mukan's blog

つれづれなるままに ひぐらしPCにむかいて

閑静スリリングな二子山

2016-09-09 17:08:01 | 日記
 
 今日は晴れると昨日の予報に出た。長く待った晴れだ。逃す手はない。4時半に起きて、車で小鹿野町の二子山に出かけた。高速は快適に流れ、花園ICから秩父への道もスムーズに運ぶ。通勤の流れと逆を行っているからだ。家を出て1時間で寄居町を通過する。ここから小鹿野町の坂本の登山口までさらに1時間かかる。ガイドブックは坂本バス停から登ることにしているが、今日は車をさらに上の民宿登人までもっていける。これだけで、1時間は節約できる。
 
 歩き始めると、すでに2台の車が止まっており、二組5人の登山者が用意をしている。挨拶をして私は、先行する。だがすぐに、単独行の中年の人に道を譲る。彼の足は速い。見る間に姿が見えなくなる。登山道はしっかりとした踏み跡がついているから、間違いようがない。だが水量の多い沢を渡り、スギの林に囲まれた傾斜の急峻な登路はごつごつした岩ばかりではない。落ち葉もついていない粘土質の土が昨夜までの雨をたっぷりと含んで、よく滑る。急な傾斜になると、ストックもなくバランスだけで上ることができない。かたわらの木につかまり、岩角に手をかけて、身体を引き上げる。木々は雨を含んで濡れている。40分ほどで「ローソク岩 →」の看板を見る。そちらへ足を運ぶ。これは二子山西岳の東峰の端に立つ大岩なのだが、下からでは広い下部がオーバーハングして全貌を推察することもできない。岩をおちてくる雨の名残が、下に置いた一斗缶に当たって、ポツン、ポツン、ポツンと誰かが呼び掛けているような音を出している。引き返し、上を目指すが、すぐに股峠に着く。
 
 股峠には、二子山西岳の絵図が描いてあり、上級者ルートと一般者ルートとを図示している。「引き返す勇気をもとう」と別の看板もある。岩場の登降なので滑落、転落が多いらしい。今日は一人なので、安全確保のザイルももってきていない。私の山の会の人たちを案内できるところかどうかを見にきたから、無理はしない。東岳に向かう。岩と滑りやすい土の急な斜面を木や岩角につかまりながら登る。登り切ったところに、垂直に切り立った大岩が立ちはだかる。大岩の右にクラックと呼ばれる切れ込みが斜めについている。左を覗いていみると、手がかり足がかりはたくさんあるが、ここもほぼ垂直に体を持ち上げていくようなルート。これはとても私の山の会の人たちには向いていない。ここを上がると、左右どちらのルートも上で合流して二子山の東岳に行き着ける、とガイドブックにはあった。でもいいか、と東岳を諦めて下山する。こちらより西岳の方が40m標高で高いのだ。
 
 下っていると、上り口で用意していた4人組が登ってくる。若い。でもザイルを用意している様子はない。先ほど「でもいいか」と諦めた自分が、昔のような覇気を失いかけているように思えた。だが、身体が力を失うに比例して、意欲が衰えたり、慎重になったりする身体の反応は、返ってありがたいようなものだ。そう自分に言い聞かせながら、股峠から西岳に向かう。
 
 西岳の東峰の大岩の足元までは上級ルートも一般ルートも同じだ。そこで別れる。私は一般ルートをたどる。しかしここも、少し進むと岩をつかみ、岩角に脚を乗せて身体を持ち上げるような岩登りになる。しかも、ほかの道を選ぶような余地はない。ここだけが切り拓かれているという気配。う~ん、むつかしいかな、年寄りには。二、三カ所ロープもあったが、むしろこの先へ行くなという仕切り線に使っていて、身体を持ち上げるためではない。「西岳山頂→」の看板がところどころにある。後で分かるが、西岳の東峰の上を超えるルートが上級者用のようだ。回り込んで西岳の中央峰から東峰を振り返ると、やはり垂直に立ち上がった大岩が手がかり足掛かりを見せて、ぬっくと立ちあがっている。高さ30mは越えているだろう。
 
 東峰と中央峰のあいだに立ったとき、わかった。この山は全山岩山で、凸凹の大岩を乗越したり回り込んだり、上ったり下ったりして、次の岩場へと歩を進める。岩にペンキで印がついていないから、岩角の踏み跡を見たり、右や左へ回り込んで先へ行けるかどうかを見極めたりする。と思うと、少しばかりついた土が踏みならされて登路と分かるところもある。そう言えば若いころ、岩登りのトレーニングに二子山の名がよく上がっていた。あいにく私は、ここに来たことはなかったが、こんな岩場ばかりの山とは思わなかった。面白い。中央峰に9時45分、まだお昼を食べるには早すぎる。陽ざしも強く、暑い。両神山に雲が少しばかりかかりはじめている。
 
 西峰もまた、独立峰のように起ちあがり先を塞ぐ。回り込むのかと思っていたら、上の方を辿る。緊張しているから、上り下りの落差はあまり気にならない。一カ所だけ、岩を前向きにつかみ、ザックを背負った背を中空へ投げ出すようにして降りるところがあった。そこは、下部が切れ落ちて絶壁になっているから、岩をつかみ足場を探して降りながらトラバースして行かねばならなかった。こいつはちょっと難しいかな。
 
 それらの岩場の最後の部分が、鎖を設えた大下りだ。ここは、鎖をつかみ身体を外へ押し出して足場を探すが、程よいところにあるわけではないから、小さな突起につま先をかけ、身体をずりずりと降ろして、別の足場を探すようになる。このときの緊張と無事下ったときの達成感が岩登りの醍醐味ではあるのだが、「誰よこんなバリア・オンリーのところをつくったのは」と自然の山の神を謗る天然山姥がいる山の会だから、とてもお連れできるところではない。この鎖場が、双子だけの最後の部分になる。
 
 斜面を下ってみたら、登山路が二岐に分かれ、東へ行く方も西へ行く方もピンクのリボンがつけられている。国土地理院の地図には東への道はない。ずいぶん丁寧につけられている東の方へ踏み込む。ところが10分も行くと、「←魚尾道峠・股峠→」と表示板がある。えっ、とすると、西へ行くルートが正解なのだ。引き返す。ピンクリボンの分岐から西へ向かう。すぐに「←志賀坂峠・西岳→」の表示板がある。はて、「志賀坂峠」へ行ってしまうのは別ルート。ここは魚尾道峠ではないのか。でも行ってみようと先へほんの何十メートルか進むと、「←坂本・西岳→」の表示。だが、坂本と表示された方は、シカ避けのネットが張られていて、入れない。ネットに沿って直進するルートはあるが、わざわざ枯れた大きな木を横たえて、(こちらへ行くな)と言っているようだ。たぶんそちらへ行くと「志賀坂峠」になると読んだ。とすると、このネットを超えなければならない。2m近い高さがあるから、上を超えることはできない。下をくぐる。ザックを降ろし、ネットの裾を持ち上げ、身体をくぐらせ、ザックを手繰り寄せる。うまくいった。ところが少し行くとまた、ネットに阻まれる。今度はさっきのネットよりも、下の余裕が少ない。でもくぐり抜け、よく刈り払われた萱のルートをたどる。気持ちのいい下山路だ。途中で立ち止まって振り返ると、西岳の岸壁が見事に擁壁をなしているのが見える。あの上を歩いたという満足感は、いうまでもない。そうして国道に出て、500mほどで車のところに着いた。11時半。3時間半の行程であった。東岳へ行った人たちの車は、置いたままであった。