクション(?)コメディ(?)ですが、ラブ・ストーリーでもあります。
ヒロイン香は主人公リョウにとって、初めは親友の妹もしくは押しかけ相棒、次に女扱いはしないが相棒、更には親友の妹ではなく自分に必要なパートナー、最後には愛する者と立場を「変化」させていきます。
このヒロインへの心情の変化を読者はラブ・ストーリーとして楽しんだ訳です。
ただ、女扱いしない相棒の立場が長かっただけに、読者は随分とヤキモキしたことでしょう。
ようやっと親友の妹から脱却してもなかなかそれ以上に進まない。
挙句、最後に愛する者と表現したとは言え、恋愛関係のはっきりした決着は付けずに終わってしまった。
終わったような、終わらなかったような、曖昧な決着。
その後については全て読者の想像に任せました。
まあ、ふぶき的には恋愛問題の決着が結婚とかいった形でなかったことをよかったとは思ってますが。
何故なら、結婚が男女間の終着点ではありませんからね。

ところで、実はこの「男女間の変化」の他にも、大きな「変化」があったのですよね。
作者がこの「変化」を初めから意識していたかどうかは分りませんが…。
それは「冴羽リョウ」という男の生きる姿勢です。

前にも書きましたが彼は束縛を嫌う自由人として設定されましたが、それは「生への執着」についても同じだったと思います。
死を怖れない行動、それは死を求めているのではないかと思われる程。
依頼人には生きることを求め、そのためなら死を賭して戦ってもよいという姿勢。
そこに自分の生に対する執着は見られません。
ハードボイルドに始まった物語の主人公はそんな男だった。
その男が物語の最後には、愛する者と共に生き抜くために戦うと言い放った。
なんという「変化」でしょうか。
「愛の勝利」などと言ったら陳腐すぎるでしょうか。
この物語が「愛の賛歌」だなどと言ったら大げさでしょうか。
愛がすべてとは言わないまでも、愛が人を更に強くすると表現したこの物語の最後が、私は好きです。


「自分の愛する者が 自分のせいで目の前で死んでいく…そんなひどい仕打ちをすることが至上の愛か!?
おれは違うぜ おれは愛する者のために 何がなんでも 生きのびる!!
それが おれの 愛し方だ!!」

「冴羽リョウ」という男 その過去 その9

2006-12-22 05:09:02 | CH論
今晩は、ふぶきです。

《続きです》

彼と槇村はいいコンビだった。
刑事としても能力の高かった槇村は、彼の仕事の相棒としても有能だった。
また、生活者としてもきちんとしていた槇村は、いい加減な生活を送る彼を上手く御した。
彼は余計な世話と言いつつも、そんな槇村の存在を心地よい放し難いものとしていったに違いない。
彼と槇村は互いを強く信頼し合う親友同士となっていった。

ただ、彼には気がかりなことが一つあった。
それは槇村には家族が一人いた事だ。
槇村が溺愛する妹の存在。
彼はケニーのことを思い出さずにはいられなかっただろう。
同じ轍は二度と踏んではならない。

銃社会のアメリカに比べれば、日本は裏社会でも襲撃のレベルは低い。
槇村とて刑事であったという経歴からすれば、街のチンピラの扱いぐらいはこなせた。
しかし、彼は裏社会の者達に不文律を強いた。
彼やその相棒に逆らう、もしくは手を出したら、文字通り生きてはいけないと言うことを。
その代わりに彼は、裏社会の者達同士の縄張り争いや権力闘争には無関心だった――彼の依頼人に係わらない限りは。
バランスは保たれていた、ある時までは…。

彼は運命の女神に愛されすぎた男だったのかもしれない。
またもや女神の采配は振るわれた。

日本の裏社会の不文律を知らぬ者達が外からやって来た。
中南米を本拠とする麻薬密売組織ユニオン・テオーペが日本に進出をして来たのだ。
その組織は彼と槇村を、日本での勢力拡大のために利用するか排除するかのどちらかかしかないと判断した。

運命の時はカウントダウンを始めた…。

《「CITY HUNTER」第1話に続く》



…やっと正しい《続く》が出せました。
こんなに長くなるとは思ってもいませんでした。
書き出したら、これは言っておきたい、ここも押さえなきゃ、などと思え、結局、こんな長さになってしまいました。

内容については、中にはそうなのかなと、疑問を持つ所もあるのではないかと思います。
他のCHファンの方々の二次創作などの視点と異なる部分も多いかなとも思います。

皆さん、結構、槇村がお気に入りだし、槇村の影響をとっても大事にしている。
ふぶきも槇村はいいキャラだとは思っていますが、「シティーハンター」としてのリョウは、槇村と出会う以前に確立していると考えています。
その考えの上で、如何にして、リョウが「シティーハンター」となったのかを書きたかった。
上手く表現できたかどうかは分りませんが、これが精一杯ですね。

また、ふぶきは、リョウの本質は「明」だと思っています。
「暗」だと思いの方には、違和感のある内容だったかなとも思います。
確かにいろいろあったし、思い悩まざるを得ない経歴ですが、リョウの生き方の基本は「前向き」だと思ってますし、それが「CITY HUNTER」の魅力だと思っています。
そんな思いも込めて書いたつもりですが、これもまた、上手く表現できたかどうか、怪しいものですね。

実は、一つだけ書かなかったことがあります。
それは、何故、リョウがあんなにも女好きなのか、ということです。
自分なりの答えが出せていないんです。
まあ、「教授」の影響かな、とは思うんですけど、その辺の男性心理は理解できないので、すっぽりと抜けるようにして、書きませんでした。
本能のままに生きてきた結果としておこうかと思います。

以上、補足という言い訳でした。

こんな妄想駄文にお付き合いくださってありがとうございました。


「…しばらくの間 地獄はさびしいかもしれんが すぐに にぎやかにしてやるよ…………
 槇村……!!」

「冴羽リョウ」という男 その過去 その8

2006-12-20 23:12:31 | CH論
今晩は、ふぶきです。

《続きです》

「シティーハンター」の名が裏社会に定着し始めた頃だろうか。
彼に二人の刑事が近づいてきた。
一人はとても刑事とは思われないような美女、野上冴子。
もう一人は、別の意味で刑事とは思われないような冴えない男、槇村秀幸だった。
見た目には、コンビを組んでいるというのが信じられないような二人ではあったが、それぞれの瞳の奥に住まわせているのは、刑事としての鋭い勘と高い能力であると、彼は初対面で悟ったであろう。
この二人にはあまり関わらないほうがいいと、彼の本能は警告を発したろう。
だが、彼の希望は叶わなかった。

不思議な事に、二人は纏わり付いては来るものの、彼を捕らえる気はないらしい。
何故、二人の刑事は彼を捕らえようとしなかったのだろうか。
二人は彼が「シティーハンター」であることを確信して近づいて来た筈だ。
確かに彼が容易にシッポを出す訳はなかっただろうが、張り付いていれば、その機会もあっただろう。
しかし、二人は彼を捕らえなかった。
それは、法や組織に縛られた自分達よりも、彼の方が正しいやり方をしているのかもしれないと感じたからだろうか。
また、冴子は彼を利用することを考えたからかもしれない。
槇村は彼の姿勢に共感するものがあったからかもしれない。
とにかく、二人は彼が仕事をすることを黙認したのだった。
彼も初めは警戒していたろうが、そのうちに、あたかも古い付き合いの友人のように接するようになっていったに違いない。
刑事二人とスイーパー、もしくは男二人と美女、三人の微妙な関係が始まった。

槇村は刑事としては心根が優し過ぎたのかもしれない。
法や権力だけでは救いきれない弱者の心情に思い悩み、また、証拠主義と管理主義の警察に限界を感じていただろう。
槇村は、自由に何にも縛られることなく行動する彼を羨望の思いで見ていたに違いない。
そんな折、槇村は囮捜査失敗の責任を取らされ警察を追われた。
だから刑事を辞めた槇村が、彼に「仕事を手伝いたい」と言い出したのは自然な流れだったかもしれない。

当然彼は断ったが、槇村は否の返事を気にする風もなく彼の空間に入り込んで来たし、この数年の付き合いで分っていた槇村の性格からして諦めるしかなかったのだろう。
彼は槇村を相棒にした。

このことを聞いた冴子は驚き反対したろう。が、彼と同じく槇村を良く知る冴子は黙認せざるを得なかった。
冴子もまた槇村と同じように警察の限界を分ってはいたろう。
しかし、冴子は槇村とは逆に刑事で在り続けることにした。
エリートではあっても女であるというハンデも持っていた冴子は、だからこそ組織の中で強かに生き抜いていこうと決めたのだろう。
それが彼と槇村のためにもなると信じて…。

《続く》


「そうでもないぜ 未だに槇村のこと 想ってることだって知ってるさ」

「冴羽リョウ」という男 その過去 その7

2006-12-14 22:23:11 | CH論
今晩は、ふぶきです。

《続きです》

『元より命を惜しんじゃいなかったさ。
この世界に入った時から、今日、この手で骸にした命は、明日の自分自身だと思ってたよ。
死に場所を求めていた訳じゃないさ。死は何時も隣に居た最も古く親しい友人だったからな。望めば何時でもすぐに応えてくれたさ。
まあ、生き抜いて来られたのは、タダでモノをくれてやる程のお人好しじゃあなかったってだけだ。
かと言って、べつに生きていたかった訳でもない。生きなきゃならない理由なんかもなかった。
ただ本能のままに生きてただけだ。
充実とか虚しさとかを感じるのも面倒だったしな。

人は嫌いじゃない。特にもっこり美女は大歓迎さ。
べつに本心を曝け出さなくたっていい。そんなもの期待しちゃいない。
会って話しをすりゃ解るさ。解っても知らん振りをしてればいい。

愛とか信頼とかってのも分ってるさ。
特にもっこり美女には最大級の愛を捧げてるよ。
信頼できる仲間がいるってこともいいことだ。
生きていくには必要なものだし、見失って欲しくはない。
だからもっこり美女には手取り足取りで取り戻させてあげるのさ。

別に俺のことはどうでもいいんだ。
好きに利用すればいい。気が向けば付き合うぜ。
「シティーハンター」なんて始めたのも、暇だったからさ。
理由なんてない。
依頼したいことがあるなら、新宿駅東口の伝言板に「XYZ」って書けばいい。
ただし、依頼人はもっこり美女に限るけどな。』

自分のことは語りたがらない性質だろうが、「シティーハンター」を始めた頃の彼に敢えて尋ねたならば、こんな風に答えただろうか。

使命感でも、況してや正義感でもなかったろう。
だた、片岡優子の時のように、救いを求め伸ばされた手に応えてやることが出来れば、それが生きていく価値になるかもしれない。
ケニーのように、愛する者を死ぬことでしか守れない者がいるのならば、自分がその者の代わりになってもいいのではないか。
そんな風に思えたのではないだろうか。

請ける依頼に、他人の理屈や世の中の法は関係なかった。
ただ己の理に合うかどうかだけだった。
何にも縛られず、やりたいことをやりたいようにやるだけ。
拘ったのは、1度請けた依頼は最後までやり通すという自負心だけだ。

名ガンスミス真柴憲一郎に調整をしてもらった愛銃を手に、彼は己の信ずる戦いの世界へと歩を踏み出した。

《続く》


「――由加里… よく覚えておくんだな
 自分のためではなく 他人のために戦える 真の男の うしろ姿を―――」

「冴羽リョウ」という男 その過去 その6

2006-12-11 22:24:02 | CH論
今晩は、ふぶきです。

《続きです》

日本についた彼は、ゲリラ仲間からはProfessor(教授)と呼ばれていた軍医の元に、取り敢えず身を寄せたのだろう。
都内の高級住宅街に広い屋敷を構えていた教授は、彼を孫のように思い、暖かく迎えただろう。
彼はここで、日本語の読み書きや、日本文化についての造詣を深めていったのではないか。
蓄えはある。環境は申し分ない。彼は日本人としてのアイデンティティーを取り戻す作業に勤しんだのではないか。
同時に、彼は東京の街を彷徨い、自分の居場所を探したのではないか。
アメリカにおいては、どこに行こうとも彼は異邦人だった。
が、日本では体格こそ大きく目立ちはするが、疎外感を感じることはなかっただろう。
彼は初めて周囲と同化できる感覚を味わったに違いない。
特に気に入ったのは、新宿の街だった。
何れにしろ、裏社会でしか生きられない彼をも受け入れてくれる街。
彼は新宿を居場所と決めた。

片岡優子と出会ったのは、彼が帰国して間もない頃、教授の屋敷の近くを散策していた時ではないか。
彼の年頃的には20歳前後の頃か。
ある屋敷の外塀にあった裏口が急に開いた。
中からは、数人の男達が一人の女の子の口を塞ぎ、抱えながら飛び出してきた。
どう見ても尋常な状況ではない。
彼は反射的に動いていた。
次の瞬間、裏口から男達を追うように飛び出して来た初老の男が見た時には、すでに男達は皆地面に倒れており、女の子は彼の手で保護されていた。
女の子は初老の男に向かって名前を呼んだ。
彼はその男が女の子の味方であると判断し、彼女を引き渡した。
礼を言う女の子と男に対し、何も言わずに立ち去る彼。
相手の言う日本語が解らなかった訳ではないが、滞米期間に錆び付いた日本語を教授以外に晒すことが躊躇われたのだろう。
兎も角、帰国間もないこの時の出来事は、後の彼に、大きな意味を与えたと言えよう。

彼が望む望まないに係わらず、噂は太平洋という大海原をも容易に超えただろう。
米裏社会で名を上げていた凄腕の男は日本人で、すでに日本に戻っているらしいと。
ある者は畏怖し、ある者は憧れ、またある者は利用しようと策を練ったであろう。
彼が新宿に居場所を決めてから、噂の者と彼が一致するのに長い月日は要さなかっただろう。
様々な接触が彼の周りに起こったが、どんなやり方でも彼の心が動くことはなかったろう。
彼は他人の金や利権の思惑だけで動くことが嫌になっていたに違いない。

夜の新宿で遊んでいて、仮に男達に裏路地に誘われても、涼しい顔をして表通りに現れるのは彼であり、決して誘った男達ではなかったろう。
一方、夜の女達にしてみれば、手は早いが、後腐れのない遊び人として重宝がられたに違いない。
女の、特に美女の頼みは断れず、下種な男を叩きのめしたこともあるだろう。
愉快なことではないにしても、心から感謝する女達を見れば、自分の存在も悪くはないと思えたかもしれない。
用心棒を気取るわけではないが、金や利権ではなく、情にほだされた事ばかりをするようになっていったのではないか。

《続く》


「さぁ 行こうぜ!! きみが闘うのなら おれはきみのナイトになろう
 おれは そのためにきた!!」

「冴羽リョウ」という男 その過去 その5

2006-12-10 02:30:50 | CH論
今晩は、ふぶきです。

《続きです》

米裏社会のシンジケートが何故彼を標的にしたのだろうか。
(まさかユニオン・テオーペ?とも思ったが、海原がゲリラ軍を追われてから5年としていないと思うので、違うだろう。それに海原ならまず仲間にと、接触してきそうだから。)
東洋系の腕の立つ若い彼は、米裏社会で疎まれたのだろうか。
嘗てした仕事の結果として恨まれたのだろうか。
もしくは、強すぎるコンビは価値よりもリスクが大きいと判断されたのかもしれない。
何れにしろ、ケニーを娘の命で脅迫してまで、彼を抹殺、最悪でも追い出そうとしたのだった。

ケニーは返り討ちにされることを覚悟で、彼に決闘を迫った。
愛する娘の命を護る方法は、それが唯一のものだったから。
裏切りではなく、信頼のまま、ケニーは死んだ。
「おれのような 情けない裏の人間が 愛する者を そばに置くべきではなかったの…かな?
愛する者を… 死ぬことでしか…守れない…とは…な」
彼はケニーの最後の言葉を胸に深く刻んだ。

彼はケニーの遺言の通りにソニアのその後の生活の手配をし、彼女の前から姿を消した。
アメリカに居場所を失った彼が思い浮かべた場所が日本であったというのは自然なことだったろう。
彼をエンジェル・ダストから救った軍医が帰国していたことも知っていたのだろう。
彼は海を渡った。母国、日本へ向かって。

《続く》


「…すまない… ソニア…」