ホンダが全額出資子会社(ホンダトレーディング)で水産物をめぐって、循環取引をおこなって取引と利益を操作していたことを
認め、2011年3月期に約150億円の損失を計上することになった。
プレスリリース(Honda Trading Co.) 2011年1月24日
プレスリリース(Honda Co.) 2011年1月24日
プレスリリース 2011年2月15日
しかしなぜ水産物をホンダが扱うのだろうか。また水産物と循環取引には関係があるのだろうか。
「循環取引とは、複数の企業・当事者が互いに通謀・共謀し、商品の売買や役務の提供等の相互発注を繰り返すことで、売上高を計上する取引手法の総称である。」「循環取引に使われる商品は出荷されず、一つの倉庫にとどまっていることが多い。商品は移動せずに、伝票だけがぐるぐる回ることになる。」「水産業では、循環取引を<ぐるぐる回し><回し><魚転がし>などと呼んでいる。」松沢公貴「水産業に潜む問題」『金融財政事情』2010年7月19日号から引用
さらにそもそもこの子会社の設立目的はどこにあったのだろうか。会社の沿革をみると、1970年代から自転車、コーヒーなど生活雑貨・食品の輸入を扱って業務を開始している。また1980年代には自動車の資材の輸入を始めて業容を拡大している。近年の取り扱い品目の構成をみると、自動車関連の資材の取り扱いが主体の会社に変化している。
しかし水産物というのは、こうした生活雑貨とも違いがある。そもそもどのような目的で水産物取引を始めたのだろうか。そこで想起されるのは2007年4月に明らかになった加ト吉(香川県高松市)の循環取引。そこでも、対象は水産物だった。循環取引の期間は2001-2006年とされた。まさかとは思うが不正な循環取引をするために、水産物取引を始めたのではないかということは疑わていいだろう。
生活関連雑貨の取り扱いはかつてはホンダトレーデイングの本業であった。商社では社内でセクションごとに売り上げや利益を競うはず。そのセクションの売上高を上げるために水産物の取り扱いを始めたが、結果として循環取引の罠にはまり、露呈を避けるため取引を続け、金額が増えたのではないか。ホンダトレーデイングは、不正な取引がほかにもないか社内調査を進めているとのこと。しかしその次に必要なことはこの水産物取引のような、ホンダのブランドイメージにそぐわない取引をこの機会に整理することではないか。
→たとえば日産トレーディングをみるとホンダトレーディングなようなクルマと関係がない余計な仕事はしていない。また豊田通商は確かに非自動車分野にも拡大。しかし事業シナジーをベースにして非自動車に乗り出す戦略は明確である。これらに比べると、ホンダトレーデイングのあり方は中途半端。
2010年6月に明らかになったメルシャンでの循環取引では、取引対象は養殖魚の飼料だった。 水産物関係の取引に循環取引が多いのではとの疑問がtwitterに出ているのも当然で、なぜホンダが水産物取引をする必要があったのか、ぜひ説明されるべきだろう。
なおメルシャンのケースでは、親会社のキリンはガバナンスが不十分だったことが事件の一因だとして、キリンは2010年8月にメルシャンの完全子会社化を発表している。今回は、ホンダの完全子会社が事件を起こしたわけであるから、完全子会社でなかったから監督不十分で事故が起きましたという言い訳はできない。
循環取引をみれば、ホンダトレーディングというホンダの事実上の一部に、常識では考えにくいモラルの低下があった。不正がいつから始まったなど詳細な情報開示を待ちたい。今回の事件が、ホンダという企業の体質でないことを祈るばかりだ。この事件は嘆かわしくみっともない。
参照 関浩一郎「架空循環取引について」『経理情報』No.1278号, 2011年4月10日号, pp.64-65.
originally appeared in January 26, 2011
corrected and reposted in May 9, 2011
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