折々の記

日常生活の中でのさりげない出来事、情景などを写真と五・七・五ないしは五・七・五・七・七で綴るブログ。

構成は緻密、筆致は大胆、物語は縦横無尽。~小説『天祐、我にあり』

2010-11-20 | 読書
海道龍一郎が剣聖上泉伊勢守信綱を題材にした『真剣』で鮮烈なデビューを果たしてから5年、時代小説にとてつもない大型新人が現れたと激賞し、その後の作品を注目して読んだが、中々期待を上回る作品に出会えなかった。

しかし、遂にデビュー作を凌駕する傑作が生まれた。最新作『天祐、我にあり』(海道龍一郎著、講談社)である。


 
デビュー作『真剣』(右)、最新作『天祐、我にあり』(左)


『天海譚(がたり)戦(いくさ)川中島異聞』とサブタイトルがついているとおり、この物語は、江戸初期の政治僧天海が、若い頃、修行僧として全国を行脚していた際、偶然遭遇した川中島の合戦の有様を、江戸城内で徳川秀忠、家光父子に語るという構成をとっている。

作者は、四度あった川中島の戦いのうち、乾坤一擲の大会戦となった四度目の戦いを、謙信、信玄の戦略、武将同士の愛憎、人知と運などをからめ、壮大な人間ドラマに仕立て上げた。

永禄4年8月15日に上杉謙信が善光寺平へ出兵してから、9月10日の川中島大会戦終了までの25日間を時間と場所を特定し、ドキュメンタリータッチで展開する構成は緻密であり、読者のイメージを刺激し、ふくらませる筆致は大胆であり、息つく暇もないくらい、ページを繰る手ももどかしいほど、物語は縦横無尽に面白い。

特に、謙信と信玄の虚々実々の駆け引きの心理描写が人間の心の機微を巧みにとらえていて秀逸であるが、その他にも、この物語に登場する人物の一人、一人がまさに血の通った人間として実に生き生きと魅力的に描かれていて読み応えは十分である。(八幡原での武田方の先陣大将の武田信繁と上杉方の先陣大将の柿崎景家の一騎打は、壮絶であり、その結末は感動的で、この作家の力量を示して余りある。)

本書は600ページを超える大作であるが、3日間家に引きこもり、ひたすら本書にのめり込んだ。
読み終って、600ページを一気に読ませる作家の力量に改めて敬意を表した次第である。

『剣豪将軍義輝』(宮本昌孝著、徳間書店)以来久々に血沸き、肉躍る時代小説に出会って、小説の醍醐味を満喫し、至福の時を味わった3日間であった。



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