沖縄の公認会計士佐藤晃史のブログ

沖縄で医療機関支援、事業承継、相続対策に強い会計事務所を経営している佐藤晃史のブログです

信託を利用した後継者への自社株贈与について

2013-07-26 11:13:30 | 事業承継
オーナー社長が自身が所有する自社株式を後継者である子息に生前贈与することは、事業承継対策における最もスタンダードなスキームですが、生涯現役を目指すにオーナー社長にとっては、自分が株主ではなくなることによる不安が付きまといます。

相続税の節税対策として、生前に自社株式を贈与することが有利とはわかっていても、会社の経営権は手放したくないというわけです。

確かに、会社の経営権の法律的な裏付けである株式を後継者に全部単純に贈与してしまうと、後継者と会社の経営方針で対立した際に、法律的に勝つのは会社の株式を100%保有する後継者であり、最悪のケースでは、取締役としての地位も危なくなってしまいます。

このような場合には、信託を利用した贈与を検討することになります。

たとえば、委託者をオーナー社長、信託財産をオーナーの所有する自社株式、受託者をオーナー社長、受益者を後継者とする信託を設定します。
信託を利用すると、オーナー社長が所有する自社株式を実質的に後継者に移転させることができます。
このような信託の場合、法律上は委託者(オーナー社長)から受託者(オーナー社長)に所有権が移転しますが、税法上は、委託者(オーナー社長)から受益者(後継者)への贈与となります。

つまり、オーナー社長保有の自社株式の法律上の所有権保有に伴う権利(議決権)をオーナー社長が保有したままで、税務上の所有権だけを後継者に移転させ、相続税対策を実行することが可能になるのです。

ただし、この手法を採用する際には、信託設定時に、委託者(オーナー社長)から受益者(後継者)に自社株の相続税評価額での贈与が行われたとして贈与税が課税されますので、事前に自社株式の評価額を引き下げるなどの贈与税対策が必要となります。

自社株評価額の引下げの必要性と引下げ方法(その5)

2013-07-17 10:41:01 | 事業承継
今回は、利益圧縮以外の方法による株価対策の3回目として、(4)資産管理会社の活用について説明します。

資産管理会社とは、オーナー一族等の個人株主が所有する株式や不動産などの資産を個人に代わって所有・管理する会社です。
資産管理会社は様々な目的のために活用されますが、当事務所の事例で最も多いのは以下のような活用方法です。

①株式移転により、事業承継対象企業の100%親会社を新設。
既存会社の100%親会社を新設する方法として、最も簡単なのは、株式移転による方法です。株式移転は、組織再編の1手法ですが、手続きが簡単でコストも安いため、非常に使い勝手がよい方法です。

②オーナーまたは事業承継対象会社が保有する不動産を親会社に譲渡。
事業承継対象会社の100%親会社を新設することで、前回説明した「高収益事業の分離」と同様の効果(収益事業を子会社に持つことで、オーナーが保有する親会社株式評価額への影響を小さくできる)が期待できます。
また、さらなる株価引き下げを狙って、資産管理会社が不動産を取得することもよく行われます。賃貸用不動産を取得することで、オーナーの所有する資産管理会社の株価を引き下げることができます。ただし、法人が取得した不動産の評価は3年間は取得価格で評価することになりますので、自社株評価額が下がるのは3年後となります。

<計算例>
新築賃貸マンション(取得価格2億円、固定資産税評価額9,800万円)を資産管理会社が取得した場合
資産管理会社の取得価格は2億円となりますが、自社株を評価する際に用いる当該建物の評価額は固定資産税評価額である9,800万円なので、その差額1億200万円(2億円‐9,800万円)だけ、自社株評価を行う際の計算要素となる資産管理会社の純資産の引下げ効果が生まれ、株価も下落します。

自社株評価額の引下げの必要性と引下げ方法(その4)

2013-07-10 09:35:21 | 事業承継
今回は、利益圧縮以外の方法による株価対策の2回目として、(3)高収益事業の分離について説明します。

(3)高収益事業の分離
オーナー企業の自社株評価額が上昇するプロセスは、収益性の高い事業を持っている⇒毎年高収益を計上⇒会社の純資産が蓄積であり、高い株価を生む原因となっている高収益事業を当該企業から分離して、別のグループ企業に移すことができれば、当該企業の株価を引き下げることもできます。

高収益事業を分離する代表的な手法は以下の2つですが、それぞれにメリットとデメリットが存在するために、具体的な適用にあたっては、専門家とよく相談して、どの手法が有利かを慎重に見極める必要があります。

①高収益事業を後継者が設立した会社に事業譲渡する方法
後継者が100%出資して設立した会社に、当該企業の高収益事業を事業譲渡する方法です。この方法により、従来、当該企業に高収益をもたらしていた事業が後継者が設立した新会社に移転するために、当該企業の収益力は低下し、結果として株価も引き下げることができます。
本事業譲渡により、後継者が設立した新会社の株価は高くなりますが、新会社の事業承継までには数十年の時間がありますので、事業承継対策を行うことができます。

本手法は、一見、素晴らしい手法のように見えますが、以下のようなデメリットもありますので、注意が必要です。
・高収益事業を事業譲渡する場合、必ず「営業権」の問題が発生します。つまり、事業譲渡の際、当該企業側では、売却価格が簿価(譲渡資産簿価-譲渡負債簿価)の上回るため、多額の譲渡益が計上される。
⇒上記の問題は、完全支配関係ののある100%グループ法人間での事業譲渡とすることで、回避可能です。

・移転資産の所有権移転手続きに多額のコストと煩雑な手続きが必要になる。
 
そこで、実務上は、上記デメリットを回避することができる以下で説明する「会社分割」を利用するケースが多いと思います。

②高収益事業を会社分割により子会社に移転する方法
分社型新設分割(100%子会社を新設する分割)により、当該企業の100%子会社を設立することで高収益事業を子会社に移転することでも、当該企業の株価を引き下げることができます。
つまり、従来の会社は持株会社となり、100%子会社が事業会社になるとイメージです。

このような組織形態にすることで、子会社は株価が上昇しますが、親会社は直接収益の出る事業を保有しているわけではないので、株価は従来より低下します。

また、分社型新設分割では、子会社へ移転する資産・負債は原則簿価移転ですので、親会社側で譲渡損益を認識する必要がなく、さらには不動産の所有権移転に係る税金も優遇措置があるため、税務コストを気にすることなく、組織再編を行うことができるのもメリットです。

実際に株価がどの程度下がるのか検証するには、自社株評価額計算のプロセスを詳しく説明する必要があるため、ここでは割愛しますが、イメージととしては、これまでは高収益事業の毎年の利益が直接当該企業に蓄積されることで毎年株価が上昇してきましたが、本手法採用後は、利益は子会社に蓄積されることになり、当該企業(親会社)側では、子会社株式の含み益が増加する構造に変化することにより、当該企業(親会社)の株価上昇を抑えることができるということになります。

自社株評価額の引下げの必要性と引下げ方法(その3)

2013-07-09 14:39:09 | 事業承継
前回までの2回では、利益引下げによる株価対策について説明しましたが、今回は、利益圧縮以外の方法で、オーナー社長保有の自社株の評価額を引き下げる以下の手法について説明したいと思います。
(1)従業員持株会の活用
オーナー社長が保有する株式の一部を従業員持株会に譲渡するか、もしくは会社が第三者割当増資を行い、従業員持株会がその全額を引き受けることにより、オーナー社長の保有する自社株式の評価額を引き下げることができます。

<事例>
・会社の発行済株式数:500株
・オーナー保有株式:500株(100%保有)
・オーナー保有株式の取得価格:5万円
・オーナー保有株式の時価評価額:50万円
・会社の規模:従業員120名(大会社)
・オーナー保有株式500株のうち、100株を従業員持株会に配当還元価格で譲渡する
・配当還元価格:5万円

<計算結果>
①現在のオーナー保有自社株式の評価額
 500株×50万円=2億5,000万円
②従業員持株会に譲渡後の自社株式の評価額
 400株×50万円=2億円
①-②評価額引き下げ効果
 2億5,000万円-2億円=5,000万円

以上により、従業員持株会の活用により、5,000万円の評価引き下げが可能になります。
なお、オーナー社長は保有する自社株100株(取得価格5万円)を配当還元価格5万円/株で
譲渡しているため、所得税等の課税はなく、100株×5万円=500万円の現金を受け取ることになります。

なお、この手法は従業員持株会に自社株を持たせ、会社の業績に連動して配当を行うことにより、従業員の経営参加意識を醸成することができるという副次的な効果も期待できますが、従業員はあくまでも他人であることから、経営権の安定性を確保するため、従業員持株会の持株比率には留意する必要があります。

(2)投資育成会社の活用
投資育成会社とは、中小企業育成株式会社法に基づき設立された会社であり、沖縄県の場合は、大阪中小企業投資育成会社(九州支社=福岡)のテリトリーになります。
投資育成会社は、中小企業の自己資本の充実を促進し、その健全な発展を図るために、中小企業に投資することを業務としています。

投資育成会社の引受株価は、中小企業庁と国税庁が定めた表k算式によって算定します。
<評価算式>
評価額=(増資後の1株当たりの税引前予想利益×配当性向)/期待利回り
・予想利益:過去3年間の決算実績を基準として、投資育成会社が決定
・配当性向:10%~20%の範囲内で予想利益を基準として、投資育成会社が決定
・期待利回り:経営の状況、収益力、資金力等を総合的に判断して8%~12%の範囲で決定します。

投資育成会社を利用した場合の株価引き下げ効果についての検証は複雑なので、ここでは省略しますが、当事務所のお客様が投資育成会社を活用したケースでは、30%程度の評価引き下げに成功しています。オーナー社長が保有する株式の評価額が3億円とすると、3億円×0.3=9,000万円の評価引下げ効果が得られることになり、効果は絶大です。

なお、投資育成会社を活用する場合のデメリットは、投資育成会社に対して高めの配当を支払い続ける必要があることです。あまり多額の出資を受け入れると配当負担が重くなりますので、自社株評価引下げによる節税効果との見合いで出資額を決定する必要があります。

利益圧縮以外の方法による株価対策はいかがでしたか。次回は、引き続き利益圧縮以外の方法で、オーナー保有の自社株の評価額を引き下げる以下の手法について説明したいと思います。
(3)高収益事業の分離
(4)資産管理会社の活用

自社株評価額の引下げの必要性と引下げ方法(その2)

2013-07-02 13:29:57 | 事業承継
前回は自社株評価額引下げの必要性と評価額引き下げの方法について、説明しましたが、今回もその続きで会社の利益を一時的に圧縮して、株価を引き下げるために採られる手法について説明します。

(3)オペレーティングリースを活用する方法
オペレーティングリースとは、リース会社が実質的に運営する匿名組合に会社が出資することにより、匿名組合の損益をダイレクトに会社に取り込んで、利益を圧縮する方法です。
具体的には、航空会社や海運会社に飛行機や船舶をリースする目的の匿名組合をリース会社が設立し、その後、利益の圧縮(損金を前倒しで出したい)ニーズのある投資家を募って資金調達を行い、その投資資金にノンリコースローンで調達した借入金を合わせて、リース資産(飛行機や船舶)を購入し、その資産を航空会社や海運会社にリースする事業を行います。
匿名組合の損益は、当初は減価償却負担が大きく赤字になるため、当初2~3年で出資額全額の損金算入ができます。また、10年間の投資期間を通算すると8~10%程度の投資利回りが得られるケースが多いため、投資案件としての魅力も備えています。

ただし、オペレーティングリースは、途中解約が不可能であるため、出資後8年~10年後の満期時まで、資金が固定化してしまう点、元本保証がない点、ドルベースの投資案件が多い点等のデメリットもあるので、商品特性をよく理解した上で取り組む必要があります。
また、オペレーティングリース満期時には、出資額と同金額の益金が計上されるため、満期時に役員退縮金を支給するなどの対策をあらかじめ立てておく必要があります。

(4)有価証券や不動産の含み損を活用する方法
会社が保有する有価証券や不動産、ゴルフ会員権に含み損がある場合には、不要資産であれば外部に売却し、事業に必要な資産であれば関係会社や経営者個人に売却することにより、含み損を実現させることで、株価を引き下げることができます。

(5)即時償却や特別償却を活用する方法
取得年度において、取得金額全額を償却できる以下のような制度を活用することで、利益を圧縮し、株価を引き下げることができます。
①太陽光発電装置でその出力が10キロワット以上であるもの。
②風力発電装置でその出力が1万キロワット以上であるもの。
さらに、上記以外でも、特別償却費を計上できる資産を購入することで、通常の数倍の減価償却費を計上できます。

利益引下げによる株価対策はいかがでしたか。次回は、利益圧縮以外の方法で、オーナー保有の自社株の評価額を引き下げる以下の手法について説明したいと思います。
(1)従業員持株会の活用
(2)投資育成会社の活用
(3)高収益事業の分離
(4)資産管理会社の活用