気象予報士 村上繁郎のブログ

気象予報会社「ファインウェザー」の気象予報士です。身近な気象現象や季節の出来事などを気象予報士の目を通して綴ります。

デジタル対アナログ

2012-01-18 19:50:07 | 気候

1月14日の米長邦雄永世棋聖とコンピューター将棋ソフト・『ボンクラーズ』の対局が話題に

なっている。序盤、優勢だった米長棋聖だが、結局『ボンクラーズ』に敗れてしまった。

私は将棋も指せないし、プログラミングもできないが、将棋はチェスに較べてルールも複雑で、

コンピューターが名人に勝つのは難しい、ということを聞いたことがある。

使用したコンピューターはいわゆる何億円もするようなスーパーコンピュータではなく、比較的

普通の富士通のマシンらしい。『ボンクラーズ』にはおそらく無数の対戦のパターンが入力され、

一手ごとにシミュレーションされるのだろう。そして、米長棋聖の頭脳にも過去のすべての

対戦が記憶されているはずである。互角といえば互角だ。

野村克也氏曰く『不思議の負けはない』。米長棋聖に小さなミスがあったのかもしれない。

『コンピューターの勝利』というよりは、『ソフト』の勝利、『プログラミングした技術者の勝利』と

いうことになろうか。

    *    *    *

スーパーコンピューター『京』が世界一となっているが、コンピューターの進歩は著しい。

「天気予報もいつかは100パーセント的中するようになりますかね?」という質問をたまに受けるが

残念ながらそれはありえない。人工衛星も含め天体の軌道計算は、物理の法則の組み合わせ

で、膨大な量の計算ではあるが、正確にはじき出すことができる。何十年、何百年先に起きる日食

や月食を正確に予測できる。数々の苦難を乗り越え『ハヤブサ』が『イトカワ』から帰還したことも

記憶に新しい。しかし、大気の動きは不確定要素があまりにも多すぎる。スーパーコンピューター

に入力する気象データが多くなるほどシミュレーションされる予測データは正確になるだろうが、

コンピューターの能力を飛躍的に向上させねばならず、また、観測データの誤差をゼロにするのは

無理である。しかし、スーパーコンピュータのはじき出す『数値予報』の精度が、近年、確実に向上

しているのは実感できる。

数年前より『メソスケールモデル(MSM)』が稼動し、かなり予報精度の向上を後押ししてくれている

が、局地的な現象の予測はコンピューターにはまだまだ難しい。

上の天気図は16日9時(日本時間)の観測データから予測した48時間後18日9時の予想天気図。

下は、その時刻、18日9時の実況天気図。本州上の高気圧は閉じた等圧線として予想されてはい

ないが、日本海の低気圧は予測され、本州付近は高圧帯であり、間違いとはいえない。

他の気圧配置を見てもおおむね予測できており、この予測精度はすばらしいと思う。

しかし、『数値予報』は「晴れや雨・雪」などと予報文は発表してくれない。その部分が気象予報士

など予報技術者の仕事なのだ。数値予報のデータから、しきい値を決めておき、「曇り、のち、雨」

などと予報文を自動的に出力するプログラムも予報の現場で使われているが、最終的には

予報技術者の経験により調整され、発表となる。

12月より強い冬型の気圧配置が続き、関東南部ではカラカラの天気が続いたが、数日前から22日

ごろまでは大陸の高気圧の張り出しが弱まり、本州の南は気圧の谷となって、低気圧が通ること

が多くなる。いわゆる『南岸低気圧』の通過が予想されるが、気温が低ければ平野部でも雪になる。

メソスケールモデル(MSM)は雨・雪の判別まで予測してくれる。850hPaの高度(約1500m)の

気温が0℃以下になると、関東地方平野部でも雨に雪が交じるようになる。しかし、東の海上から

の冷湿気流で地上付近の気温が影響され、雪の交じり方は大きく変わる。

平野部のわずかな高低差、500m程度の丘陵により北東気流の流れが代わり、丘をひとつ越える

と、雪が雨になる。神奈川県の平塚が雪で、秦野や小田原は雨、山北は雪、箱根は標高500m

付近から雪、などという局地予報はMSMでもまだ無理である。地形を熟知し、経験を積んだ予報

技術者でなくては予測できないことは多い。数値予報の精度がどれだけ向上しても、より正確な

局地予報のために気象予報士は必要とされ、また、現場の技術者は、その技術の研鑽を怠って

はならない。

気象庁発表の情報や予報を解説するだけなら気象予報士の資格はいらない。

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