沖縄の公認会計士佐藤晃史のブログ

沖縄で医療機関支援、事業承継、相続対策に強い会計事務所を経営している佐藤晃史のブログです

株式交換で自社株評価額を下げる

2013-09-18 16:29:20 | 事業承継
オーナー個人(オーナー家族を含む)がグループ企業2社(A社、B社)の株式を直接保有している場合、A社とB社が株式交換を行うことで、オーナーが保有する自社株の評価額を下げることができる場合があります。

一般的に兄弟会社2社(A社、B社)の株式交換を行い、A社を親会社、B社を子会社とした場合には、株式交換前後で親会社A社の配当総額及び利益総額の変更がない場合は、A社の発行済株式数が増加することで、類似業種比準価額を計算するための要素(1株当たり配当金、1株当たり利益金)が下がるため、A社の株式評価総額は低下します。

ただし、株式交換による子会社B社の株式受入により、親会社A社の税務上の純資産が増加し、株価を引き上げる効果が、上記の引下げ効果を下回るケースは例外的にA社の株式評価総額は増加する場合もありますので、注意が必要です。

上記の株価引き下げ効果を得るためには、株式交換後に親会社A社の類似業種比準価額評価上の会社区分が「大会社」=従業員50人以上、売上高20億円以上等の条件を満たす会社=である必要があります。

これは、大会社であれば、親会社A社の株式評価額は、純資産価額による株価を無視して、類似業種比準価額で評価できるのですが、大会社以外では、類似業務比準価額方式と純資産価額方式の株価の折衷方式となるためです。

なお、株式交換により、親会社A社の時価純資産額は子会社B社の株式の時価相当分だけ増加するため、純資産価額方式による株価は上昇しますので、大会社以外の会社では試算してみないことには、株価はどう変化するのかわかりません。

最近は、持株会社経営を行うために、株式交換を行う中小企業も多いですが、自社の株価がどのように変化するのか、あらかじめ確認してから、実行に移すことをお勧めします。


親族外株主等が多数存在する場合の自社株の強制買取

2013-08-26 15:07:07 | 事業承継
事業承継を進めるにあたって、親族外の株主、特に会社に敵対する株主や、停滞まではしなくても、会社に協力的でない株主、あるいは音信普通になっている株主などは、できるだけ、事前に排除しておきたいものです。

このような場合には、「全部取得条項付株式」を利用して、会社の発行済株式を自社株全部を取得すると同時に、改めて後継者自身や後継者に協力的な株主に出資をしてもらう方法をとることが考えられます。

「全部取得条項付株式」とは、会社が株主から強制的に自社株を買い取れる種類株式で、会社がいつでも株主総会の特別決議をすれば、その種類株式を持つすべての株主からその種類株式を買い取ることができる特別な株式のことです。

「全部取得条項付株式」を利用するには、まず、定款を変更して「全部取得条項付株式」を発行できる会社にしたうえで、株主総会を開催し、現在発行している全株式を「全部取得条項付株式」に変更し、「全部取得条項付株式」を全株会社が買い取る議案と、新たに後継者に新株を割り当てる議案を2/3以上の賛成で可決し、実行に移します。

こうすることで、結果として、旧株主は一掃され、新たに出資した後継者と後継者に協力的な株主だけが会社の株式を持つことになりますので、後継者は一気に会社の支配権を取得するこができるわけです。

以上のように、親族外株主等が多数存在する場合の事業承継には、とても有効な「全部取得条項付株式」ですが、以下のような留意点も存在しますので、活用にあたっては、専門家に事前に相談するようにしてください。

1.買取株価
税理士や公認会計士等の専門家に適正な買取価格を算定してもらう必要があります。
買取価格が適当でない(会社に有利な場合等)と株主が判断した場合は、株主総会から20日以内に裁判所に対して、価格決定の申し立てを行うことができるからです。

2.税源規制
「全部取得条項付株式」の取得は、発行会社による自社株の取得ですので、会社法上の財源規制があります。いわゆる、会社法上の分配可能額の範囲でしか、自社株の取得は行えないので、事前に分配可能額を確認しておく必要があります。


信託を利用した後継者への自社株贈与について

2013-07-26 11:13:30 | 事業承継
オーナー社長が自身が所有する自社株式を後継者である子息に生前贈与することは、事業承継対策における最もスタンダードなスキームですが、生涯現役を目指すにオーナー社長にとっては、自分が株主ではなくなることによる不安が付きまといます。

相続税の節税対策として、生前に自社株式を贈与することが有利とはわかっていても、会社の経営権は手放したくないというわけです。

確かに、会社の経営権の法律的な裏付けである株式を後継者に全部単純に贈与してしまうと、後継者と会社の経営方針で対立した際に、法律的に勝つのは会社の株式を100%保有する後継者であり、最悪のケースでは、取締役としての地位も危なくなってしまいます。

このような場合には、信託を利用した贈与を検討することになります。

たとえば、委託者をオーナー社長、信託財産をオーナーの所有する自社株式、受託者をオーナー社長、受益者を後継者とする信託を設定します。
信託を利用すると、オーナー社長が所有する自社株式を実質的に後継者に移転させることができます。
このような信託の場合、法律上は委託者(オーナー社長)から受託者(オーナー社長)に所有権が移転しますが、税法上は、委託者(オーナー社長)から受益者(後継者)への贈与となります。

つまり、オーナー社長保有の自社株式の法律上の所有権保有に伴う権利(議決権)をオーナー社長が保有したままで、税務上の所有権だけを後継者に移転させ、相続税対策を実行することが可能になるのです。

ただし、この手法を採用する際には、信託設定時に、委託者(オーナー社長)から受益者(後継者)に自社株の相続税評価額での贈与が行われたとして贈与税が課税されますので、事前に自社株式の評価額を引き下げるなどの贈与税対策が必要となります。

自社株評価額の引下げの必要性と引下げ方法(その5)

2013-07-17 10:41:01 | 事業承継
今回は、利益圧縮以外の方法による株価対策の3回目として、(4)資産管理会社の活用について説明します。

資産管理会社とは、オーナー一族等の個人株主が所有する株式や不動産などの資産を個人に代わって所有・管理する会社です。
資産管理会社は様々な目的のために活用されますが、当事務所の事例で最も多いのは以下のような活用方法です。

①株式移転により、事業承継対象企業の100%親会社を新設。
既存会社の100%親会社を新設する方法として、最も簡単なのは、株式移転による方法です。株式移転は、組織再編の1手法ですが、手続きが簡単でコストも安いため、非常に使い勝手がよい方法です。

②オーナーまたは事業承継対象会社が保有する不動産を親会社に譲渡。
事業承継対象会社の100%親会社を新設することで、前回説明した「高収益事業の分離」と同様の効果(収益事業を子会社に持つことで、オーナーが保有する親会社株式評価額への影響を小さくできる)が期待できます。
また、さらなる株価引き下げを狙って、資産管理会社が不動産を取得することもよく行われます。賃貸用不動産を取得することで、オーナーの所有する資産管理会社の株価を引き下げることができます。ただし、法人が取得した不動産の評価は3年間は取得価格で評価することになりますので、自社株評価額が下がるのは3年後となります。

<計算例>
新築賃貸マンション(取得価格2億円、固定資産税評価額9,800万円)を資産管理会社が取得した場合
資産管理会社の取得価格は2億円となりますが、自社株を評価する際に用いる当該建物の評価額は固定資産税評価額である9,800万円なので、その差額1億200万円(2億円‐9,800万円)だけ、自社株評価を行う際の計算要素となる資産管理会社の純資産の引下げ効果が生まれ、株価も下落します。

自社株評価額の引下げの必要性と引下げ方法(その4)

2013-07-10 09:35:21 | 事業承継
今回は、利益圧縮以外の方法による株価対策の2回目として、(3)高収益事業の分離について説明します。

(3)高収益事業の分離
オーナー企業の自社株評価額が上昇するプロセスは、収益性の高い事業を持っている⇒毎年高収益を計上⇒会社の純資産が蓄積であり、高い株価を生む原因となっている高収益事業を当該企業から分離して、別のグループ企業に移すことができれば、当該企業の株価を引き下げることもできます。

高収益事業を分離する代表的な手法は以下の2つですが、それぞれにメリットとデメリットが存在するために、具体的な適用にあたっては、専門家とよく相談して、どの手法が有利かを慎重に見極める必要があります。

①高収益事業を後継者が設立した会社に事業譲渡する方法
後継者が100%出資して設立した会社に、当該企業の高収益事業を事業譲渡する方法です。この方法により、従来、当該企業に高収益をもたらしていた事業が後継者が設立した新会社に移転するために、当該企業の収益力は低下し、結果として株価も引き下げることができます。
本事業譲渡により、後継者が設立した新会社の株価は高くなりますが、新会社の事業承継までには数十年の時間がありますので、事業承継対策を行うことができます。

本手法は、一見、素晴らしい手法のように見えますが、以下のようなデメリットもありますので、注意が必要です。
・高収益事業を事業譲渡する場合、必ず「営業権」の問題が発生します。つまり、事業譲渡の際、当該企業側では、売却価格が簿価(譲渡資産簿価-譲渡負債簿価)の上回るため、多額の譲渡益が計上される。
⇒上記の問題は、完全支配関係ののある100%グループ法人間での事業譲渡とすることで、回避可能です。

・移転資産の所有権移転手続きに多額のコストと煩雑な手続きが必要になる。
 
そこで、実務上は、上記デメリットを回避することができる以下で説明する「会社分割」を利用するケースが多いと思います。

②高収益事業を会社分割により子会社に移転する方法
分社型新設分割(100%子会社を新設する分割)により、当該企業の100%子会社を設立することで高収益事業を子会社に移転することでも、当該企業の株価を引き下げることができます。
つまり、従来の会社は持株会社となり、100%子会社が事業会社になるとイメージです。

このような組織形態にすることで、子会社は株価が上昇しますが、親会社は直接収益の出る事業を保有しているわけではないので、株価は従来より低下します。

また、分社型新設分割では、子会社へ移転する資産・負債は原則簿価移転ですので、親会社側で譲渡損益を認識する必要がなく、さらには不動産の所有権移転に係る税金も優遇措置があるため、税務コストを気にすることなく、組織再編を行うことができるのもメリットです。

実際に株価がどの程度下がるのか検証するには、自社株評価額計算のプロセスを詳しく説明する必要があるため、ここでは割愛しますが、イメージととしては、これまでは高収益事業の毎年の利益が直接当該企業に蓄積されることで毎年株価が上昇してきましたが、本手法採用後は、利益は子会社に蓄積されることになり、当該企業(親会社)側では、子会社株式の含み益が増加する構造に変化することにより、当該企業(親会社)の株価上昇を抑えることができるということになります。

自社株評価額の引下げの必要性と引下げ方法(その3)

2013-07-09 14:39:09 | 事業承継
前回までの2回では、利益引下げによる株価対策について説明しましたが、今回は、利益圧縮以外の方法で、オーナー社長保有の自社株の評価額を引き下げる以下の手法について説明したいと思います。
(1)従業員持株会の活用
オーナー社長が保有する株式の一部を従業員持株会に譲渡するか、もしくは会社が第三者割当増資を行い、従業員持株会がその全額を引き受けることにより、オーナー社長の保有する自社株式の評価額を引き下げることができます。

<事例>
・会社の発行済株式数:500株
・オーナー保有株式:500株(100%保有)
・オーナー保有株式の取得価格:5万円
・オーナー保有株式の時価評価額:50万円
・会社の規模:従業員120名(大会社)
・オーナー保有株式500株のうち、100株を従業員持株会に配当還元価格で譲渡する
・配当還元価格:5万円

<計算結果>
①現在のオーナー保有自社株式の評価額
 500株×50万円=2億5,000万円
②従業員持株会に譲渡後の自社株式の評価額
 400株×50万円=2億円
①-②評価額引き下げ効果
 2億5,000万円-2億円=5,000万円

以上により、従業員持株会の活用により、5,000万円の評価引き下げが可能になります。
なお、オーナー社長は保有する自社株100株(取得価格5万円)を配当還元価格5万円/株で
譲渡しているため、所得税等の課税はなく、100株×5万円=500万円の現金を受け取ることになります。

なお、この手法は従業員持株会に自社株を持たせ、会社の業績に連動して配当を行うことにより、従業員の経営参加意識を醸成することができるという副次的な効果も期待できますが、従業員はあくまでも他人であることから、経営権の安定性を確保するため、従業員持株会の持株比率には留意する必要があります。

(2)投資育成会社の活用
投資育成会社とは、中小企業育成株式会社法に基づき設立された会社であり、沖縄県の場合は、大阪中小企業投資育成会社(九州支社=福岡)のテリトリーになります。
投資育成会社は、中小企業の自己資本の充実を促進し、その健全な発展を図るために、中小企業に投資することを業務としています。

投資育成会社の引受株価は、中小企業庁と国税庁が定めた表k算式によって算定します。
<評価算式>
評価額=(増資後の1株当たりの税引前予想利益×配当性向)/期待利回り
・予想利益:過去3年間の決算実績を基準として、投資育成会社が決定
・配当性向:10%~20%の範囲内で予想利益を基準として、投資育成会社が決定
・期待利回り:経営の状況、収益力、資金力等を総合的に判断して8%~12%の範囲で決定します。

投資育成会社を利用した場合の株価引き下げ効果についての検証は複雑なので、ここでは省略しますが、当事務所のお客様が投資育成会社を活用したケースでは、30%程度の評価引き下げに成功しています。オーナー社長が保有する株式の評価額が3億円とすると、3億円×0.3=9,000万円の評価引下げ効果が得られることになり、効果は絶大です。

なお、投資育成会社を活用する場合のデメリットは、投資育成会社に対して高めの配当を支払い続ける必要があることです。あまり多額の出資を受け入れると配当負担が重くなりますので、自社株評価引下げによる節税効果との見合いで出資額を決定する必要があります。

利益圧縮以外の方法による株価対策はいかがでしたか。次回は、引き続き利益圧縮以外の方法で、オーナー保有の自社株の評価額を引き下げる以下の手法について説明したいと思います。
(3)高収益事業の分離
(4)資産管理会社の活用

自社株評価額の引下げの必要性と引下げ方法(その2)

2013-07-02 13:29:57 | 事業承継
前回は自社株評価額引下げの必要性と評価額引き下げの方法について、説明しましたが、今回もその続きで会社の利益を一時的に圧縮して、株価を引き下げるために採られる手法について説明します。

(3)オペレーティングリースを活用する方法
オペレーティングリースとは、リース会社が実質的に運営する匿名組合に会社が出資することにより、匿名組合の損益をダイレクトに会社に取り込んで、利益を圧縮する方法です。
具体的には、航空会社や海運会社に飛行機や船舶をリースする目的の匿名組合をリース会社が設立し、その後、利益の圧縮(損金を前倒しで出したい)ニーズのある投資家を募って資金調達を行い、その投資資金にノンリコースローンで調達した借入金を合わせて、リース資産(飛行機や船舶)を購入し、その資産を航空会社や海運会社にリースする事業を行います。
匿名組合の損益は、当初は減価償却負担が大きく赤字になるため、当初2~3年で出資額全額の損金算入ができます。また、10年間の投資期間を通算すると8~10%程度の投資利回りが得られるケースが多いため、投資案件としての魅力も備えています。

ただし、オペレーティングリースは、途中解約が不可能であるため、出資後8年~10年後の満期時まで、資金が固定化してしまう点、元本保証がない点、ドルベースの投資案件が多い点等のデメリットもあるので、商品特性をよく理解した上で取り組む必要があります。
また、オペレーティングリース満期時には、出資額と同金額の益金が計上されるため、満期時に役員退縮金を支給するなどの対策をあらかじめ立てておく必要があります。

(4)有価証券や不動産の含み損を活用する方法
会社が保有する有価証券や不動産、ゴルフ会員権に含み損がある場合には、不要資産であれば外部に売却し、事業に必要な資産であれば関係会社や経営者個人に売却することにより、含み損を実現させることで、株価を引き下げることができます。

(5)即時償却や特別償却を活用する方法
取得年度において、取得金額全額を償却できる以下のような制度を活用することで、利益を圧縮し、株価を引き下げることができます。
①太陽光発電装置でその出力が10キロワット以上であるもの。
②風力発電装置でその出力が1万キロワット以上であるもの。
さらに、上記以外でも、特別償却費を計上できる資産を購入することで、通常の数倍の減価償却費を計上できます。

利益引下げによる株価対策はいかがでしたか。次回は、利益圧縮以外の方法で、オーナー保有の自社株の評価額を引き下げる以下の手法について説明したいと思います。
(1)従業員持株会の活用
(2)投資育成会社の活用
(3)高収益事業の分離
(4)資産管理会社の活用

自社株評価額の引下げの必要性と引下げ方法(その1)

2013-06-26 09:45:02 | 事業承継
会社オーナーが自身が保有する自社の株式を後継者に渡したいと考えたときにまず最初に問題になるのは、税法上の自社株の評価額がどのくらいになるかということでしょう。

30年前に資本金1,000万円(発行済株式数1,000株を全株オーナーが所有)で設立した会社の株式を子供に贈与する事例で具体的に考えてみましょう。

1.現在の株価・・・10万円/株
2.子供が支払う贈与税・・・4,720万円
(計算過程)
(10万円×1,000株-110万円)×50%-225万円=4,720万円

上記の事例では、単純にオーナーが所有する自社株式全部を一度に子供に贈与すると、とんでもない金額の贈与税が課税されることがわかります。
このように多額の贈与税が課税されるのは、当初1株1万円であった自社株が、贈与時には10万円と10倍にも上昇していたことが原因です。

そこで、税負担を軽減するには、株価を引き下げればよいことがお分かりいただけるかと存じますが、今回は、株価を引き下げる方法をいくつか
ご紹介したいと思います。

1.利益を引き下げることで株価を引き下げる方法
株式を上場していないオーナー企業の株価は、利益、配当、純資産の3要素で決定されますが、中でも利益の影響力が他の2要素よりも圧倒的に高いため、一時的に利益を引き下げることで、株価自体を引き下げることが可能です。
具体的には、以下のような方策により、利益圧縮を行います。

(1)役員退職金の支給
オーナー社長が退任すると同時に、退職金を支給することにより、株価を引き下げることが可能です。
ただし、オーナー企業では、オーナー社長が実際に退職してしまうと、企業経営に支障をきたすケースがほとんどですので、オーナー社長がよほど高齢でかつ後継者が十分に成熟している状況でなければ、実際の活用は難しいと思います。
そこで、実務では、以下で説明する役員生命保険がよく利用されています。

(2)役員生命保険を活用する方法
オーナー社長が現在は退職できないが、10年後であれば可能であろうと想定される場合に、10年後に解約返戻金がピークを迎える逓増定期保険等(保険料の1/2損金が損金になり、解約返戻率も高い生命保険)に加入します。
10年後に2億円の役員退職金の支給をしたい場合には、年間保険料2,000万円の逓増定期に加入します。この保険加入により、10年間で保険料支払い合計額は2億円となり、解約返戻金を仮に2億円とすれば、まず、役員退職金の支給原資の確保ができることになります。
次に毎年支払う保険料2,000万円の1/2は法人の損金となりますので、毎年の利益を1,000万円押し下げるため、株価を引き下げる効果を発揮します。さらに、法人の貸借対照表上、10年間で合計2億円の預金が減少し、保険積立金が増加しますが、保険積立金の評価額は保険料支払累計額を下回りますので、純資産が減少し、さらなる株価引き下げ効果を発揮することになります。

なお、10年後にこの保険を解約し、オーナーに役員退職金を支給すると保険解約益1億円が発生しますが、役員退職金支給額2億円が全額損金となりますので、保険解約による税金支払いはありません。

なお、利益引下げによる株価引き下げ方法には、以下の方法もあるが、長くなるため、次回のブログで説明したいとおもいます。
(3)オペレーティングリースを活用する方法
(4)有価証券や不動産の含み損を活用する方法
(5)即時償却や特別償却を活用する方法

事業承継税制の改正

2013-02-14 15:46:12 | 事業承継
使い勝手が悪く、利用が伸び悩んでいた事業承継税制の改正が「平成25年度税制改正大綱」に盛り込まれました。

主な改正内容は以下の通りです。

1.雇用確保要件の緩和
 現行の「毎年8割以上確保」から「5年間平均で8割以上確保」に緩和

2.後継者が親族以外の場合も適用可能に後継者要件緩和

3.贈与税における先代経営者の役員退任要件の緩和
 先代経営者(贈与者)は、贈与時に代表者を退任すれば、贈与後に引き続き役員であっても納税猶予の
 適用対象とする

4.利子税の負担軽減
 ・納税猶予期間に係る利子税率を引き下げ(現行2.1%から0.9%へ)
 ・納税猶予期間が5年を超える場合、事業承継期間(5年間)の利子税を免除

5.納税猶予再計算の特例の創設
 民事再生計画等に基づき事業を再出発させる際、猶予税額を再評価し、税額を一部免除

6.納税猶予額の計算方法の見直し
 納税猶予をフル活用できるように先代経営者の個人債務・葬式費用を株式以外の相続財産から控除

7.事前確認制度の廃止
 相続または贈与前の経済産業大臣による事前確認の廃止

8.提出書類の簡素化

9.その他の措置
 ・株券不発行会社への適用拡大
 ・認定が取り消された際の猶予税額に対する延納及び物納の適用

以上をまとめると、これまで適用を躊躇せざるを得ない原因となっていた「従業員雇用要件」、「後継者要件」が緩和され、
さらには「猶予期間の利子税」の引下げが行われた上に、適用手続きも簡素化されたため、これまでよりは利用を検討する企業が
増加するものと思われます。

そうはいっても、当該税制には適用後のリスクも潜んでいますので、できれば事前対策を充分に行って、当該税制のお世話になら
ないようにしたいものです。

自社株を資産管理会社に譲渡した事例

2012-11-28 09:16:23 | 事業承継
今回は、事業承継対策の一環として、会社オーナーが保有する自社株を後継者である長男が設立した資産管理会社に譲渡する事例をご紹介します。

事業承継対策として、自社株を後継者である子供に渡す手段として最も多く用いられる方法は、親子間での贈与です。
自社株の評価額が低い(時価総額で5,000万円以下程度)であれば、特別の対策なしに、毎年500万円分の自社株を子供に暦年贈与することで問題は解決します。
毎年の贈与税は53万円なので、自社株の移転コストは53万円×10年間=530万円になります。

後継者である子供は時価総額5,000万円の自社株を530万円のコスト(税率10.6%)で取得できるのですから、ベストではなくてもベターではないでしょうか。

さて、今日の本題です。

この事例の会社(A社)の自社株の時価総額は2億円(オーナー社長が100%所有)もあるため、暦年贈与作戦では対応できません。

そこで、後継者である長男の100%出資で資産管理会社を新設してもらい、当該資産管理会社にオーナー所有の自社株を順次購入してもらうことにしました。

買取資金については、オーナーが所有してる収益物件(譲渡価格2.5億円、毎年2,500万円のキャッシュフローを生み出す)を資産管理会社会社に譲渡してもらうこと
で生み出しました。
なお、資産管理会社は2.5億円をA社から借入れ、元本は据え置きとして、利息2%のみを支払うことにします。

以上の仕組みにより、資産管理会社は毎年2,000万円程度のキャッシュフローを得られることになります。
資産管理会社は、このキャッシュフローを利用して、オーナー社長から、自社株を取得します。

上記の例では、時価総額2億円の自社株であっても、資産管理会社が毎年2,000万円分をオーナー社長から購入することができるため、計算上では10年間でオーナー社長保有株式
の全部を資産管理会社が取得できることになります。

つまり、10年後には、A社は長男がオーナーの資産管理会社の100%子会社となるため、長男が実質的にA社のオーナーになるわけです。
なお、資産管理会社とA社の2社を持つ意味がないのであれば、資産管理会社とA社を合併することで、長男はA社の株式を100%取得することもできます。

オーナー社長は、時価2億円の自社株を現金2億円に代えることになりますが、株式譲渡に係る課税が分離課税20%で済むことから、ベターな選択ではないかと思います。

さらにオーナー社長の節税を考えるなら、現在もらっている役員給与を大幅減額して、毎年の株式譲渡代金2,000万円を役員給与に代わる生活費として活用するといいでしょう。

相続対策としても、何もしなければ2億円の価値の相続財産が現金に代わることで、10年間で消費され、財産そのものがなくなりますので、大変有効な対策といえます。

決算期ごとに自社株の評価額を算出しましょう

2012-10-04 15:52:35 | 事業承継
事業承継を意識し始めた企業オーナーがまず最初に知るべきは、自身が所有している自社の株式の評価額です。

未公開株式の評価額の算出方法は、国税庁の通達において、細かく決められていますので、事業承継や相続・贈与に関してある程度の経験のある税理士であれば、専用のソフトを使って、自社株の評価額を算出してくれるはずです。

自社株が高いと、後継者に生前贈与を行うなどの事業承継対策を進める場合の税金コストが高くなります。贈与税は、株式をもらった側が納税することになるため、資金力のない後継者にはつらいものがあり、株式の移転が遅々として進まない大きな原因となります。

ちなみに、1株額面5万円の株式を400株保有するオーナーの自社株評価額が25万円/株(総額1億円)である場合の贈与税のシミュレーションは以下の通りです。

・1年あたりの贈与株数・・・20株
・1年あたりの贈与金額・・・25万円×20株=500万円
・1年あたりの贈与税額・・・(500万円-110万円)×20%-25万円=53万円
・400株全株を贈与するのに要する年数・・・400株/20株=20年
・400株全株を取得するのに要する贈与税額・・・53万円×20年=1,060万円

上記の事例では、株価は20年間一定との仮定を置きましたが、毎年の利益が蓄積して純資産が増加すると、株価は上昇するため、実際にはこの金額では収まりません。

そこで、今後、株価、株価が確実に上昇するであろう企業(純資産が5億円を超える場合や、毎期経常利益が5,000万円を超える場合等)は、早めに顧問税理士に依頼して、自社株の評価をしてもらい、株価の上昇を抑える対策を提案してらいましょう。

事業承継税額の5年後免除を含む事業承継税制の改正案

2012-09-24 17:17:44 | 事業承継
経済産業省は、平成25年度税制改正要望の中に、現在は縛りがきつい為に評判が悪い、事業承継税制の改正案を盛り込みました。
経済産業省の見直し案の骨子は以下の通りです。

1.雇用条件の緩和
 現在は、贈与または相続後、5年間は毎年、従業員の8割以上の雇用継続を行っているかの判定が必要であり、未達成の場合は納税猶予は打ち切りとなる。この要件を緩和し、この雇用8割以上維持条件を5年間の平均値で判定することとし、未達成であった場合も、猶予税額の全額を納税するのではなく、下回った部分に相当する税金を計算し、納税する仕組みに変える。

2.猶予税額の全額免除とする
 現在は、5年経過後も、事業承継税制の対象外となる資産管理会社に該当した場合は、猶予税額の全額納付義務が発生し、利子税のおまけもつく。これを、5年経過後には、猶予税額を全額免除する。

3.後継者の条件緩和
 現在、先代経営者に限られている後継者要件を、親族外にも認めるように、対象範囲を拡大する。

4.先代経営者の退任要件
 現在、先代経営者の退任が要件となっているが、代表者退任に緩和する。

5.会社の事業資金の担保に供されている不動産の納税猶予(新設)
 会社の事業資金の担保に供されている不動産についても納税猶予の対象とする。

6.小規模会社の土地の減額特例(新設)
 自社株式の評価を評価する際に、事業用土地の評価額を80%減し、純資産ベースの株式評価額を下げる。

個人的には、1の雇用条件緩和と、2の全額免除が実現するのであれば、当事務所のお客様にもぜひおすすめしたいと思いますが、上記全部が仮に実現したら、株価の高い企業の事業承継戦略が大きく変わることになりそうです。

主要国の事業承継税制

2012-09-19 14:51:13 | 事業承継
全国法人会総連合(全法連)という組織(初めて聞きました)が8月28日、「わが国と主要国における事業承継税制の制度比較検討調査に係る報告書」をまとめ公表したとのこと。

早速、検索してみると、概略、以下の内容の報告書が掲載されていました。

1.調査は税理士法人プライスウォーターハウスクーパースが実施。比較対象国は、日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスの5か国。

2.全法連では、今後のわが国の事業承継税制のあるべき姿を考える有益な切り口となることを意図し、その活用を期待して、調査を実施。

3.「わが国における事業承継税制の概要」を解説した後、「主要国における事業承継税制」を紹介、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスについて、相続税(遺産税)の状況、課税対象、課税方式、税率、評価方法、事業承継税制、その他トピックスを紹介。

4.主要国との制度比較では、わが国の相続税は、いわゆる法定相続分遺産取得課税方式で、税額は法定相続を仮定して総額を算定するという方式を採用しており、相続人の遺産取得とは関係なく税額が決定されるが、アメリカとイギリスじは遺産課税方式であり、ドイツとフランスは遺産取得方式を採用している。

5.日本の相続税を諸外国と比較すると、最高税率がドイツと並んで最も高く、課税最低限も相対的に低い。

6.事業承継税制についても、宅地の評価減や非上場株式に係る納税猶予の特例はあるが、事業用資産全体は対象となっていない。

7.納税猶予制度については雇用維持要件及び継続保有要件が厳しいものとなっている点において使い勝手が悪くなっている。

ご興味のある方は、以下のリンクから、全文をダウンロードしてご覧ください





事業承継目的の持株会社の作り方(その3)

2012-04-02 17:28:22 | 事業承継
事業承継を目的とした持株会社設立方法その3です。

これまでご紹介した2つの方法を復習すると以下のようになります。
①後継者が新会社を設立して、現オーナーの株を購入
②株式移転で既存会社の100%親会社を設立したのち、現オーナーが所有する親会社の株式を後継者に贈与

3つ目の方法は、会社分割を利用して、既存の会社の100%子会社を新設する方法です。
会社分割とは、既存の会社(分割会社)が事業に関して有する権利義務の全部又は一部を、分割により、他の会社(分割承継会社)に包括的に承継させる組織法上の行為です。分割承継会社が分割により新しく設立される場合を「新設分割」といい、既存の会社が分割承継会社となる場合を「吸収分割」といいます。

ここで、説明する持株会社を作るために用いられる会社分割は「新設分割」であり、以下「新設分割」の説明になります。

要するに、新設会社分割とは、Aという会社が、B事業とC事業を持っている場合に、B事業とC事業にかかる資産と負債及びその他の権利関係全て(従業員の雇用契約等も含む)を一括して、それぞれ新設する2つの100%子会社(A社、B社)に移転させる行為です。

会社分割を用いずに、A社からB事業とC事業を別々の子会社に移すとなると、手間が相当かかるだけでなく、資産を会社に譲渡する際に税金もたくさん(法人税等、不動産取得税、消費税、登録免許税、・・・)がかかることに加え、従業員も一旦退職させて、子会社で再雇用する必要があります。

新設会社分割を用いれば、上記のデメリットのほとんどが解消されるため、とても使い勝手のよい制度です。

事業承継目的で新設会社分割を利用する場合は、後継者が2人いて、その2人に別々の事業(商品別あるいは地域別)を継がせたい場合に、会社分割で100%子会社を2社設立して、後継者2人をそれぞれ、各子会社の社長に据えるのです。
持株会社の株は、当面、現オーナーが保有し、子会社に睨みをきかせるとともに、5~10年程度、2人の後継者の働きぶりを観察して、持株会社を任せられると判断した後継者に自社株式を贈与します。

私は平成13年の会社分割制度創設以来、多数の会社分割アドバイスを行ってきており、沖縄県内では、最も経験豊富な専門家の一人です。
会社分割をご検討の際は、ぜひ、当事務所にお声かけください。

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事業承継目的の持株会社の作り方(その2)

2012-03-28 14:39:21 | 事業承継
事業承継目的の持株会社の作り方(その2)です。

2.株式移転により、既存会社の完全親会社を作る方法

ここでいう「株式移転」とは、会社法上の用語であり、通常の意味での株式移転、つまり、一方の株主から他の株主へ株式を移転するという意味ではありません。

「株式移転」とは、既存の会社が、単独または複数で、完全親会社を設立するために、完全親会社となる会社と株式を交換することです。

既存の会社の株主が所有する株式を全て親会社に移転し、それと引き換えに親会社の株式を割り当てることにより、既存会社の完全親会社を設立します。

株式移転により、完全親会社、つまり持株会社を作り出す場合、その完全親会社の株主構成は、既存会社の株主構成と一致することになりますので、株式移転を行っただけでは、事業承継対策になりません。

そこで、持株会社の株式を現在のオーナーから後継者に贈与を行います。
子供を後継者として、親の所有する株式を贈与する場合、(当該株式の時価×株数)が贈与財産の評価額となり、(贈与財産の評価額-110万円)に所定の累進税率をかけた金額を贈与税として、当該株式をもらった後継者が支払う必要があります。

このため、事業承継対策としては、事業承継コストつまり自社株を後継者に渡す際に係るコストを引き下げる対策が求められます。

事業承継コストを下げるには、自社株の時価を下げるのが最も有効な対策ですが、持株会社方式をとることにより、自社株の時価を引き下げることができる場合があります。

自社株の時価を引き下げることができる条件は以下の通りです。

1.持株会社が一定の事業を行い、一定の従業員を雇用すること

2.持株会社が子会社株式以外の一定の資産を保有すること

3.既存の会社、つまり100%子会社の収益力は高いが、持株会社の収益力は低いこと

4.持株会社設立後3年以上が経過していること

持株会社を利用した事業承継対策については、高度なノウハウが必要ですので、事業承継支援実績が豊富な当事務所にご相談下さい。