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オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

機内で観た「シェイプ・オブ・ウォーター」

2018-06-15 15:59:41 | 映画
プラハからの帰りもポーランド航空で、ワルシャワ乗り換えで帰って来た。ワルシャワの乗り換え時間は50分だが、何の問題もなくスムーズに余裕で乗り継げた。飛行機が離れた駐機場に止まり、ターミナルまでバスだったので、荷物が間に合うかちょっと心配だったが、成田で問題なく荷物も出てきた。最近はコンピューターが発達したので、荷物の行方不明や不着はかなり減ったのではないかという気がする。コンピューターの発達も悪くない。

ポーランド航空は、ムードはルフトハンザに似ていて、必要なものは備えており、よけいなものが何もなくすっきりとしている。日本の航空会社などは親切心なのか、いろいろと何でもあるというのがかえって鬱陶しい気がするので、基本サービスをきちんと出してくれればそれでよいと思う。今回はエコノミーだったが、機内食はエコノミーとしてはかなり良いと思った。ワインの質はともかく、たっぷりと注いでくれるし、途中で何回も水を持って回ってきてくれるのがうれしい。

行きは疲れるので、映画を一本見ただけだったが、帰りは日本に戻り休むだけなので、映画を3本見た。エミレーツのように馬鹿沢山の映画は並んでおらず、日本映画や日本語の吹替作品もないが、日本語字幕の出る映画は結構沢山あった。飛行機の中だし、あまり真面目な映画は疲れるので、気軽に観れる作品を3本見た。

1本目は「ミケランジェロ・プロジェクト」で、第二次世界大戦中にナチス・ドイツが占領したヨーロッパ各国から貴重な美術品を強奪して集めたのを、取り戻そうとする美術家たちの戦い。メトロポリタン美術館の学芸員が中心となって、美術の専門家を集めて兵士の訓練をして、前線に飛び込んで貴重な品を守ろうとする。ソ連の手ににわたると戻ってこなくなるかも知れないし、ナチス・ドイツが美術品を燃やしたりしないように素早く取り戻す作戦を練る。象徴的なのはベルギーのブルージュにあるミケランジェロの聖母子像だが、映画の中ではイタリア以外にある唯一のミケランジェロの彫刻となっていたが、そういうのがあるならば、ブルージュまで見に行こうかと思う。

2本目は「Mr&Mrs スパイ」というコメディ。田舎町の隣家に美男美女のカップルが越してきて、隣人が怪しいと思い調べると、スパイのように見える。ところが、実はCIAの工作員で、スパイと戦っているというような話。気軽に観れて退屈しない。

3本目がゲテモノ映画で「シェイプ・オブ・ウォーター」。僕は大ゲテモノ映画だと思ったが、2017年のヴェネチア映画祭で金獅子賞を取っただけでなく今年のアカデミー賞も取った作品だと知り、開いた口がふさがらなかった。ゲテモノ映画が嫌いというよりも結構好きなので、この映画も楽しんだが、金獅子賞を取るような作品ではないと思う。完全なパロディ作品で、まあカルト的な作品。ポーランド航空の映画はどうもフォックス映画系が多い様だが、この作品も完全にフォックス色の強い作品。

「シェイプ・オブ・ウォーター」は、全体としては、1954年のユニヴァーサル映画「大アマゾンの半魚人」のパロディとなっている。アマゾン川に住む鱗人間が、人間の女性に恋をする話だ。今回の話も基本的には同じだが、時代設定が東西冷戦中となっていて、アメリカが捕獲した半魚人を研究してえら呼吸と肺呼吸の両方の能力を活用する方法を考えようとする中で、ソ連のスパイが半魚人を奪おうとする活動がサブプロットになっている。

半魚人が恋をするのが、研究所の掃除婦をやっている唖の娘で、この孤独で味方の少ない娘は、定年前に首を切られた老年に近い画家の話し相手(手話だが)になっている。そして、彼女は半魚人と友人になり、恋をして、解剖されそうになった半魚人を助け出して自宅のバスルームに匿い、セックスもして海へ戻そうとする。これがメインのプロットだが、僕が面白く観たのは、途中で出てくるフォックスの古いミュージカル映画だ。

話し相手の画家の居間にはテレビがあるが、最近の番組はつまらないといって、古いフォックスのミュージカル映画ばかり見ている。最初に出たのはシャーリー・テンプルで、黒人のビル・ボージャングル・ロビンソンと踊る場面。これは「小聯隊長」という映画。次はベティ・グレイブルのダンス場面。これはどの映画か判らないが、「コニー・アイランド」かもしれない。もう一度観ないと判らない。そして、次はカルメン・ミランダの歌が入っていた。

劇中の映画館でやっていた映画はパット・ブーンの主演したフォックス映画「恋愛候補生」。確か1950年代末頃の映画なので、この映画の時代設定もその頃なのだろう。フォックスの女優が沢山出るが、フォックスで一番のアリス・フェイが出てこないと思っていたら、アリス・フェイが「あなたには判らない」を歌う場面が出てきた。これは、もとの映画の中ではサンフランシスコにいるアリス・フェイが、ニューヨークから電話をかけてきた恋人に「私がどれだけあなたを愛しているのか、あなたは決してわからない」と歌う場面だ。日本未公開の「ハロー、フリスコ、ハロー」という映画。

「シェイプ・オブ・ウォーター」の中で、唖の娘は半魚人に対して、この映画のアリス・フェイのような感情を抱いていて、この歌が流れる。そうして、半魚人の癒しの超能力によって娘は声を取り戻して、「あなたには判らない」を声に出して歌う。そうすると、映画は突然にミュージカル場面となって、半魚人と娘が手を繋いで、この曲で踊るのだ。おまけにこの場面の背景のセットは、フレッド・アステアとジンジャー・ロジャースの映画のパロディとなっていた。このミュージカル場面は「艦隊を追って」のセットと同じ。この場面と、この歌の内容こそが、この映画の一番の本質だろうが、日本では誰もそれに言及していないのが気になる。

僕は、「ラ・ラ・ランド」などよりもずっとましと思った。だけど、こんな古い映画のパロディはアメリカでならともかく、日本で分かる人はかなり少ないのではないかと、心配になった。ネット上の感想や解説を観たが、誰もこうしたミュージカルのパロディについては書いていない。アメリカのサイトを確認すると、知っている人は知っているという感じで、引用された映画の説明もあった。そうした背景があるからアカデミー賞も取ったのだろう。それがなければただのゲテモノ映画でしかない。日本の衛星放送などは、新しい映画ばかりではなく、古い映画をもっと流した方が良いと思う。


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