私が小学生の頃、
父が、「鳥羽（三重県）に行こう！」と言い出したことがあったのね
私は、ＴＯＢＡ って響きがとてもおもしろくて、
「どんなところだろう・・・
」って、ワクワクしたのを覚えているの
でも、結局、
何年たっても、連れて行ってはもらえなかった
父は、そんなふうに、
言い出したことをなかなか実行に移さない傾向があったんだ
だからなのか、
オトナになった私は空約束ってのが嫌いで、
誰かとどこかに行くって話題が出ると、
社交辞令じゃない限り、「じゃあ、いつにする？」って、すぐにスケジューリングをしたくなるのさ
・・・実現することが最も大事なことであって、
《アイデアを実行に移さないこと》は、悲しくて悪い、避けるべきことだったんだ
でも、あるときから、
そういう、《誰かとどこかに行こうと言っていてなかなか実行されないこと》というのが、
なんだか、悲しくなくなってきたの
そのひとつひとつの話題が、
その時々の時間をすでに彩ってくれた喜びの種であって、
実現してもしなくても、それでもって関係やら行動力やらが試されるワケじゃないんだ
もしかしたら、心はすでにそこに飛んで、
ちゃっかり楽しんじゃったから、実際、行かなくても、良くなっちゃったのかも知れないしね
そう思ったら、
覚えているかぎりの、《まだ果たされていないアイデア》が、
とても、愛おしく思えてきたんだよ
実際、私にとって、まだ見ぬ鳥羽の地は、
ちょっと特別な響きを、いまだに、持ち続けてるわけだし・・
「うん、いいよ、それでいい。」
湧いてきたそれは、不思議な感覚だった
私はそのとき、
やっと、父を赦せたのかも知れないね
