mukan's blog

つれづれなるままに ひぐらしPCにむかいて

変化に富む薬師岳の縦走ルート(1)北アルプス深奥部に入る

2017-08-05 10:04:10 | 日記
 
 五日間の山旅を終えて無事に帰ってきた。薬師岳を訪ねる今回のルートは、岩と雪渓とお花畑に彩られた変化に富む、日田アルプスの奥深さを満喫させるルートであった。経路を紹介しておこう。
 
1日目……立山の弥陀ヶ原や室堂を周遊し、天狗平山荘に宿泊する。
2日目……室堂から浄土山を経て龍王岳、鬼岳、獅子岳、ザラ峠を通り五色ヶ原山荘まで。
3日目……五色ヶ原から鳶山、越中沢岳、スゴの頭を経てスゴ乗越小屋に泊まる。
4日目……スゴ小屋から間山、北薬師岳、薬師岳を越えて、薬師岳山荘、薬師峠を経て太郎平小屋。
5日目……太郎平小屋から折立へ下る。
 
 天狗平山荘に宿をとったのは正解であった。いつもなら観光旅行扱いして振り返りもしない弥陀ヶ原や室堂の周辺を4時間ほど歩いた。周囲を取り囲む剣岳、立山三山、大日岳の山稜と、その緑と岩の山肌に残る雪渓の大パノラマの中にお花畑が広がり、老若とりまぜた観光客や家族連れのハイキング客、私のような縦走の起点や終点に立ち寄る登山客に交じって中学生の林間学校のトレッキングが、みくりが池の周回路を歩いている。ほんとうに日本は豊かになって、こうした遊びに時間を費やすことが日常に風景になった。私が最初にこの地を訪れたのは1964年の夏。すでに観光地と言えば観光地であったが、私は雪渓訓練を受けるために、ここに一週間幕営して過ごした。じつはそのときの光景をそれほど詳しく憶えてはいないのだが、当時の、粗末な板を敷いた木道とぬかるむ道のほかは登山基地の山荘がいくつかあるだけであった。いまはその気配はなく、広いバスターミナルと高層ホテルや何軒もの山荘が点在する石とコンクリートとで固められた遊歩道が山際へとつづいている。すっかり観光地になっている。夕食のときに知ったのだが、剣岳が遠望できる宿は室堂ではこの天狗平山荘だけだという。消えては湧き起る雲がしばらくとれて、食堂から剣岳が姿をみせた。
 
 2日目、室堂までは車で送ってくれた。7時15分に歩きはじめる。すでに何人もの登山者が先行する。立山の雄山、大汝山に向かう人たちと別れる分岐のところで、浄土山へ向かう二人連れの男の登山者から「五色ヶ原に行くのは一の越方面を越えるのとこちらと、どちらがいいんでしょうね」と聞かれる。歩行時間は同じ。だが天狗山荘の主人が「浄土山から下りたところの雪渓が怖かった」と話す登山者がいたと教えてくれた。それを伝えて先に進む。先行していた十人くらいの一組も、道の片側をすり抜ける。彼らがどこへ行くのかわからないが、ずいぶん体が重そうだ。室堂山へも立ち寄ったが、すっかり雲の中。少しひきかえし雪渓を渡って浄土山への岩場にとりつく。ここから標高差200mほどが急登だ。雨が降りかかる。雨具をつけると、さほど気にならない。一人先を行く若い単独行者がいる。岩場の上で一緒になった。浄土山2831mの山頂と思わしきところに山名表示はない。ここが今日通過する中の最高点だ。若い人は龍王岳から一の越へ下って行った。逆に回ってくる人たちにも出逢った。話しはしなかったが、単独行の中学生(?)らしき若い人には驚いた。
 
 踏路はしっかりと踏まれて危なくはない。鬼岳2750mに差し掛かるところから雪渓が現れる。9時20分、歩きはじめて約2時間になる。一人の先行者がいるが、雪渓を避けて、その上の岩場をトラバースして歩きにくそうだ。雪が怖いのだろうか。向こうから8人ほどの集団が渡ってくる。彼らが渡り終えるまで待つが、先頭のリーダーらしい男の人に訊くと、五色ヶ原からきたという。行動に時間がかかるので4時に出立したそうだ。5時間余掛かっている。彼らは雄山に登ってから室堂へ向かうという。リーダー以外は皆、中高年の女性。雪渓を傘を差して渡っているから余裕なのだろうが、動きは鈍い。その先で、いよいよ鬼岳東面の大雪渓。急斜面の雪が400m以上下まで落ちてみえなくなっている。その際上端の雪面をトラバースする。だが踏み跡はしっかりしている。先ほど先行していた女性が岩陰に座っている。向こうから渡ってくる人を待っているのかと思ったら、それだけではなくアイゼンを出して装着しようとしている。向こうからの人が渡り終え、私に先へ行けという。私はアイゼンはもっていない。ストックで慎重にバランスをとりながら、先へすすむ。10m行ってはジグザグに折り返す踏み跡を辿りながら、緩やかに高度を下げる。雪がザクザクとやわらかいから、アイゼンが利くかどうかわからない。200mほど進んで一度岩場に乗り、その先で今度は雪渓を150mほど下る。下から5人の女性集団が上ってくる。道を開けると「私たちはアイゼンをつけているから大丈夫です」と、わきへよけてくれる。アイゼンはお守りのようなものだと思う。雪渓が終わって振り返ると、うしろからアイゼンを装着していた女性がやってくる。
 
 そこから先が、雪解けが終わったお花畑が時を待ちかねたように広がっている。木道を歩きながらシャカシャカとカメラのシャッターを押す。ハイマツをまじえた山肌の緑とその向こうにつづく雪の白さが、手前の花の色と重なって、急ぎ足の季節の進行を伝える。獅子岳頂上2741mに10時23分。出発してほぼ3時間。ここからザラ峠へは急峻な下りと地図にあったが、しばらくは稜線沿いのお花畑を歩く。と、道筋にライチョウがいて何かを啄ばんでいる。顔つきからするとまだ若い。一年目の成鳥なのだろうか。カメラを構えると、少し気にしてこちらを向く。シャッターを押す。アップにした目が光っている。と、いまきた登山道の霧の中に人影が見える。ライチョウがいるぞと告げると、彼は後続の同行者にも声をかけ近寄ってくる。まだ二十代の若い人たちだ。ライチョウは、気づいたらしく、少し先の登山道に移動する。若い人はスマホを構える。あまり長い間道を塞がれても困る。登山道の上の岩場を通過しようとゆっくりとすすむ。ライチョウはとうとういたたまれなくなったのか、飛び立つ。羽根と体の部分に白いところを残して飛び去る姿は、見ごたえがあった。
 
 若い人たちに先行してもらうが、一人が急な下りにストックを仕舞おうとしているところで追いついた。もう一人は先行して待っている。これも追い抜いてザラ峠に下り降り、もう11時になっていることに気づいてお昼にする。強い風が吹き付ける立山カルデラに背を向けて座って、インスタントラーメンにお湯を入れる。若い人二人が挨拶をして通過する。食べ終わるころ、雪渓で追い抜いた若い女性が通過する。お昼を終わって最後の上りを上がっていると、この女性が休んでいる。その傍らに黄緑色のトウヤクリンドウが何輪も花をつけている。金峰山で教わった花だ。高山の岩場で砂地に花をつけているから強い花だといったら、他の花に負けてしまうからこういう環境の厳しい土地に適応する種になったと説明を聞いた覚えがある。コマクサと同じだ。だから何が強いか弱いか、わからない。生存に適応しようとするかたちがこのような環境に適ったというべきか。
 
 その上は五色ヶ原の木道。緩やかな斜面を草花が彩る。葉は違うがサクラソウのような花びらをつけたのもあった。五色ヶ原山荘に着く。12時20分。歩きはじめて約5時間。コースタイムよりも30分ほど早い。部屋に入って着替えるころ、窓の外が大ぶりの雨になっていることに気づいた。ラッキーであった。(つづく)

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