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『スウェーデンに学ぶ「持続可能な社会」』- 北欧の小さな「政策大国」、未来志向の税制そして年金制度

2006-09-29 | こんな本を読んでいます
何度か題名を御紹介している本です。

いわゆる「スウェーデン・モデル」が有名になっていますが、
この国が「先見性、政策力において日本より勝っている」ことは知られていません。
『スウェーデンに学ぶ「持続可能な社会」』(小澤徳太郎,朝日新聞社)の紹介

学ぶべきところがいくつもありますので、お薦めの一冊ですよ。
この著作は書店で平積みの『美しい国へ』より50倍は役立ちます。

「 スウェーデンはヴィクセルやヘクシャー、オーリンなど世界的
 な経済学者を輩出し、1930年代の世界恐慌をいち早く脱出
 することに成功した経験を持つ、経済政策の最先進国だ。」

この冒頭にある一節を読むと、誰しも興味を惹かれるに違いありません。
しかも、日本が何年も費やしてやっと切り抜けた「不良債権問題」は、
スウェーデンではわずか1年で解決している、とのこと。(!)

この本の内容はかなり長いものですので、
いくつかのトピックに分けて御紹介してゆきます。

[a]「貧しさ」を克服したスウェーデン


“100年以上前、日本の明治二十年代中頃、スウェーデンはヨーロッ
 パで最も貧しい国でした。余りにも貧しいがゆえに、当時の人口
 350万人のうち三分の一くらいが移民として米国に渡ったと言わ
 れています。なぜ貧しかったかというと、スウェーデンは自然条
 件が厳しい上に、国内で石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料が
 採れなかったからです。外国から買いたくとも、輸送手段がない
 ために、輸入もできませんでした。このために、他のヨーロッパ
 諸国に較べて工業化が遅れたのです。しかし、この40年間でス
 ウェーデンは、現在のような福祉国家になりました。私なりにそ
 の主な理由を考えてみると、次のようになります。1)石炭や石
 油というエネルギー源はなかったけれども、水力発電で電気をつ
 くりだしたように、技術力を持っていたこと。2)早くから教育
 に力を入れていたこと。3)自らの意志で外交的中立を維持し、
 1814年以来190年間戦争に巻き込まれなかったため、充分な社会
 資本の蓄積があったこと。4)社民党が政権の座に就いて以来、
 「この貧しい国を福祉国家にする」というビジョンを掲げ、福祉
 国家の建設を着実に実行に移してきたこと。”


1)、2)あたりは日本にも備わっていると思いますが、問題は4)です。
この「ビジョン」「実行」においては、日本はスウェーデンに完敗でしょう。

[b]スウェーデンの税制と財政再建


“ スウェーデンは財政再建のために「歳出の削減」と「増税」を実施
 した。歳出削減と同時に、景気回復のために経費の中身を教育への
 投資、IT(情報技術)インフラの整備、環境政策、強い福祉の四
 分野に大きくシフトさせ、1992年から知識集約的産業の成長を
 倍増させ、産業構造を転換させた。世界最強の「IT国家」を目指
 し、ストックホルムをして「IT首都」とまで賛美させる産業構造
 の転換こそ、スウェーデンが景気回復にも財政再建にも成功した鍵
 なのである。”


{ 歳出削減+増税+重点分野への投資 }だそうです。
日本でもすべきことは全く同じだと思うのですが、いかがでしょう。


“ スウェーデンは、日本や米国のように直接税中心の国でありませ
 ん。寧ろ、税収の多くは付加価値税(消費税)等の間接税による
 もので、国税としての所得税は、一部の高額所得者にだけ単一税
 率(95年に20%から25%へ)で課税しているに過ぎない「
 間接税国家」です。スウェーデンの付加価値税(日本で言う消費
 税)は、1960年に「取引高税」として4.2%の税率で導入さ
 れ、90年には25%(食料品は12%、書籍は6%、この他医薬
 品などには軽減税率が適用され、住宅は非課税)で世界最高水準
 となり、現在に至っています。
 スウェーデンは、1990年の税制構造改革(税制のグリーン化)
 で、課税対象の転換の第一歩を踏み出したヨーロッパ初の国(世
 界初の国)となりました。この税制構造改革で、CO2税や二酸
 化硫黄の排出税、窒素酸化物の排出税が新たに導入され、所得税
 と法人税率が引き下げられました。その結果、スウェーデンの法
 人税率は経済協力開発機構(OECD)加盟二九ヵ国中、最低(
 1999年時点で28%、日本は40%台)となっています。〔中略〕
 スウェーデンでは21世紀最大の問題である環境問題の解決への
 有効な「社会科学的な対応」のひとつとして「課税対象の転換」
 が真剣に検討されてきました。20世紀はグッズ(労働など「良
 いもの」)への課税で国家財政がまかなわれてきましたが、21
 世紀にはバッズ(汚染物質の排出行為など「悪いもの」)へ課税
 対象をシフトしようというものです。”


これは、「税制を手段とし、より良い社会を築こう」というあり方です。
とにかく「税を取られないように」と考える日本との余りの落差に愕然とします。

[c]スウェーデンの年金制度


“ 改革の中心はふたつあります。ひとつは旧制度の「給付建て」
 から「拠出建て」へ全面的に切り替えたこと、もうひとつは、
 「自動財政調整方式」を導入したことです。つまり、年金受給
 世代に優先権を与えてきた旧制度とは180度違って、新制度で
 は21世紀の社会に生きる現役世代に優先権を与えたのです。
 賦課方式の部分は「概念上の拠出建て」という計算方式で計算
 され、現役世代が自分の支払った保険料に基づいて、年金受給
 年齢になった時に自分の支払った保険料に基づいて、年金受給
 年齢になった時に自分が受け取れる給付を計算できるようにな
 っています。
 積み立て方式的な要素の部分は、民間金融機関の年金商品の中
 から、現役世代が運用先を自己責任で選ぶことになります。で
 すから、運用成績次第では、現役世代に支払った保険料の総額
 が同じでも、年金受給世代に受け取る年金額に、多少の増減が
 生まれることになります。
 また、年金財源の安定化を図るために、経済・社会の変化に柔
 軟に対応できる「自動財政調整方式」が導入されました。年金
 財政が悪化し、年金の物価スライド率を下げ給付額を減らす等
 の変更が必要になった時には、この方式の導入によって、国会
 の議決が無くても給付水準の引き下げが自動的に行われること
 になりました。”


ちなみに「年金受給世代に優先権を与えてきた旧制度」とありますが、
現在の日本の年金制度がまさにこれです。
まあ日本も、何年かして追い詰められてから「拠出建て」に切り替えるでしょう。

尚、筆者はスウェーデンの年金制度の利点として次のように述べています。

1)新制度はすべて就労所得に基づいているので、経済状況が良ければ年金受給
  額は増えるが、悪ければ減っていく。将来は、自分の生活の安心は自分の責
  任で確保する方向が打ち出されてきた。その結果、個人的な年金貯蓄が増え
  ており、私的年金保険会社が活気を持ってきた。

2)現役世代が支払う保険料水準は固定されるが、年金受給世代が受け取れる給
  付水準は固定されないので、旧制度のように年金受給世代の給付水準を保障
  するために、将来、現役世代に大幅な負担を強いることがなくなる。つまり
  この制度は年金受給世代よりも現役世代・将来世代に重きを置いた未来志向
  型の制度である。

3)現役世代の生涯所得が給付水準に反映されるので、受給世代に達した時に労
  働市場から引退するのを引き留めるインセンティブが働く。

4)寿命が延びることは公的年金に対する財政負担の増加にはつながらない。

5)旧制度と同様にすべての国民を対象にするが、新制度は将来の経済状況や人
  口動態の変化に対して、「自動財政調整方式」の働きで制度の柔軟性が確保
  される。

よくよく読み返すと凄い内容で、スウェーデンの年金制度の優秀さが分かります。
何しろ、「現役世代の負担増」「高齢者の勤労所得」「受給期間の長期化」
等の日本で問題となっている点が、ほぼすべてクリアされているのですからね。

… この本を読んでおけば、安倍政権の実力がどれほどなのかすぐに判断できます。

他にも1991年から炭素税を導入していたとか、
ボルボの環境問題への取り組みなど、充実した内容です。


但し、アマゾンでこちらを一冊だけ購入すると送料が必要ですので、
下記の本も併せて注文されても良いでしょう。
『平らな国デンマーク』「幸福度」世界一の社会から(高田ケラー有子)の紹介
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2 Comments

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コメント失礼致します。 (事務局尾崎)
2006-10-31 12:45:18
突然のコメント失礼致します。

小澤徳太郎先生の名前で検索していたところ御ブログに到達しました。非常に分かりやすい文章で感服致しました。

私は、今度、小澤先生が呼びかけ人となって開催されるシンポジウムの事務局の尾崎と申します。

もしご興味がおりになれば、シンポジウムの事務局のブログにお越しになってください。

http://blog.goo.ne.jp/greenwelfarestate

突然失礼致しました。
過分のお褒めで恐縮です。 (いとすぎ)
2006-11-04 00:26:11
尾崎様、コメントありがとうございます。

小澤徳太郎様の著書の内容が素晴らしかったので、
引用ばかりで私自身の文章は少しだけなのですが ……

御事務局のブログも拝見させて頂きました。
残念なことに環境問題はなかなか日本では
盛り上がりにくいテーマだと思うものの、
シンポジウムをきっかけに少しでも関心が広がってゆく
ことを祈っております。

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