イタリアの泉

2006年8月29日より再・再渡伊。
苦節10年2016年2月フィレンツェ大学を無事卒業(美術史専攻)
さて今後は?

文化財保護特別警察の展覧会ーRoma

2019年06月06日 13時39分30秒 | イタリア・美術

イタリアの大統領官邸は、市民に非常に開けている。
毎週土曜日には、イタリア人のみならず外国人もコンサートが聞けたり、内部の美術品を見て回れるツアーなども開催している。(要予約)
中でも時々興味深い展覧会が開催される。
現在、Comando Carabinieri Tutela Patrimonio Culturaleという美術遺産保護に特化した特殊警察司令部の創立50周年を記念した”L'arte di salvare l'arte(芸術保護のための芸術技術)”という展覧会が開催されている。(7月14日まで)
L'arte di salvare l'arte

彼らの存在を知ったのは、大学で文化遺産関係の法律の授業を受けている時だった。
現フィレンツェ市長が、その講義を受け持っていたのだが、この人、市長としてはさておき、教授としては最低だった。
授業はひたすら法律を読み上げるだけで、全く中身がなく、友達は試験中に寝られた、と憤っていた。試験って口頭試問ですが⁉
元首相でもあるMatteo Renziが市長に立候補した選挙の時、この講義のために登録した学生のメールアドレスを使って「Renziに票を!」というメールが送られてきた時は、「これ、イタリアでは選挙法違反じゃないの?」と驚愕した。
その甲斐あってかどうかは定かではないが、Lenziは当選し、その後首相の座まで上り詰めたが、転落も早かった。今は何をしてるんだろ?
そんな教授の授業でも唯一ためになったのが、フィレンツェにある特殊警察の事務所から、現役の警察官を連れてきて、講義をしてもらったこと。友達なんですと。
この講義は非常に良くて、これはを聞いて、若いイタリア人の中には「警察官になりたい!」と言い出した子までいた。

Carabinieri(カラビニエリ)、と呼ばれるこのイタリアの警察官って、どちらかというといつも馬鹿にされてて、barzelletta(笑い話)の恰好のネタにされているのだが、これら特殊警察に関しては大違いなのだ。
本部はローマにあり、16の支部をイタリア国内各地に置いている。ちなみにフィレンツェはPitti宮殿内に有る。
街で見かける一般的なカラビニエリと違うのは、Ministero per i beni e le attività culturali(文化財・文化活動省)の所属であること。
主な仕事は盗難などに合った文化財・美術品の捜索など。
彼らの働きで、この半世紀でおよそ2000点の文化財が、祖国へ戻って来た。
文化財・美術品はその物的価値だけではなく、その土地の文化的象徴として計り知れない価値を有している。
だからこそ、元の場所へ戻さなくてはならないという強い使命で働いている。

今大統領官邸で行われている展覧会では、悪く言えば彼らの仕事ぶりを紹介するプロパガンダ。
でも非常に興味深い。
予約はサイトから。予約料1・5€がかかるが、誰でも大統領官邸に入ることが出来る。(入館時身分証提示)
イタリア語のみのガイドツアー。
私が行った時は、外国人は私一人。まぁ良く有ることだけど…
現役の警察官が丁寧に説明してくれた。

会場はPalazzina Gregoriana。普段のツアーでは入らないエリアだった。
盗品や許可なく美術品を国外に流そうとして未然に阻止してイタリアに戻って来た作品たちがテーマに分かれて展示されている。

まず入口で出迎えてくれたのは

この彫刻。
ナニコレ?
なんだか分からないけど、これが貴重なことは、大理石の色(これは東洋の大理石で着色されている)、動的なグリフォン(grifone)のポーズから一目瞭然。
これは紀元前4世紀末の作品で、鹿に食らいつく2匹のグリフォンという非常に珍しいテーマで、テーブルの支え(trapezophoros)だったらしい。
1976年から78年にAscoli Satriano(Foggia)の遺跡(墓)から発掘されたらしいが、その後行方知れずに。
バラバラにされ、いくつかの破片はみつかったものの、グリフォンなどの重要なパーツは、古美術商によってPaul Getty Museum(J・ポール・ゲティ美術館)に売却さていたが、2007年イタリアに戻って来た。

隣には

牛に化けたゼウスがエウローぺーを略奪する様子が描かれた壺
Assteasという陶芸家で紀元前4世紀Paestumで活躍していた作家の作品と言われている。
1970年代初期はイタリア国内(Benevento)に有ったことが数枚のポラロイド写真で確認されていたが、その後なぜか闇市場で売られてしまっていた。
それがなぜか1981年までカリフォルニアのゲッティ―美術館で展示されていたが、その後長期の調査とアメリカ政府の協力で2005年、イタリアに返還された。
現在はMuseo Archeologico Nazionale del Sannio Caudino di Montesarchio(BN)に所蔵されている。
こんな大きいものから、銀細工の小さなものなど考古学的な文化財が、遺跡や墓から盗まれ、世界中に散らばっている。

この部屋で、多分現在一番市場価値が高い作品はこれ。

ゴッホ。
1998年5月19日の夜、Galleria Nazionale d'Arte Moderna di Roma(ローマ国立近代美術館)に3人の男が侵入。
3人は美術館が閉館する前に美術館に入り込み、夜間の監視員を縛り上げ貴重な3作品を奪って逃走。
その3作品のうちの2枚はゴッホ、残りの一枚はセザンヌだった。(隣に飾られていた)
有名な作品を売りさばくのは非常に難しいことから、これらの作品は闇に葬られ、二度と日の目を見ることはないのではという心配が募る中、わずか2か月で作品を発見、更に美術館の職員に内通者がいたことも判明した。

美術品の流失には得てして”協力者”がいる。
その価値に対して無知ゆえか知っていてかはさておき。
そして美術品売買で得られた多額の金は、大抵闇の組織の軍資金になる。

隣の部屋にはギリシャの壺などが続き、この展覧会の目玉はその次。
聖母像ばかりが集まった部屋に入るとまず目に入ったのは、Andrea della Robbiaの聖母子像。

1971年8月9日、Toscana(トスカーナ州)、Grosseto(グロッセート)のScansanoという場所のSan Giovanni Battista教会から盗まれた。
日本でも、お寺など普段無人の場所から仏様が盗まれるニュースは後を絶たないが、イタリアも同じような、いやもっとひどい状態にある。
その後、この聖母子像はなんと、2013年ロンドンのオークションに出展される。大胆不敵というかなんというか…
調査の末、カナダ人のコレクションで有ることが判明、カナダのイタリア大使館を通して連絡を取り、公的な司法権限を用いてこの作品の返還を求め、2019年、40年超の時を経てようやく元の場所へ戻ることができた。


Piero della Francesca(ピエロ・デッラ・フランチェスカ)は1975年2月5日、プロの泥棒によってPinacoteca di Urbino(ウルビーノ絵画館)から盗まれた。
一緒にRaffaello(ラファエロ)のLa Muta(無口な女)、Piero della FrancescaのMadonna di Senigallia(セニガリアの聖母),Flagellazione(キリスト苔刑の図)も盗まれた。
この時は情報を頼りに、偽のバイヤーを装った警察官の偽の交渉の末、犯人2名がイタリアで、他の2名がドイツで、残り1名がスイスで逮捕され、作品は地元警察の協力も有り、1976年9月29日、無事Locarnoで回収された。幸い作品の状態もそれほど悪くなかった。


こちらはPerugino(ペルジーノ)の作品。
1987年10月27日、Bettona(Perugia)の市長の部屋から美術館の鍵が盗まれ、美術館から29点もの作品が奪われる。
犯罪にかかわった4人は逮捕されるも、作品は既にジャマイカに。その後ジャマイカ政府の協力を得て、1991年にBettonaの絵画館に全ての作品が戻って来た。

そして記憶にも新しいこれ


2015年11月9日にCastelvecchio di Veronaで他の17作品ととともに盗まれた。(その件はこちら
そして2016年発見された。それはこちらで書いたのだが、この時は「旧ソ連圏」ということだったが、結局ウクライナで発見されたそうだ。草むらにビニール袋に入って発見されたというから驚きだ。

他にもこの会場で唯一の外国人の作品


ルーカス・クラナッハの聖母子像もあった。

そしてこの隣の部屋は、テーマが変わり、「盗難」ではなく、自然災害などにあった文化財・美術品。


これは2018年8月24日に起きた地震で倒壊したNorcia(ノルチャ)の大聖堂から救出された作品。
これを見れば、地震のひどさがよく分かる。
他にも


こちらはそれほど被害がなかったけど、同じ地震でCamerinoから助け出されたTiepoloの作品。
この地震では、消防士、市民保護団(protezione civile)、ボランティアの手で教会、美術館、図書館、古文書館から30,000点以上の文化財が安全な所へ移されました。
この部屋ではその模様がビデオで流されていて、胸が熱くなった。

そして最後はイタリア国外での文化財の保護活動

これは破壊されたパルミラ遺跡から救出された彫刻。
特殊警察は、国内だけでなく、海外の遺跡の保護などにも尽力している。
そして最後に


盗難された文化財の情報は、このように一枚一枚にまとめられ管理されているが、現在ではデータベース(http://tpcweb.carabinieri.it/SitoPubblico/search)で誰でも簡単に見ることが出来る旨の説明と、活動をまとめたビデオを見て終了となった。
私が行ったのが、一日で最後のツアーだったため、1時間強、非常に丁寧な説明を受けることが出来、非常に勉強になった。
今回の滞在ではローマに行くつもりはなかったのだが、雨のなか、はるばるローマまで来た機会が有ったのだ。

普段イタリアという国やイタリア人に対して色々思うところは有るのだが、こういうの見せられてしまうとやはりすごいな、と思ってしまう私だった。

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2 コメント

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御礼 (山科)
2019-06-07 11:35:29
御解説ありがとうございました。イタリア語サイトをみてもいまいちわからなかったので、助かります。
いえいえ (fontana)
2019-06-07 11:54:04
山科様
いえいえ、こちらこそ読んでいただき、ありがとうございます。
面白い展覧会だったので、図録を購入しようかと思ったのですが、30€と高く、重かったので断念。説明を録音したつもりが全然録音されてなくて、公式サイトと無料のパンフレットからなので、中途半端な説明になったなぁと反省していたところでした。

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