mukan's blog

つれづれなるままに ひぐらしPCにむかいて

北海道・道東・探鳥の旅(1)――探鳥消費者の我が身を反省

2016-05-14 20:26:31 | 日記
 
★ 1日目
 
 8日から6日間、北海道へ探鳥の旅に出ておりました。道東――紋別からオホーツク沿岸を東へ鳥を観て歩く、というのが当初の計画でした。それがいきなり、初日から躓きです。天気晴朗なれども波浪高しというのでしょうか。羽田から紋別に向かった飛行機は、紋別空港を下に見て上空を旋回すること6回、ついに降り立つことをあきらめて、新千歳空港に向かったのでした。見た目には風が強いと思えません。岸に打ち寄せるオホーツクの波も、200mほど上空からですが、それほど高くは見えないのです。でもあとで聞くと、風速57km/hといいますから、17m/secくらいでしょうか。滑走路へ侵入するにはまだ少し高度が高すぎるところの飛行機はときどき、がくんと機体が風に叩かれるように下へ落ちます。パイロットがあきらめたのか、管制官が止めろと言ったのかはわかりませんが、新千歳へ向かってしまったのです。私たちを迎えに来ていたチャーター・バスはどうしたんだろう。宿のキャンセルはどうなるんだろうと、主催した鳥仲間は心配が絶えなかったでしょうが、全部お任せの私(たち)は、ぞろぞろとついてまわって待ちながらおしゃべりしているだけ。つくづく、丸投げというのもいいもんだと思いました。
 
 とりあえず札幌の宿をとり、空港から路線バスで向かい、春のやっとやってきた風情の北海道の空気を吸っては、明るい陽ざしの北の大地をほめたたえて、私たちの旅ははじまったのでした。札幌はすすき野の狸小路にあるホテル。賑やかな中心街の通りは開け閉めのできる天蓋が覆う歩行者天国になっていて、日曜日ともあってたくさんの人通り。ほとんど池袋や有楽町の繁華街と変わりません。夕食は「炭火焼の居酒屋」。初日から何だか、宴会風にはじまってしまいました。まあ、オホーツクではなくても鳥はいるものですから、誰も落胆していません。
 
★ 2日目
 
 3月の八重山群島では、朝、鳥が見えるようになるのが7時ころとあって、「朝の探鳥」はありませんでしたが、ここ5月の北海道では4時を過ぎるとすっかり明るい。とあって、翌朝4時半からの「朝探」。繁華街を抜け、早朝のビル街を通って、中島公園まで15分ほど。朝の公園には散歩をする人、仕事に向かう人、まだ酔いが醒めず朝帰りの人に交じって、スコープをもった現地の鳥観の人もいます。鳥友たちは、さっそくマミチャジナイ、コムクドリ、アオジ、アトリ、シメ、ヒガラ、シジュウカラ、カワラヒワ、ツグミ、スズメ、ハシブトガラスを見分け、ソメイヨシノやヤマザクラ、レンギョウ、ユキヤナギなど、関東の一か月遅れの季節の進行を、ゆっくり堪能しながら散歩をしました。豊平川は水量も多く、かなりの急流、水鳥は一羽もいません。
 
 宿に帰り着いても朝食があるわけでもなく、荷物をまとめます。紋別で待っていたチャーターバスが、昨日のうちに札幌までやってきていました。ご苦労さんです。それから6日間、私たちに付き合ってくれるはずだったのですから。バスに乗って8時過ぎには出発、途中コンビニによって朝食を買い、野幌公園に立ち寄りました。「のっぽろこうえん」と読みます。いかにも、アイヌの現地読みに当て字をしたという地名が、この後いくつも出てきます。よく知られた探鳥地らしく、鳥友たちは何回かここを訪ねているようでした。むろん私は、初めて。こんなに広い公園があるのかというほどの広さが、「案内看板」を見る限りでは、ある。おそらくその5分の1ほどを歩いたと、先輩鳥友たちは話している。鳥よりも花が多く、オオシロバナエンレイソウやニリンソウが咲き乱れていました。終わりかけたミズバショウばかりかと思っていたら、まだきれいに元気のいい花もあって、ほんとうにここは春が来たばかりなのだと分かります。
 
 そこを出て、(たぶん無料の)高速道路に入り、狩勝峠をトンネルで抜けて足寄に至り、雌阿寒岳の傍を通りて津別の宿へとひた走ります。あとで聞くと約400kmほど、オーストラリアに負けないほどの距離をずいぶん飛ばしました。とは言え、そこは鳥観の旅、オンネトーの湖などには立ち寄って、オシドリの、ハシブトガラのと鳥の数を数えていきます。静かな湖面に映る雌阿寒岳と雄阿寒岳の逆さ姿が美しく、バスを止めて、しばらく撮影タイムをとったほどです。「木材の町」津別町はけっこう賑わっていて、とても「ランプの宿」があるとは思えませんでしたが、何と町の中心街から22㎞も奥地に入り、山奥に位置する宿に到着したのは6時を回っていました。運転手も大変だろうと、途中ちょっと思いましたが、それもすぐに忘れて、道際をうろつくシカやキツネやタンチョウを眺め、宿ではエゾクロテンがやってくるのまで、見せてくれました。
 
★ 3日目
 
 旅の主宰者が「ここは朝4時から探鳥します」と声をかけたこともあって、3時半には起きだし、4時ころから探鳥。天気は晴れ。山ばかりか、遊歩道のあちらこちらに雪が残り、靴が埋もれてしまいそうになりながらの探鳥散歩でした。ミズバショウが咲き始めたばかりという新鮮な花をつけています。雪解けの水でしょうか、豊かな水量が速く流れています。カワガラス、ミソサザイ、キセキレイ、ウソ、キビタキ、キバシリ、ゴジュウカラ、ハシブトガラ、ヒガラ、アカハラ、センダイムシクイを見つけ、コマドリやトラツグミの声を聴いて森の中を3時間ちかく歩き回っていました。何しろ寒い。まだ春になったばかりという気候が、夏日の関東から来た私たちを直撃するようです。
 
 濤沸湖では、あまりの寒さにビジターセンターに入って、なかから湖の鳥を観るようなことになってしまいました。たくさんの種類のカモ、カモメ、シギ、チドリ、ハクチョウ、ウに加えて、オジロワシが大木の頂点に立って、睥睨しているのがなかなかの貫録です。小清水原生花園からみる、斜里岳や海別岳(うなべつだけ)や羅臼岳は、雪をかぶって北の地に屹立している風情が圧巻です。どこかの「道の駅」で、展示ケースに入ったクリオネをみました。あんなに小さいものとは思いもよりませんでした。聞くと、2,3日に一回深層水を入れ替え、そこに含まれるプランクトンが餌になっているとのこと。カワイイなどというよりも、タイヘンダナーと思ってしまう。
 
 知床五湖にも立ち寄りました。バスの中から「いたっ、ヒグマ」と声が上がりましたが、「どこどこ」と探しているうちに通り過ぎてしまう。キツネやシカは見飽きるほどでした。五湖は「ヒグマが活動期で出没するため、五湖周遊はできません」とあり、高架木道がすっかり出来上がって、笹原からクマが上がれないように高圧電線を張り巡らして人間を保護している。ヒグマをみることはできませんでしたが、雪をかぶった知床連山が羅臼岳から硫黄岳までくっきりとスカイラインを描き、みごとです。羅臼町に向かう途中の知床峠越えは、道路の雪だけが除雪されているが、ほかはすべて雪の中。冬山の景観のなかを車は進みました。夜間は通行止め。知床峠から間近にみる羅臼岳は、山頂部の大きな岩場が屹立して、見栄えがします。羅臼町へ下る途中からは、噴火のときに隆起した山頂中央部がさらに際立って見え、面白い山であることを示している。
 
 今日の宿泊は羅臼町の「鷲の宿」。留鳥のシマフクロウが宿の前の沢に降り立って餌をとることから、何度か私も泊まったことがある。だが今回は、様子が違った。「名古屋大学の研究者」が2年前から常駐して、照明をLEDに改善し、餌場に手を入れて工夫し、シマフクロウが観ている人を畏れないようにしている。夜、その研究者が来て改善点を説明し、ここに来るシマフクロウの「生態」を解説してくれた。
 
1)沢は水量も多く流れも早い。その中につくられた石組の餌場を深浅の二段にし、深いところには餌のニジマスが身を隠す石をおいて、シマフクロウにつかまりにくくしている。餌場に放り込まれたニジマスははじめは警戒していないから、最初にトライするシマフクロウは、簡単に餌をとることができる。だが二度目はそうはいかない。ニジマスは、石の下に隠れて姿を見せない。シマフクロウは、一匹目をとった後、じっとその場に身をとどめ「石になって」頸だけをめぐらしている。そうしてニジマスが警戒を解いて浮かんで来たところに襲い掛かってつかみ取る。ニジマスは、翌日明るくなると、水が流れ込むように設えてある浅い3センチほどの餌場を越え沢の奔流に逃れていく。ニジマスは夕方10匹ほどを餌場の深い方に「鷲の宿」の方が入れていたが、シマフクロウは季節になると、本流に上ってくるサケやマスを獲ったりもする。
 
2)今は子育てをしていない。先代のシマフクロウのハハが死んだあと、チチが1年目の幼鳥と2年目のムスメ鳥と共生していたが、ムスメ鳥が幼鳥を追い出したのち、どこからか若ムコを連れ帰り、遂に若ムコとチチとの争いが起こり、ある日、若ムコの片目がつぶれ、頭の毛が半分剥がれ落ちて、チチは姿を消した。たぶん争いに敗れてチチは生きてはいないだろうと、研究者は言う。しかし、まだ2歳のムスメは妊娠することはできない。そうしていま、ムコとムスメの2匹がハネムーンを送りはじめて、20日経っているという。面白い。こういう「生態」を観察するというのは大変なものだ。
 
3)シマフクロウは、羅臼の海岸沿いに走る国道の街頭にひかれてやってきて、魚をとろうとする。交通事故にあうものもある。沖合に漁火が灯るころになると、この沢のハネムーン中の2匹が、国道近くの木の枝に止まって海を眺めているのが、見受けられた。(魚をとるのですか? と聞かれて)いや、どうも漁火を鑑賞しているみたいですねえ、と研究者。
 
4)国道から100mほど入った「鷲の宿」前のLED照明は、むしろ控え目と言っていい。明るいがシマフクロウにとっては自然光に近い。写真を撮るときはLEDの発光周波数に合わせる必要がある。シャッター速度1/80、ISOを1600程度に上げて撮影しないと、うまく写真が取れない。たしかに、デジカメの自動撮影で写すと、画面が白くハレーションを起こしたようになって、被写体がうまく映らない。1/80、絞り3.5、1SO1600にすると、少し暗いが、焦点がシャープに目に合っているのが撮れた。
 
5)宿の方が話してくれたが、アラフィフのこの研究者は、大学の先生ではないらしい。昼間は羅臼町の観光協会に勤めていて、シマフクロウの世話をし、ボランティアで来客に「解説」をしてくれているという。こういう研究者もいるのですね。これもまた、大変な人生を送っている。
 
 上記の解説を聞いたことで、シマフクロウの見方がずいぶんと変わりました。私はこれまで3回見たことがありますが、ほんとうに漫然と珍しい鳥を観ているという程度のものだったと感じています。だがこの話を聞いて後は、シマフクロウが餌場で何をしているか、その佇まいの意味がわかるよう無きがした。「生態」をつかむ手がかりは、ほんとうに緻密な観察にあると、ちゃらんぽらんな探鳥消費者である自分を反省する思いでした。もっとも反省したからといって、消費的姿勢を変えることができるわけではありませんが。(つづく)