落武者の行方

09.02.02>>>迷走中?(since 04.09.13)

細川俊夫「班女」

2009-08-26 | music
Suntory Hall Blue Rose | Toshio HOSOKAWA opera"HANJO"

8月23日、細川俊夫のオペラ「班女」の日本初演2日目に行ってきました。

花子 : 半田美和子
実子 : フレドリカ・ブリレンブルク
吉雄 : 小森輝彦

指揮はヨハネス・デーブス
演奏は東京シンフォニエッタ



演者が3人で、能舞台にインスピレーションを得た橋掛りのある小さな舞台がブルーローズ内に特設され、脇で東京シンフォニエッタが演奏するという形式。
座席が正面最前列だったため、歌手が近い近い…1mくらい?
こんな間近でオペラを観るのは初めてです。

内容としては、原作が三島の近代能楽集で魅力的な話だし、音楽も細川さんらしく、小編成でも重く、冷静な激情を感じさせるもの。
1幕6場の70分強とコンパクトでこの手のものとしては妥当なヴォリューム。

それなりに良かったとは思うんですが、何というかちょっと予定調和的というかオペラとしては物足りない作品であったようにも感じます。
美術も非常に簡素で、それが日本的で〝間″の表現と言いたいのかもしれませんが、それが研ぎ澄まされたものかというと、疑問。
オートマティスムの〝書″っぽい背景は見ようによって如何様にもとれて、雰囲気はありますが・・・。

それは別に、ザ・オペラなゴージャスな演出を求めるということでは全然無く・・・ただ、狙ったとおりの演出効果があったのかどうか、ということで。

これに限らず、アジアの作曲家における「東洋と西洋」という永遠の問題、葛藤はプログラムノートでも触れられているし、今年のテーマ作曲家であるウンスク・チンもこのことについて語っています。
考え出すと難しすぎる、この問題・・・。
ニュー・プロダクションということで、前の演出はどういった感じだったんでしょうかね。

前述の、東洋人による西洋音楽ということに関して、日本語の原作をドナルド・キーンが英訳したものを敢えてベースにするなど、様々なフィルターを通して制作されたようで、そんなに簡単な話ではないんだとは思いますが、「能のもつ本質を全く違ったかたちでよみがえらせたい」これが叶ったかどうかは疑問です。
ここには細川さんが海外で非常に評価されていることとの繋がりもあるような気がします。


まあ、でもいつも通り色々考えて、広い意味では楽しんだので。
実子役のフレドリカはさすがに初演以来何度も歌っているだけあって、凄く安定していました。
吉雄役の小森さんは、失礼な言い方かもしれませんが、声が憎々しくて(普段はどうなのかはわかりません)残念な感じの吉雄にある意味あっていたように思います。
花子役の半田さんは良いところ、もったいないところ、両方。
でも、これ難しいですよね…きっと。オペラの演技、全くわかりませんが。普通のオペラとは演技の仕方も変わってくるだろうし。
語り(セリフ)と歌の対比はあまり有効に感じられなかったですがね…




ラスト、結局このお話を通して何も進まなかったし何も変わらなかった花子の世界(だって、花子の世界では現実に存在しているリアル吉雄は吉雄では無いんですからね。訪問してきたのは、ただの通りすがりの風のようなものでしょう)にはズシリとくるものがありました。
そして、実子。

トータルとしては上に書いた感じでしたが、音楽の響きとストーリーが相俟って非常に感動的で涙脆い私は眼に汗じんわりな部分もあっただけに、「なんだか、もったいないなぁ」というのが正直な感想かもしれません。


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「円朝コレクション幽霊画展」

2009-08-23 | art
Zenshoan | "Enchou collection YU-REI GA"

谷中の全生庵で8月31日まで開催されている、「円朝コレクション幽霊画展」です。


全生庵の幽霊画コレクションを披露する夏の恒例行事。

1部屋のみの展示ですが、壁面にびっしりと掛軸。
非常に魅力的、日本の幽霊画としての恐ろしさを凝縮したようなものから、笑わずにはいられない(画中の幽霊さんに呪われそうですが…)コミカルなものまで、ヴァリエーションに富んでいて楽しめます。

僕のなかでは日本の幽霊画は、やはり如何に静かな空気のなかで、平静を装って狂気を表現するか、というところで勝負して欲しいと思うのですが、もはや妖怪図版としか思えないものから、大袈裟すぎて怪談の舞台のフライヤーにでも使えそうなものまで。
「そういうのは他の人に任せておけば良いのに…」とかいつも通りの余計な突っ込みを入れつつ、こんなに楽しみながら幽霊画観て良いのかしら、という感じでした。


それにしても、やはり怖いのは図像そのもの、というよりも、フィクションであっても同じ人間が幽霊になって出なければならないほどの怨念や屈辱、つらさを感じて精神を崩していく、そのストーリーだな、と思いました。

そうした中で亡くなった主人を思う3羽の鵜の幽霊画が、温かい空気を孕んでしまうのは当然のことかもしれませんね。


なお、拝観料として500円必要です。


「彫刻 労働と不意打ち」

2009-08-22 | art
The Chinretsukan Gallery of The University Art Museum, Tokyo University of the Arts | "SCULPTURE - BLUES & LOW BLOW"

東京藝術大学大学美術館陳列館で明日23日まで開催されている、「彫刻 労働と不意打ち」です。

大竹利絵子
小俣英彦
今野健太
下川慎六
西尾康之
原真一
深谷直之
森靖

の計8名による展示。


面白い展示です。
楽しめます。

記事が書きかけで消えてしまって萎えましたんで、短く書きます。

彫刻はホントに地道な作業の連続だと思いますが、それ故に何か宿りそうなものに出会う時が多いのですが、今回はそういった類のものが集まっているように感じました。
そういった不穏な空気を孕んだものが大好きな僕としては大変楽しめる展示となっていたというわけですね。

大竹さんの「Room」何気ない故の存在感。

原さんの「Venus - secret room」「Venus - 墓」「Venus - 田んぼ」全て断片(というか、肉片…肉塊…?)となった中から練り上げられた霊的な実体。

小俣さんの「Totem」まさにトーテム、という有機体のかたち。

森さんの、「Much ado about love - Kappa」河童なモンロー。
面白い。自分の興味のあることに近い雰囲気があって惹かれました。
リーフレットの瀧本みわさんのテキスト(ちょっと気取った難しめのテキストですが、面白いです)を読むと、パロディやアイロニカルなものでは無く、造形としての掛け合わせである、というところがまた面白いですね。 

西尾さんは、「Organ」観ていなかったので、まずそれだけでうれしい。
フェティシズムの祭壇といった感じか。
新作の「復顔、粘土法」は、タイトルがまずたまらない。異様な雰囲気。
しかし、顔がひびがはいってしまっていて中が布テープで補修されていたのは事故なんですよね…?
そうでないと、“復”顔にならない(笑)


明日までですが、お時間ある方、日曜の散歩がてらに如何でしょう?

「混沌から躍り出る星たち2009」

2009-08-12 | art
AOYAMA SPIRAL | "STARS POPPING OUT OF CHAOS 2009"

もう終わってしまいましたが、青山スパイラルで開催された京都造形の選抜展「混沌から躍り出る星たち2009」。

出品するだけでなく、マネージメント側もそれ系の学科の生徒が手がけるのは良いですね。
京都造形には現場で現在進行形で活躍している先生方が多いようなので、良い見本となるでしょう。
実際の内容としては、もう少しなんか面白い感じがあっても良かったんじゃないかとは思いますが…。

出品作品はほぼ、皆京都で観て記憶に残っているもの。

佐藤允さんは今回は置いておいて(おいとくのかい…)、他に気になったものとしては寺村利規さんの平面。元々アンドロイドっぽいのとか好きなので。
アノニマスな像は最近の流行りっぽいですけど、デロデローンと溶けた感じではないので、気になります。
アートアワードで小山賞受賞していますが、確かに僕のイメージの中ではKOYAMA TOMIO GALLERYにありそうな…。

武田あずみさんのエッチングも京都で印象に残ってましたが、普通にセンスが良いですよね。

通信課程を卒業された大場英理子さんの作品も別に何ということはないのですが、それがとても良い雰囲気で、色とか、絶妙なサイズや形とか、並んだ姿とか。
良い味わいです。
1個はずれた黒いリンゴは…?


逆に、番場さんの写真作品は、コメントにあるような日常の面白さを使って遊んでいる姿、が特に面白く思えず。

ちなみにおみくじでは、
「それほど愛せる人に
     出会えて幸せだね。」
とのお言葉頂きました。