mukan's blog

つれづれなるままに ひぐらしPCにむかいて

ノザーン・テリトリーの旅(8) ゆるやかにアボリジニに近づく「生き物の旅」

2015-09-28 09:46:15 | 日記

 鳥ガイドのアランさんは、鳥だけを見せてくれたわけではありません。オーストラリアの、ここぞという自然環境とそこに生息する動物をも、極力案内してくれていました。たくさんのコウモリが木にぶら下がっていて、昼間からぎゃあぎゃあと鳴きながら飛び交っていたことはすでに書きました。シドニーでは、太平洋を望む断崖に案内し海鳥を見せてくれたのですが、彼が指さす先の波間には何かがひょいひょいと見え隠れしています。双眼鏡をあててみると、イルカです。イルカの群れが、つぎからつぎへと北から南へと泳ぎ渡っていきます。むろん、海鳥もいるので、たちまち皆さんの関心はそちらに移ってしまうのですが、私はしばらくイルカの群れの浮き沈みの速さと間合いに見とれていました。傍らにいた現地ガイドのノーマさんは、この海の向こうにはニュージーランドがあると、あたかも見えるかのように眼をやって眺めていました。

 

 シドニーでもダーウィンの公園でもウルルへ向かう砂漠地帯でも、ウサギが飛び出して速足で駆け抜けていくのを、何度か目にしました。カカドゥ国立公園で野生と思われるワニや水牛や野豚、野生の犬・ディンゴを見かけたことはすでに記しました。野生の馬の群れ、野生と思われる(やせた)牛の群れが日陰に身を休めているのも見ましたが、それが「放牧」のそれなのかどうかは、わかりません。なにしろ牧場といっても、柵のあるところもあればないところもあるようでした。ただ、柵で仕切られたところの何十頭と連なった牛は、しっかり肉もつき肥えていました。柵のないところのそれらは、がりがりに痩せているように見えました。

 

 Alice-Springsの先にある何とかゴルジュと名づけられた、岩壁が大きく立ちはだかる峡谷の岩場にはワラビーが棲んでいました。岩陰からひょいと姿を現し、しばし何かに見とれている様子。それがぴょいと飛び跳ねると別のワラビーがそのあとを追いかけて姿をみせ、下の岩陰に身を隠します。ワラビーにも何種類もあって、ここのワラビーは「Black-Footed-Rock-Wallabies」と解説があります。ワラビーの足跡もアランさんに教わって知りました。アランさんはワラビーをみてもカンガルーと言っています。尻尾の跡や前足と後ろ足の違いなども見て取れ、それが人の歩く道を横切るところでは、はっきりと踏み跡がついて、人の道に出るところと藪に入るところの木立が擦り途切れて、ワラビーの道を(何カ所も)つくっていました。夜行性なので、人が寝静まるころに動き出しているというのが、頷ける気配です。

 

 有袋類のネズミも、Desert-Parkで観ることができました。Yuraraに近づいたところで、野生のラクダが十数頭、木立の間に立ったり座ったりしています。子どもと思われる姿も数頭ありました。先に記した青い舌のトカゲばかりでなく、名前はわからないのですが、木々の幹をよじ登ったり、アリ塚にしがみついている大きなトカゲも目にしました。何種類かの蛇や蛙、幾種類ものチョウが飛び交っているのも目にしましたが、大雑把にしか識別することができません。

 

 そうそう、アリ塚に触れないわけにはいきません。シロアリが土を唾液で汲み上げて5メートルにも及ぶ高い塚をつくっているのを目にしました。現地ではチャーチと呼んだりタワーとかスパイヤーと呼ぶようで、「アリ塚」を辞書でひいて「anthill」といったら、アランさんは「?……」という間合いをちょっと置く反応をしていました。現地の呼び名の通り、バルセロナのサグラダ・ファミリアのような、ごつごつと尖塔が並び立つ「建築」です。それの小さいのから大きいのまで、あるところにはあるという風情で目にすることができます。色が茶色で艶のあるものからコンクリート造りのように灰色でくすぶるようなものまで、色とりどり。アランさんんピーターの説明では茶色は新しいもの、灰色はすでに終わったものという。どちらかというと、草木が生い茂るところではアリ塚が見当たらず、乾燥したサバンナ・砂漠地帯では大きな尖塔が立ち並んでいます。ポツン・ポツンとアリ塚が見え始めると、ここは砂漠化が進んでいるのかなと思ってみていました。『恐るべき空白』の中では、モモイロインコがこのシロアリを好んで食べるとありましたから、蓼食う虫もいろいろというところでしょうか。因みに、アリにもいろいろな種類があって、ハニー・アントというのはお尻に蜜を溜めていて「おいしい」という。また、グリーン・アントというのは、高いところの木の葉をくるりと巻いて巣をつくる、これがそうだよと、きれいにデザインされたような巣を指さしてみせてくれました。

 

 また因みに、アリではなくハチの話ですが、直径5センチほどの木の実のようにたくさんぶら下がっている「ブッシュ・ココナツ」。 運転手のピーターが落ちているそれを拾って話すに、ハチがつくったものだという。オスバチがこれをつくり、メスがその中に入ると小さい入口から交尾して、巣は完成する(空気を通すために密閉はしないらしい)。メスは卵を産み命絶える。卵は孵り親を栄養分にして育って、小さな穴から外へ飛び立つ、という。みると、ブッシュ・ココナツがたくさん落ちていたりぶら下がっている。その後は、あっここにも、あそこにもと目に止まるようになる。

 

 こうして16日目に私たちはノザーン・テリトリーの最南部、エアーズ・ロックというヨーロッパ人の名付けた地名で知られる「ウルル―カタジュタ国立公園」に入りました。ここは入域自体が許可を必要とする仕組みになっています。そこを訪れる人たちは、隣接したYuraraに宿をとり、ウルルに通います。私たちは「3日間通用のパスポート(記名)」を得て、ウルルとカタジュタに向かいます。オーストラリア原住民・アボリジニの「聖地」とされ、ウルルと現地名で呼ばれるエアーズ・ロックも、アボリジニの始祖に当たる七つの星が降り立ったところとして、サンクチュアリにされていると言います。でも、ヨーロッパ人たちはお構いなしに、その岩山に鎖を張り、標高差300mを短パン・タンクトップ、半ズボンで登っています。ガイドのアランさんも運転手のピーターも、登ることには賛成できないと話していました(でも登れるけどね、と)。私は「エアーズ・ロック」と呼ぶのをやめ、「ウルル」と呼ぶことにして、登りたいと言うのを取り下げました。

 

 そういう私たちの気持ちに応じたわけではないでしょうが、現地のアボリジニ・ガイドをつけて、午後いっぱい、陽が沈むまでウルルの話を聞き、アボリジニの創成の物語りを聞くことになったのでした。(つづく)