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FIELD MUSEUM REVIEW

186ex 美の臀堂◇テルマエ展 パナソニック汐留美術館 2024年05月23日

テルマエ・ロマエ thermae Romae はローマの浴場である。
パナソニック汐留美術館「テルマエ展 お風呂でつながる古代ローマと日本」(会期:2024年4月6日ー6月9日)に参観した。(4月8日)
会場には写真撮影がゆるされた空間が二箇所あった。ローマと日本である。再訪のさい記録した。(5月23日)

展示図録として編まれた冊子の表紙をかざる「恥じらいのヴィーナス」である。しかし、表紙はもとより「第3章 テルマエと美術」の掲載写真も前向き、ないしは横顔でございます。
(写真は東京都港区にて2024年5月23日撮影)

前から・後ろから。
1世紀 ポンペイ、アポロ神域出土 大理石 高さ130cm ナポリ考古学博物館蔵
(*1)

右手を胸の前に、左手で布をつまむかのよう。股にはさまる布の表現は、立像を安定させるためであろうか。膝の下は修復のようにみえる。

アポロ神域から出土したが、すぐそばにヴィーナス神殿があった。「恥じらいのヴィーナス」Venus pudica (ウェヌス・プディカ)という彫像タイプは多数つくられ、ルネサンス期の絵画にもみられる。入浴のために着衣をぬいだわけではない。

ヴィーナス像はがいして胸がひかえめ。生物学的には必要なときだけ大きくなるのが合理的である。

かつて20世紀のおわりごろ三年間に五回フランス訪問の機会があった。各二週間。パリ三度目にしてはじめてルーヴル美術館に足をふみいれた。「ミロのヴィーナス」の後ろ姿をフィルムにおさめてかえってきた。見せてあげないよ。

「ヘラクレス小像」
前1世紀~後2世紀 青銅 高さ20cm MIHO MUSEUM蔵 (*2)

ミホ・ミュージアムの所蔵品はもう一点、「銅製把手付ガラス壺」が出陳されていた。同時期に開催されている同館「古代ガラス-輝く意匠と技法」展の展示品200余点にもれた作品である。(*3)
(古代ガラス ⇒ 184ex「ガラスがガラスでなくなるとき◇古代ガラス MIHO MUSEUM」2024年04月21日 へ)

日本の「ふろ」を代表して「ケロリン」桶一式。町田忍氏蔵。
(展示解説パネルより)

以下は展示作品。型により異る大きさがわかるよう、写真の縮尺にくふうしてみたのだが、うまくいったかどうか。(*4)

初期型 高さ12cm、直径23cm

東京型 高さ12cm、直径22.5cm

女性髪洗い用 高さ17cm、直径30cm

子ども用 高さ10cm、直径22cm

広口洗面器型 高さ10cm、直径30cm

特別限定木桶 高さ12cm、直径24cm

きまりは全国共通、いつの世もおなじ。
「入浴の御注意」ホーロー看板
昭和三十年代 金属板(ガラス質塗料印刷) 縦73.6cm、横43.3cm 町田忍蔵

ナショナルは松下電器産業の家電製品商標であった。2008年、パナソニックに変更し、社名もパナソニックとなる。展示会場への配慮か。

「テルマエ展」は2023年から2024年にかけて山梨県立美術館をかわきりに、大分県立美術館、パナソニック汐留美術館に巡回し、神戸市立美術館にて開催中(会期:2024年6月22日ー8月25日)。
(大井 剛)

(*1) 公式カタログ兼書籍『テルマエ展 お風呂でつながる古代ローマと日本』京都:青幻社、2023年。191p. 
作品番号107「恥じらいのヴィーナス」同書 pp.108-109. 

(*2) 作品番号108「ヘラクレス小像」註(*1)前掲書 p.110. 

MIHO MUSEUM ウェブサイト「コレクション」ページ、「ヘラクレス」の項では「前4-前3世紀」とする。

(*3) 作品番号50「銅製把手付ガラス壺」註(*1)前掲書 p.62. 
3~4世紀 東地中海地域出土 ガラス 総高11.1cm、幅7.6cm、ガラス部分の高さ6.2cm MIHO MUSEUM蔵
「紫色のガラスを宙吹きしてつくられた壺」に「銅製の把手が付いている」。浴場に「石鹸代わりの粉を入れて持って行ったとされている」。

『古代ガラス-色彩の饗宴-』MIHO MUSEUM、岡山市立オリエント美術館編、
MIHO MUSEUM、2013年。399p.
作品番号123「銅製把手付壺」 図版:同書 p.107. 
個別解説:同書 p.293. 
「半透明紫色のガラスを宙吹きし、口縁部は下向きに畳んで縁を付けてからせり上がらせている。底にはポンテ痕が残る。不透明薄緑のガラスで湾曲した把手を付け、針金をねじり合わせて付けた環に、銅製の把手が付いている。公衆浴場に行く際に、この形の器に石鹸がわりの粉を入れて、持って行ったといわれる。(YA)」
執筆は東容子MIHO MUSEUM学芸員。

(*4) 作品番号144「ケロリンの桶」註(*1)前掲書 p.158. 
昭和三十八年(1963年)~平成時代頃 町田忍蔵

ここでは関東版(A型)と関西版(B型)とのちがいは判明しなかった。
(A型/B型 ⇒ FM177_S1「良薬も毒薬も薬のうち◇くすりはリスク考」2024年3月21日 [2023年11月に掲出] へ)

【追記】 ケロリン桶が関東と関西でことなる理由について。
町田忍著『銭湯 -「浮世の垢」も落とす庶民の社交場-』京都:ミネルヴァ書房、2016年、シリーズ・ニッポン再発見2。
同書「黄色い桶の謎」の項(pp.175-180)によれば、つぎのようである。
「関東型は直径22.5センチメートル、360グラム。関西型は直径21センチメートル、260グラムである。大きさが違う理由は、関西は昔から、湯船の湯を桶に入れてかけ湯をする習慣があり片手で持ちやすい大きさになっているからといわれている。関東型はカランから湯を桶に入れるので比較的大きいサイズ、というわけだ。」
ここでも伝聞による記述であり、確たる証拠がしめされているわけではない。
同書(2016年刊)ではケロリン桶の製造は内外薬品によると記されているが(p.179)、2024年現在製造者は富山めぐみ製薬(富山県富山市)である。

【見出し写真】 アントニヌス浴場、通称カラカラ浴場のモザイク床。

カラカラ浴場の模型と平面図が半々に。「恥じらいのヴィーナス」の尻の後方にも見えています(写真1枚目)。
平面図は展示図録(註(*1)前掲書) pp.28-29 にあります。模型の写真は見あたりません。

アントニヌス浴場(通称カラカラ浴場)の平面図です。展覧会とは関係ない別の辞典から借りました。

(更新記録: 2023年5月23日起稿、7月18日公開、7月20日修訂、8月11日追記)

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