道楽ねずみ

ドイツに関するものを中心に美術展,オペラ,映画等の趣味の世界を紹介します。

アンドレア・シェニエ(新国立劇場・渋谷区本町)

2010年11月22日 | オペラ道楽
新国立劇場でオペラ,アンドレ・シェニエを見てきました。

イタリアの作曲家ウンベルト・ジョルダーノによる全4幕のオペラで,フランス革命期のパリを舞台としています。フランス革命期を舞台とする劇であれば,以前にドイツで「ダントンの死」という劇を見たことがありますが,このオペラを見るのは初めてです。

詩人シェニエと伯爵令嬢マッダレーナ,そして革命前はマッダレーナの家の従僕にして,今やモンターニュ派(山岳派,フランス革命期のジャコバン派の急進派)の幹部となったジェラール3人の恋愛を機軸にしながらも,それだけに終わらないストーリーです。フランス革命史に特別の思い入れのある道楽ねずみは大喜びのオペラでした。

私は知らなかったのですが,驚いたことにアンドレア・シェニエとは実在の人物だったようです。実在のシェニエも詩人で,フィアン派(立憲君主派)に属し,あの「質量保存の法則」で有名なアントワヌ・ラボワジェとも親交があったそうです(因みにラボワジェも,フランス革命期にギロチンによって処刑されます。革命裁判所は「共和国は科学者を必要とせず。」とのたまわって,ラボワジェを「仕分け」してしまいました。)。

閑話休題。ストーリーはおおよそ次のようなものです。
【第1幕】ジェラールは父の代からマッダレーナの家の伯爵家に従僕として仕え,ジェラールとマッダレーナは幼なじみ。ジェラールはマッダレーナに恋心を抱いているが,2人の身分は大違い。マッダレーナの家でパーティーが開催され,そこでマッダレーナに請われて即興詩を作ったシェニエにマッダレーナは恋心を抱くようになる。他方,貴族の圧政に虐げられることに我慢のできなくなったジェラールは物乞いの集団を伯爵家に潜り込ませ,父と共に伯爵家から脱出する。
【第2幕】革命後,詩人シェニエは密偵に監視される身分に,ジェラールはモンターニュ派の幹部になる。シェニエは人の使いでマッダレーナと再会し,2人は恋に落ちるが,ジェラールは2人を捕らえようとし,シェニエと戦って負傷するが,戦った相手がシェニエであることを知ると,マッダレーナを守るようにいい,また2人が逃げた後はシェニエの名前を隠し,自分を傷つけた者は名前は分からないがジロンド派だろうと説明する。
【第3幕】ジェラールは,シェニエ逮捕後,彼を告発する文書を書くが,その行為がマッダレーナを得たいという単なる情欲からのものに過ぎないことに気づき慄然とする。そして,マッダレーナがジェラールを訪れると,その身体を情欲のおもむくままに弄ぼうとするが,シェニエの命を助けてくれるならという言葉に良心を取り戻し,シェニエを救おうと決意する。ジェラールは革命裁判所において,前の告発が虚偽であることを告白し,撤回するが,それでも民衆達はシェニエを死刑にする。
【第4幕】マッダレーナは,ジェラールと共にシェニエの収監されている刑務所に行き,看守を買収して,翌日処刑予定の女性と入れ替わり,自分が処刑されることする。そして,
シェニエと刑務所で再会し,夜明けと共に処刑されるべく革命広場に向かう馬車に乗り込む。

何といってもみどころは第3幕です。ジェラールの揺れ動く気持ちと彼をとりまく環境がうまく表現されています。かつてブルボン王制の圧政の元に苦しみ,そこからの解放を目指していたはずのジェラールが,いつの間にか情欲の虜になっていたことに気づき,マッダレーナの態度を前にして良心に従って行動をしようとします。しかし,民衆はジェラールについて買収された者との烙印を押し,有無を言わさずシェニエを死刑と決めつけていきます(血に飢えた革命裁判所の姿は,アナトール・フランスの「神々は乾く」などにも描かれているところではあります。)。このオペラの話に基づけば,ジェラールもシェニエに買収されて弁護したという疑いがもたれた以上,当然,遠からずギロチンにかけられるという結論になるでしょう。
なお,実在のシェニエはテルミドール反動のクーデターの3日前に処刑されたということですから,実在のシェニエの死後3,4日でロベスピエール,サン・ジュスト,クートンらモンターニュ派の幹部も皆処刑されてしまったことになります。

大変興味深いオペラでした。ストーリー自体が面白いですし,話や舞台の展開は思いの外早いです。歌も音楽もとても綺麗でした。
演出も舞台の幕がギロチンの刃の形になっていたり,幕間のスクリーンにギロチンが細胞分裂のように2の数乗形式で次々と増殖していく様が映し出されたりと,革命の殺伐とした人の心もうまく演出しています。特にギロチンの細胞分裂は,流血の連鎖という恐怖政治の実態を訴えかけてくれます。

今回は初めてのオペラの割に,中身も盛りだくさんだったため,余り細かいところに気を配って見る余裕もなくなってしまい,演出の細かい部分を丁寧に見ることはできませんでしたが,とても素晴らしいオペラでした。主役の3人の歌手は皆,うまかったように思います。






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