林業女子会@みえ

「消費者目線で 楽しく 明るく♪」
マイペースに森林・林業について学び、現場で見てきたことを発信しています。

中井木工さんを訪問しました。

2018-02-15 05:15:49 | 活動報告
平成30年2月13日(火)北牟婁郡紀北町(旧海山町)で、
自伐型の林業をしながら、注文家具を手掛けている
中井木工の中井智章さんを伺いました。



 中井木工 中井 智章
 所在地:三重県北牟婁郡紀北町小浦65-1
 ℡/fax:0597-32-1056
 e-mail:chp64710@par.odn.ne.jp
 URL:http://www.nakaimokkou.com/


~裏山から木を出す~

中井さんの家具づくりは、
自宅裏のヒノキ林から木を伐り出すところから始まります。

まず、チェンソーの刃の目立てをしますが
チェンソーを立てて行う目立ての方法は
数年前に地域の神社の木を伐倒する作業を委託した
特殊伐採の職人さんがやっているのを見て覚えたそうです。



「やすりと刃が当たって、目立てしている場所が目で確認できる、理にかなった姿勢」
と中井さんは言います。

チェンソーの点検が終わったら、そのまま庭を突っ切り、自宅の裏山に入って木を伐ります。

この日は、シカによる皮剥ぎの被害をうけたヒノキを1本切り倒してもらいました。



伐倒前に、しっかり周囲を確認して、伐倒方向を見定めてから
チェンソーの刃を入れていきます。
込み合ったヒノキ林なのでかかり木になりましたが
最後は、チルホールで牽引して伐倒完了。

普段、一人で伐倒作業をしているそうで
道具を使い、無理のない確実なやり方で伐り倒していました。

伐った木は、そのまま葉をつけた状態で半年から一年山に寝かせ
葉枯らし乾燥させて軽くなってから2メートルに玉切りして搬出します。

「乾燥させて軽くなった。」とは言え、
直径30㎝以上もある元玉は、かなりの重さがあります。

山の斜面を転がしたり、時にはロープで引くなどして出してくるそうです。



~木を挽いて乾燥させる~

山から出された丸太は、まず太鼓挽き、そして半割にします。
チェンソーの刃が届く範囲の太さのものは、チェンソーで挽きますが
それ以上の大径木は「おが」を使って挽くといいます。



「おが」を使った製材は大変です。
先ず目立てをして、それから少し刃を入れて
木目の流れる方向を見定めてあさりを調整しながら挽き進んでいきますが、
「おが」は30㎝挽く毎に目立てが必要で、1日がかりでも挽ける量は限られているそうです。

どう考えても、非効率的なやり方で
最寄りの製材所に丸太を持ち込んで、挽いてもらった方が時間も労力も省けると感じますが
それでも、中井さんは全てを自分の手でやります。

製材後、半年から1年、雨ざらしの状態で粗乾燥させるそうです。



乾燥中、木が縮み動きますが、
中には桜のように辺材が著しく暴れるものもあるので
そういった木は早めに辺材部分を取り除き、心材のみにして乾燥させるそうです。

また、節も乾燥の過程で材に応力がかかる原因になるので
早い段階で取り除くそうです。

その後、軒下でさらに1年から2年乾燥させ
使う大きさに製材、シーズニング、成形を経て、家具の形になっていきます。


これは、桟積みされた材ですが、しっかり水平・垂直を保って積み上げられています。

山の木が切り倒されてから家具になるまで3年から4年。
その間、木と関わりながら、木の動きを観察しつつ
その木がどんな家具に適しているかを判断して
注文が入った時に、手持ちの材でその家具に一番適したものを選ぶそうです。



時には、お客様のご要望で、手持ちの材では対応できないこともあり
製材品を購入することもありますが
製材品になるまでの木の動きが判らないため
その後の動きを観察しても、家具として使用するには不安要素が付きまとうそうです。





~中井さんと道具~

中井さんに木を伐るところから、製材、家具づくりのお話を聞いている中で
たくさんの道具や機械を見せていただきましたが
一つ一つの道具や機械を中井さんがとても大切に使っていることが印象的でした。

当たり前の事かも知れませんが、道具を使う以上の時間と労力を費やして
道具の手入れをしているように感じました。


刃物を研ぐための流しの傍らには電気ストーブがありました。
寒い夜に、納得のいくまで刃物を研いでいる中井さんの姿が目に浮かびます。



かんな1つにしても、土台の板の底がしっかり平らになるように
その都度、調整しているとのことでした。


また、それぞれの機械のために作られた多種多様な冶具にもおどろきました。
機械の持ち味を最大限に生かして、いい作品を作り上げていくための工夫がされていて
どの機械も、大切に使われていることが伝わってきました。



~中井さんの生活~

中井さんの自宅兼工房は、
尾鷲地域特有のリアス式海岸の小さな港の一番奥まったところにありました。

そして、中井さんのご自宅の周りには
中井さん家族が生活する上で必要なものが全てそろっているように感じました。



まず、自宅と裏山の間にある広場には
子どもが遊べるお手製のターザンロープと鉄棒があって
まるで公園の芝生広場のようになっていました。



その隣には、自宅で食べる分の野菜を作る畑があり
白菜やネギが育てられていました。

また、その周辺には果樹がたくさん植えられていて
中井さんが大好きなデコポンの木も黄色い実をたくさん付けていました。

その中のいくつかを頂きましたが、瑞々しくてとても甘いデコポンでした。

そして、自宅裏にはヒノキ林があります。
中井さんが幼稚園の頃に植えた、樹齢40年くらいの山ですが
その山から伐り出した木は
大概、一番玉は家具用材に、二番玉はハウス用の杭に
そして、その先は毎日お風呂を炊くための薪として利用しているそうです。



家の裏には、薪用の材がきれいに積まれていて
小屋の中には、炊き出し用にスギの葉も蓄えられていました。

中井さんは、「山仕事は稼ぎにならない仕事」と言いますが、
「中井さんの生活には欠かせない仕事。」と感じました。


~古民家博物館のようなご自宅~

中井さんが住んでいる家は、曾お爺さんが建てたという築90年にもなる旧家です。
お風呂も毎日、薪で沸かしている。と言うご自宅は
玄関から興味をそそられるものがあふれていました。

まず、玄関で目を引くのは、中井さんが中学生の頃に作ったと言う郵便ポストです。
根株にできた室を利用して作られていて
取り出し口の扉につけられたきのこ型の取手には遊び心が伺えます。



玄関から中に入ると、木製の風鈴が吊り下げられていました。
地元の「三重県立熊野古道センター」で中井さんが講師をしたワークショップで
子どもたちと一緒に作った作品とのこと。
よくよく見ると、お手本用に作ったものには、木の札に音階が記してありました。
音階を測定できるアプリがあって、気軽に音階を測定することができるそうですが
ただ、木に触れて作品づくりをするだけではなく、
出来上がった作品の科学的な見方が示されていました。

また、客間には杉の根株で造られた座卓がありました。
中央部分に欅の蓋があり、火鉢にするため、中に空間があるそうです。
スギの独特のオーロラのような杢がとても優しい模様になって現れていました。



そして、玄関から廊下にかけての段差に使われていた杉板には驚かされました。
まるで梁材のような重量感です。
そして、それだけの厚みがあるからか、柔らかく温かみのある感触でした。

ほぼ、一日かけて中井さんからお話を伺いましたが
木がゆっくりと年輪を重ねて成長するように
伐ってからも、乾燥しながらゆっくりと動く様子をしっかり観察して
そして家具と言う形に加工していく仕事は
中井さんが、木と同じ速度で木と向き合っているからこそできる技だ。
と感じました。