Entrance for Studies in Finance

Research: ボーイング787問題 

ボーイング787の納入遅延問題に続くバッテリー問題

787にバッテリー異常問題の浮上 全世界で運航停止へ(2013年1月16日から17日)
 ボーイング787について、バッテリーの異常が多発した。2013年1月7日 ボストンの空港で日本航空機機体後方電気室の補助動力用バッテリーから出火。2013年1月16日 山口宇部空港発羽田空港便が、機体前方操縦室下部の電気室で煙発生により高松空港に緊急着陸(メーンバッテリーが黒く炭化していたことがのちに判明)。日本の国土交通省はこれを「重大インシジデント」と認定。いずれの事故でも電池が高熱になり出火発煙した。
 米連邦航空局などが運航停止を命令(米連邦航空局FAAが16日 日本の国土交通省、欧州連合とインドが17日など FAAの運航停止命令は34年ぶりでいかに深刻な重大な事態かが分かる)。ボーイング社でも航空会社への新規引き渡しを停止した(受注残は800機)。
 問題の電池はGSユアサ製。電源システムは仏タレス社などがサプライヤー。

737について新たな問題浮上(2013年4月15日) ボーイングに対する信頼性の低下
 米連邦航空局は機体が制御不能になる可能性のある欠陥が発見されたとして、ボーイング社に対して主力小型機737について機体の検査と部品の改修を命じた。今回は検査と改修で安全性は確保されるとして、運航停止命令は出されなかった。787に続き737の欠陥も明らかになったことで、ボーイングの安全性への信頼は低下したといえる。

787について日米で運航再開許可(2013年4月26日)と残る疑問
 2013年4月26日 米連邦航空局FAAが運航再開に必要な命令を出したことが公表された(再開の方針発表は4月19日)。この運航再開については、発煙事故の原因が解明されていない、との指摘が残っている。ボーイング側は考えられる原因に対する対策を網羅的にまとめた改修案を作成したとする。たとえば発熱防止(改良した充電器に交換)、発熱した場合のほかの電池への影響を防ぐ対策(電池をステンレス製容器に格納)、改修後の試験飛行による確認など。これがFAAにより承認された形。日本でも国土交通省が、改修後の機体で確認飛行を航空会社に義務付けるなど、独自の安全策を加えて、同日、運航再開を許可した。
 この問題をめぐっては、米国内でも米運輸安全委員会NTSBは、原因が明らかでないとして運航再開に慎重な立場であった。つまり米国内でも運航再開慎重論があった。
 これに対してボーイング社は考えられる原因を網羅的に検討して、そのすべてに対策を進めたと主張。この主張にNTSBは押し切られた形。しかし万一にも、事故が再発すれば、その責任は誰がどう取れるのだろうか。・・・といって運航停止が長引けば、ボーイングや多くの日本企業を含む関連企業に大きな影響が出ることも事実だが。
 そのそも事故後にボーイングが行った対策については、リスク確率を下げたという説明があるはずだが、この低いリスク確率の数値は、ボーイングの主張(データ)に過ぎない。もともとボーイングは電気系統発煙の可能性を極めて低いとのデータを提出して、787の認証をFAAから受けていた。つまり再びボーイングの主張(データ)を信じるのかという問題がそこにある(また検証のためのデータをFAAがボーイング提出のものに依存しているという構造的な問題がある)。ボーイング社のデータでは確率的に起こる可能性がきわめて低いはずの「発煙事故」が多発した。こうしたボーイング社の過去のデータのいい加減さを考えると、事故原因は不明のままで、ボーイング社のデータによれば事故発生確率は極めて低くなったとして787の運航の再開を認めるという決定については、疑問が残る。
その後 5月14日 ボーイング社は運航再開の条件を満たすための改善作業を実施。そして5月14日 787の納入を再開した。
5月20日には米ユナテッド航空が営業運航を再開 そして6月1日には全日空と日本航空が営業運航を再開する方針。

787を使う航空会社の重大な責任
運航再開で日本の航空会社もほっとしているといえるだろうか。しかしすでに述べたようにボーイング787に対する不信感は高まっている。米FAAが政治的理由で運航を許可するとしても、日本の国土交通省は自国民の安全性を守る立ち場から、運航許可しない判断もあり得たとの批判が今後出る可能性はある。日本の航空会社は、すでに発煙事故を起こしているボーイング787を今後も使用する場合、運航停止という合理的判断を避けたという意味で極めて重大な責任を背負い込んだといえる。日本の航空会社にとっては、787を使用して重大事故が起こったときの責任を回避することができないという意味で、運航再開の方が経営リスクが高いのではないか。
 ボーイング787をいち早く導入してコスト削減(燃費が旧型の767日比で2割改善できるとのこと また大型機なみの長い航続距離などすぐれた特性をもつ)の切り札としていた全日空や日本航空は、欠航で大きな影響を受けた(全日空は17日は国内便35便を欠航。国際便は6便機体変更。18日は国内便24便 国際便6便。19日から21日まで3日間で国内便58便。国際便10便の68便を運休。日本航空は17日は国際便で4便を欠航。4便を別の機体とした。)減益の大きさは1年間使えなかった場合で、全日空で50億円、日本航空で40億円という数字がある(現在の保有機は全日空で17機 日本航空で7機。世界全体では8社が49機を保有。全日空は2021年度までに787を66機まで増やして、787で先行するはずだったがこれが命取りになりかねない事態だ。全日空は66機を発注。残りは44機。日本航空は45機発注済み。残りは38機。)。
 現時点で就航している787は世界全体で50機、そのうちの24機を日本の航空会社が、また17機を全日空が保有している。全日空は結果として、世界で最もこの問題の影響を受ける航空会社になった(運航計画の変更を迫られた各社では損害賠償を請求する構え)。
 2011年11月の全日空による商用運行開始。初号の引き渡し(2011年9月)は予定より3年以上遅れた。商用運航開始から1年以上経って事故が続くことに不安が広がっている。また機体システムの部品の耐久性・耐熱性が、軽量・コンパクト化の犠牲にされた疑いが浮上している。
 使われていたのはリチウムイオン電池。2006年にはソニー製電池の発火問題が起きたが、しかしその経験を踏まえて安全性が高められたはずだった。電池本体ではなく、システム全体で不具合があったという考え方や、電池の性能のばらつきを指摘する声があるが、今のところ原因はと特定されていない。逆に原因が特定され、設計変更などの措置が取られれば、認可の再取得などで時日を要する可能性が高い。
 ボーイング787がこれで生産が停止するとその影響は広範囲に及ぶ(納入停止で1ケ月12億ドル前後の減収 平均価格 1機2億ドル強。現在は5機ベースの生産。2013年内に月10機ペースに移行する予定だった。現在は出荷停止中)。しかし今一つボーイング追及の声が上がりにくいのは、機体製造の数多くの日本企業がかかわっているためだ。機体構造物の35%を担当する三菱重工、川崎重工業、富士重工業。あるいは機体の翼、胴体などに採用された炭素繊維、樹脂などを供給する東レなど。しかし伝えられていた787の増産体制(月3.5機から月10機への引き上げ)あるいはさらには次世代大型機737MAXが2017年就航を目指して開発中という話ではあったが、納入遅延問題に続く、今回のバッテリー問題の浮上に(問題の続出に)いささか鼻白む思いがする。
 ボーイングは米国で進められている国防費削減の影響を大きく受けている企業の一つ。民間航空機での失態はそれだけに、経営を揺るがしかねない(2012年末で135億ドルの手元資金があり問題に対処できるとみられていたが、影響は拡大中)。

 なお777までの生産は、組み立てられる飛行機少しずつ動くもの。ライン生産に近い。これに対して787は、モジュール生産。8け国での国際分業体制である。しかしその結果、生産の現場はものの見事に世界に散ってしまった(国際分業)。各国各企業に分かれて調査してもそのあとのする合わせは困難とされる。最新の電子制御もかえって、問題の特定をむつかしくしているとのこと。

2008-2011年に騒がれた納入遅延問題(2009年7月稿 2013年1月追記)
 ボーイング社の次世代中型航空機787(ドリームライナー)の納入が遅れている。納入時期は当初2008年の5月とされていたが、2008年4月の3度目の延期発表の段階では納入は2009年9月以降になるとされている。2008年9月6日には最大労組が主力のエバレット工場(ワシントン州)などでストライキに突入してこの問題をさらに拡大。後述するように2008年12月の4度目の延期で納入開始は2010年1月以降に遅延している(上述のように結局 初号の引き渡しは2011年9月と7度の延期があり、結果として3年以上遅れた。・・・2013年1月追記)。
 B787機(座席数210-250 1機1.5-2億ドル)はエアバス社が開発しているA350機とともに、炭素繊維を機体の素材に使うことで軽量化されており、航空会社各社では燃費改善の切り札として同機の早期導入に期待していた。約2割燃費が改善するといわれている。また東南アジアやハワイが限界の767に比べて北米ヤヨーロッパまでと航続距離が伸びるので、機材の柔軟な運用管理に資することも期待されている。
 納入はまず07年11月に08年5月から12月に延期。さらに2008年1月の2度目の延期(08/12→09初め)。納入を期待していた世界の航空会社の中からは補償を求める声がたかまった。全日空と日本航空でも2008年3月までに補償を求める姿勢を明確にした。3度目の遅延発表を受けて日本航空はA350の納入も検討せざるを得ないとボーイングに圧力をかける姿勢を示した。全日空は2008年7月までに超大型機A380(座席数525-853 1機3億ドル台)購入の最終調整入りを発表した。
 ボーイング社では9月6日から国際機械工労組IAMによるストライキが始まり主要拠点で操業停止に陥った。そのストの最中の2008年9月17日には日本航空とまた9月25日には全日本空輸との間で、787機の購入条件見直しで合意が発表された。導入時期の遅れのほか、遅れに伴う賠償問題でも合意があったと考えられるが詳細は明らかにされなかった。
 その後2008年12月11日には労働組合による長期ストライキ(2008年9月 工場労働者への大幅な賃上げで妥結)や部品の不具合を理由に4度目の延期(09年7-9月期から10年1-3月期へ)を発表した。度重なる延期は、世界の航空会社の設備投資計画に大きな影響を与えている。
 この4度目の延期で787機(定員約250人)の日程は2009年夏に初飛行(2009年12月に初飛行成功)。納入開始は2010年以降となった(2010年10-12月期に前日本空輸に初号機を納入予定)。
 対抗社として欧州エアバスがある。両社ともLCCや新興国からの大量受注が支え。燃費のよい中小型機が人気があある。
 2009年1月8日 ボーイング社は2008年の民間航空機納入実績が前年比15%減の375機だったとした。欧州エアバス社が400機以上とされるのでエアバス社の首位維持が確定。また2008年の受注実績は662機で前年比53%減とされる。
 2009年1月9日 ボーイング社は民間航空機部門の事務職を中心に4500人 同部門約7%に相当する人員削減を発表した。航空会社の経営不振などから航空機受注が激減、787開発コストが膨らんでいるうえに、工場労働者への大幅な賃上げが重なり、コスト抑制を迫られたと見られる。

 ボーイング787について日本のメーカーもさまざまな協力を行っている。問題の炭素繊維複合材を東レが供給しているほか、三菱重工業(主翼)、川崎重工業(前部胴体、主脚格納部)、富士重工業(中央翼)、ブリジストン(タイヤ)、IHI(GEに対して新型エンジンの開発費用15%を負担)などが製作に加わっている。日本の航空技術が結集されているという言い方もオーバーではない。

MRJ問題(2009年7月稿 2013年1月一部書き換え)
なお三菱重工業は小型ジェット機MRJ(ミツビシ・リージョナル・ジェット 座席数70-96 78)の2013年初就航を目指している。1973年に生産停止したYS11以来40年ぶり。開発費が1500億円(経済産業省が3分の1程度を拠出)。機体価格が30-40億円で採算分岐点は350機とされている。(小型機の分野はカナダのボンバルデイア、ブラジルのエンブラエルの2社寡占だがロシアや中国の進出が見込まれている)。
 こちらは2011年初飛行。納入は2013年からの見込み。
 その後引き渡し開始は2015年夏ごろとされている(2013年1月時点追記 この時点での累計受注は330機。採算ラインは400機から500機とのこと。燃費性能が評価されているとこと)
 
 三菱は米ボーイングとも協力関係にあり、米ボーイングもMR-J事業に技術・ノウハウ・営業などの面で協力するとされている。米P&Wの新型エンジン開発に参加、開発費の一部を負担するとともに燃焼器を供給。(なお三菱重工業はこのほか、次期支援戦闘機FSX=F2の開発に従事したほか、国産大型ロケットH2Aの打ち上げに2007年から参加してさらに海外からの受注を目指している、三菱電機は商用衛星JSTAT、NECは小型衛星、IHIエアロスペースは衛星の姿勢制御推進装置の売り込みを進めている。)
 Kaguya fly over the moon 日本の衛星が月の周囲を回っている Oct.31, 2007
Japanese Sattelite launch
Mitsubish Regional Jet


 MR-J事業にはナブテスコ(飛行制御装置)、住友精密工業(車輪格納装置)、ジャムコ(動翼)、のほか富士重工業(中央翼)、も参加とのこと。このように限られたメーカーの間の密接な協力関係のもとに事業が進む点に、航空機業界の特殊性がよく表れている。
 ボーイング社については2007年8月にボーイング737機が、沖縄那覇空港で炎上事故を起こしたことで、ボルトを取り付けてなかったというずさんな製造管理も問題になっている。
 ボーイング社については、日本の自衛隊への空中空輸機KC767の納入についても2006年12月の納入予定が繰り返し遅れたことが国会で問題になったこともある。結局、は2008年2月末と3月に各1機が納入されているが、このような納入遅延がなぜ繰り返されるのか、同社は十分説明するべきだろう。このようなトラブルの多さは、同社への信頼を損ねるものである。
 なおボーイング社は、世界の航空機業界で、とくに大型機では独占的な地位にあるために、このような問題を多発させる体質があるともみられている。大型機での対抗馬は欧州のエアバス社(エアバス社は組み立て拠点を米アラバマに設ける計画を進めている。これは小型機の最大の顧客が米国であること、エアバス社の調達の4割以上が米国からの調達であることなどが背景。ともかくこの進出により両社の対立は深刻度を増している)のみだが、ボーイングが現在のような失態を続けてると、顧客の航空会社はボーイングから離れるのではないか。なお中国は大型旅客機を開発生産する「中国商用飛機」を2008年5月に設立。この市場への参入を目指している。
 ボーイング787の機体の値段は1億5000万ドルから2億ドルとされる。為替相場にもよるが1機200億円程度ということであろう。
 他方、空輸機KC787は1機275億円と高価。アメリカでもこの高額さは議会で大問題になった。
 航空機の発注をめぐる問題は、アメリカでも日本でも、その動くお金の大きさからも関心を集めている。

 三菱重工にはこのほか発電プラント(発電タービン)を抱える原動機部門のほか(2012年3月期は営業利益の8割を原動機に依存する状況)、汎用機・特殊車両部門、機械・鉄構部門や、ロケットや衛星といったビジネスまである(2010年8月に日立製作所、三菱電機との間で
水力発電機器事業を統合)。

参考
ボーイング・ジャパン
必要な産業技術への関心

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original in Sept.2008 
revised in May 2013

Area Studies Business Models Business Strategies 
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