『ユメ十夜』 ~『夢十夜』から百年後に見た夢・・・

2007-02-04 23:59:50 | 映画&ドラマ




 漱石先生ゆかりの千駄木を散策してから、短編『夢十夜』を映画化した『ユメ十夜』を観るという手も考えたのですが、それではちょっと生々しいかなとも思い、少し外して鷗外の『雁』から入りました。
(不忍池には雁はいないと思うけど、冬の間は多くの渡り鳥が羽を休めているし)

 それでも、小説『夢十夜』と、それから百年後に製作された映画『ユメ十夜』のギャップに戸惑ってしまいました。この二つの作品の間には、文学と映画の差以上のものがあります。当たり前の話だけど、『夢十夜』は夏目漱石が書いた異色の短編で、『ユメ十夜』は、「こんな夢を見た~」漱石の文章から自由に想像力を働かせて描いた十篇の(正確にいうと、プロローグとエピローグがあるので、十一篇)オムニバス映画です。小説『夢十夜』は、長編『虞美人草』脱稿後、朝日新聞に連載されました。『三四郎』『それから』『門』の三部作へと続く「夢の架け橋」だったのかもしれません。

「全然、原作と違うじゃないか?」と、第四夜あたりでイラついてしまったのですが、家に帰って『夢十夜』を読み返すと、自分が覚えていたのは第一夜と第三夜だけで、あとの物語をそのまま映画化しても、全く面白くないことに思い当たりました。映像化するより読んでなんぼの作品だったのです。
 十九のときに初めて、夏目漱石の文学に魅力を感じるようになりました。それまでは、『坊ちゃん』しか馴染めなかったのです。夢中になって漱石を読んだのですが、『夢十夜』は、異色というか、明治時代のSF小説とも思え、長編に劣らず気に入っています。著作権が既に切れているせいでしょうか、横書きだけど『夢十夜』は、ここでも読めます。←クリック

 先の話に戻ると、『夢十夜』を映画化する意味はなかったのかというと、そうではなくて、『夢十夜』の各エピソードがメタモルファーゼして、『ユメ十夜』のエピソードになったこと自体が、実は非常に有意義な試みだったのではないか、と考えるようになりました。文芸映画は原作の忠実な映画化でなくても良く、ましてや題材が夢なのだから、「一人の作家が綴った夢から、百年後に新たな夢が生まれた」と考えれば、実に痛快な気分になったりして・・・ 
 そう考えると、原作につかず離れずの第一話と第二話を監督した二人が物足りなくなってしまい、最も不気味な第三話をまかされたホラーの第一人者が、大変苦労しただろうと想像できます。自分の感性ではついていけない物語も、中にはありましたが、それはそれで良しとしましょう。奇妙なのが、夢の世界なのだから。


「プロローグ」「エピローグ」 監督:清水厚  出演: 戸田恵梨香、藤田宗久
 導入部とエンディングを「第四夜」の監督がうまくつないだ。

「第一夜」  監督:実相寺昭雄  出演:松尾スズキ、小泉今日子、寺田農
 「ウルトラセブン」が有名だけど、邦画史上三本の指に入るピカレスク浪漫『無常』(70)など、大好きな人です。これが遺作になってしまいました。小泉今日子の特に声が苦手(ファンの方ゴメンナサイ)

「第二夜」  監督:市川昆  出演:うじきつよし、中村梅之助
 30年ぶりに『犬神家の一族』を自らリメイク。巨匠は難しい第二話(考えようによっては一番つまらないエピ)を担当、無難にまとめてみせた。

「第三夜」  監督:清水崇  出演:堀部圭亮、香椎由宇
 最も不気味なエピを『呪怨』の監督が担当。彼をもってしても、原作で描かれた人間の業の深さから生じる「闇」を映像化することは困難だった・・・前世の話を切ってしまったのは正解か失敗か意見の分かれるところ。「第三夜」は執筆当時の漱石の心情にもっとも近いと言われていて、19歳の香椎由宇さんが子供を六人産んだ漱石の「妻」を演じている。彼女が今後の日本映画を担う期待の星(もう一人、蒼井優さんがいますが)だと、本作品で見事に証明してみせたと思う。

「第四夜」  監督:清水厚  出演:山本耕史、菅野莉央
 「手ぬぐいを蛇に変える」という爺さんが海に消えていく不思議な話を、昭和30年代頃を舞台にした物語に大胆に改変。主人公の漱石君を山本耕史が好演、セットも見ごたえあり。

「第五夜」  監督:豊島圭介  出演:市川実日子、大倉孝ニ
 この作品も、馬にまたがる天探女(あまのじゃく)のビジュアルを除き、全く違う物語に改変。こういう夢は悪夢として見そうだけど、見たくないなあ~オチは可愛いけどね・・・

「第六夜」  監督:松尾スズキ  出演:阿部サダヲ、TOZAWA
 仏教説話か哲学問答みたいな「第六夜」を「萌え」「来た~~~~」などのアキバ言語と、TOZAWAのパフォーマンスで、笑い飛ばした(でも、原作の主旨はそのまま)。個人的にはモエとかキタとかいう言葉は聞きたくない・・・

「第七夜」  監督:天野喜孝&河原真明  声:Sascha、秀島史香
 どこへ向かっているのかわからない大きな船に乗る「第七夜」を、3DCGアニメーションで表現。すいません。途中で寝てしまい、まともに見ていません・・・

「第八話」  監督:山下敦弘  出演:藤岡弘、大家由祐子、山本浩司
 難解でナンセンスな「第八夜」。映画もまた、思い切りはじけてみせた。起きたばかりで寝ぼけていたのか、本当に夢を見ているような内容だった。回虫の化け物みたいな生き物がでてきたけど・・・ぞっとしました。

「第九夜」  監督:西川美和  出演:緒川たまき、ピエール瀧
 唯一の女性監督が撮った「第九夜」は、最も心に残るエピソードになった。出征する兵士と残された妻と幼い子供を、幕末から太平洋戦争時に置き換えたのは正解。「第十夜」を監督した山口雄大を嫉妬させたほど、西川監督は主演女優を美しく撮った。ある分野で引っ張りだこの女優=緒川たまきさん、本作でもあきれるほど美しい。瞳に力があって、夫にすがりつく様や、お百度を踏む足の裏まで完璧に美しく、全然関係ないけど、彼女が『硫黄島からの手紙』で二宮の妻=花子を演じていたら、『ラストサムライ』の小雪以上にブレイクしただろう、なんて妄想したりして・・・漱石の『夢十夜』は、本好きな彼女の五本の指に入るお気に入りだとのこと・・・兎に角、彼女を見るだけで元が取れちゃうんだけど、「足の裏」の美しさといえば、小津安二郎作品の三宅邦子の何気ない所作を思い出した。たまきさん、ほんとに素敵でした。

「第十夜」  監督:山口雄大  出演:松山ケンイチ、本上まなみ、石坂浩二
 最後を飾る『地獄甲子園』の監督は、ヒロインの本上まなみを緒川たまきに負けないくらい美しく撮りたかった。もちろん、それは可能な話だけど、まなみ嬢の本当の姿は・・・たまきさんとは違う形で、美人女優が勝負をかける。松山ケンイチ君にも、驚かされた。この先、非常に楽しみだ。彼なら夢二も演じられるのでは?



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 予告編で気になった『蟲師』。『蟲』といえば、真っ先に乱歩の傑作を思い浮かべるが『蟲師(むしし)』と音読してみると、例えば『コレリ大尉のマンドリン』みたいな、非常に間が抜けた感じがする。笑っているんじゃないんだから・・・
主演はオダギリ・ジョー。C G の出来は感心しませんが、淡幽を演じている蒼井優の存在感が凄い! 苦手の江角マキコも何かいい感じだし、これは見なくちゃね!
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