教育のヒント by 本間勇人

身近な葛藤から世界の紛争まで、問題解決する創造的才能者が生まれる学びを探して

クオリティ・コミュニケーション・システムの時代

2008-09-15 07:58:25 | 
批判理論と社会システム理論―ハーバーマス=ルーマン論争
J.ハーバーマス,N.ルーマン,佐藤 嘉一
木鐸社

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☆宮台真司氏、東浩紀氏、北田暁大、山下範久氏などを読んできて、ジョン・ロールズやローティ、フーコ、デリダ以外に、ハーバーマスとルーマンの考え方も非常に重要なのだということを確認した。

☆山下範久氏の追い求めている、ポストモダンな世界システムという(欧米主義的)普遍主義に対する本物の普遍主義とは何か?あるいは欧米主義的普遍主義をいかにして回避するか、あるいは乗り越えるか?ハーバーマス=ルーマン論争は、結果的に、この本物の普遍主義を可能にするために、コミュニケーション論と社会システム論の議論をしていると直感した。

☆また宮台氏は、ルーマンの社会システム論が気に入っているようだが、むしろコミュニケーション論の課題設定はハーバーマス寄りである。おそらくハーバーマス=ルーマンの統合理論を念頭に置いているのだろう。

☆北田氏は、ハーバーマス=ルーマン論争の見果てぬ存在や思考の準拠(クライテリア)の解決をロールズやローティに求めているのかもしれない。

☆東氏は、ハーバーマスが、結局追い詰めながらも、具体的に解決策を論じきれずに終わる理想的発話状態という、討議の正当性・信頼性・妥当性をいかに測定可能にするのかに挑んでいる。理念的人間を、いったんデータベース的動物に貶めながら、理想的発話状態を―宮台氏ならそれは「世界の根源的な未規定性」というのだろうが―、サブカルチャーで脱構築してしまう戦略だ。これは宮台氏と同じ研究路線のようだが、微妙に違う。

☆理念的人間であろうとしながら、大きな物語を失った人間は、理念なき人間になっている。それが近代である。≪官学の系譜≫である。理念の回復をというのが≪私学の系譜≫である宮台氏の路線だ。

☆しかし、その理念は「世界の根源的な未規定性」の壁にぶつかる。だが、それでよい。その意識を持ちつける高度なコミュニケーションそのものを社会システム論で構築しようといういうわけだ。このことについては、ハーバーマス=ルーマン論争で、ルーマンがハーバーマスの討議自体がすでにシステム論ですよとさらりと言っているところに通じるだろう。

☆だが、東氏は、たしかに「未規定性」はよいが、仮説である以上、「仮説的規定」を批判するだけではなく、その規定はいかにして可能なのか、理念なき人間の自分なりのローカルな理念づくりの方法論を積極的に分析しようというのが、「動物化するポストモダン」とその続編「ゲーム的リアリズムの誕生」の戦略だったのではないだろうか。

☆ゆずのコンサートで村上隆が涙する。ここには教養的アートの階層性を超えたフラットなコミュニケーションでありながら、「世界の根源的な未規定性」に共鳴共振する理想的発話状態が成立している。それはいかにして可能なのか。

☆批判をしている間に、ここにあるように、現実目の前に理想的発話状態を作り出す実存の姿がある。もちろん、仮説的だし、ローカルだけれど、≪官学の系譜≫が造ってきた基準(クライテリア)よりもグローバルだ。

☆ハーバーマス=ルーマン論争は、理論としては今も生きているが、その論争が行われた70年代とゼロ年代の今日では、実存のありかたがまるで違う。そのクライテリアの漂泊性は変わらないが、漂泊のままにしない実存がエリートではなく、サブカル・レベルに浸透している。

☆ここの正当性・信頼性・妥当性を論じているのが宮台氏なら、東氏はそのシステムそのものを分析している。

☆さて、あとは「世界の根源的な未規定性」を感じながら、仮説を組立て、チェックし、脱構築しながら果敢に生き抜く実存的人材はどういう環境で育ち、育成プログラムはいかにして可能かということである。それゆえ宮台氏は、教育にこだわるのである。

☆私はといえば、その環境として≪私学の系譜≫に立地する学校(私立・公立は問わないが、制度上私立学校の方が位置しやすい)を探す方法を考案することを目的とし、「名門中学の作り方」(学研新書)を書いた。

☆また育成プログラムとして、クオリティ・コミュニケーション・システムベースのプログラムをデザインした。その一つの試みとして2001年から今も続き、毎年20校ほどの学校で採用されているのが、Honda「発見・体験学習」プログラムである。発案者がいなくなっても、継続しているのだから、システム化したという意味では成功したのではないかと思っている。

☆また私学の先生を中心に授業の勉強会も続けている。その中で、明大明治の松田先生の居場所作りの授業に注目し、刺激を大いに受けてきた。松田先生の実践し理論化している居場所作りは、まさに一人ひとりの生徒が「世界の根源的な未規定性」を自分の居場所にいかにシフトできるのかという挑戦である。その実存的姿に共鳴できる≪私学の系譜≫に位置する先生方のゆるやかなネットワークが「The授業リンク」である。

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