フットボールレビュー

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南アフリカ大会~オランダの変貌~

2010-07-06 03:55:35 | W杯
時計仕掛けのオレンジはどこへ行った・・・?

そのようなクライフの言葉が目に浮かぶ今大会のオランダ。

2008年EURO、ファンバステンのオランイエは確かに魅力的だった。
しかし、冷静に考えるとそのとき生きた戦術はカウンター。
カウンターとセットプレーで得点後、試合を有利に進めている。
大量得点の勝利と、あまりに美しいカウンターパスワークにより、超攻撃的に見えたオランダだが、いわゆる守っている相手を崩しきるスタイルとは異なるものだった。

そして今大会。全ゴールをまず上げてみよう。

・デンマーク戦、オウンゴールでリード、その後はスナイデルの有り得ない体勢から出たスルーパスからのエリアのゴール。
・日本戦、スナイデルのミドル。
・カメルーン戦、ペルシーの素晴らしいワンツーからの右足と、ロッベンの切り込みからのフンテラールのゴール。
・スロバキア戦、スナイデル-ロッベンのカウンターと、アーリーリスタートからのカイト-スナイデル。
・ブラジル戦、スナイデル2発。1発目はほぼオウンゴール、2点目はセットプレー。

整理すると・・・

OGが2回
セットプレーが2回
カウンターが3回

見て解るように、流れからのゴールなど無いに等しい。
これが今回のオランダ。5試合で相手のオウンゴールが2度もあるなんて。。。と思いながら思い出されるのは、日本×イングランド。
日本のDFが2度もOGをしてしまった試合。
あれは確実にルーニーやジェラードに対する日本DFの重圧からきてしまったものであると思う。
同じことがここでも言えると思う。
要するにオランダを相手にした時、相手チームのディフェンダーの重圧は計り知れない。これがこういう結果を生み出す。

派手さが無いため、一見地味に見える今大会のオランダ。
ただ、この得点シーンを回想することで見えてきた、オランダの地力。
これまでのオランダは、試合の流れを掴んで、そこから一気に崩すスタイルだった。
今回のオランダは、流れが相手チームにあるときにも得点できる底力を持っている。
精密機械のようなトップ下、光速右ウィンガーと、鋼鉄の肺を持った左ウィンガー、相手のバックラインに常にダメージを与え続けるCF、そして精度の高いクロスが武器のSB二人。
アンカーの位置にはしっかりと潰し屋とパス供給の起点が2枚。
これが常に自陣のゴールにプレッシャー与え続けるのだから、どれだけ集中しても、90分のうちに集中が途切れる時間がある。
その相手DFが集中を切らす瞬間を、精密機械スナイデルが分析し続けている。
そう、日本戦がそうであったように・・・。

私はデンマーク戦でのスナイデル-エリアラインからのカイトのゴールが、今大会これまでのオランダのベストゴールだと思う。
あれが見れただけでもう満足で、これ以上のスペクタクルは望まない。
ファンマルバイク監督が言った。「もう一度言おう、我々は優勝するためだけにここにいる。」
いつもと違う今大会のオランダには、魅せるだけではなく、勝つための考え抜かれたノウハウが植えつけられている。