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本と音楽とねこと

廃用身

久坂部羊,2003,『廃用身』幻冬舎('17.1.2)

 読み進めるうち、長らく本棚の片隅に眠らせておいたのを後悔した。
 読者が本作をノンフィクションと錯覚してもらうための仕掛けが周到だが、そうでなくとも現実に起こったこと、これから起こりうることをレポートした作品であるかのように感じるだろう。過酷な高齢者介護の現実と高齢者虐待の深刻化。今後、この介護地獄は、さらに深化していくことはまちがいないからだ。
 該博な医学的知識に裏打ちされた医療描写だけでなく、主人公をはじめとした登場人物の心理描写が巧みで、一気に読ませる快作だ。


「廃用身」とは、脳梗塞などの麻痺で動かなくなり、しかも回復の見込みのない手足のことをいう医学用語である。医師・漆原糾は、神戸で老人医療にあたっていた。心身ともに不自由な生活を送る老人たちと日々、接する彼は、“より良い介護とは何か”をいつも思い悩みながら、やがて画期的な療法「Aケア」を思いつく。漆原が医学的な効果を信じて老人患者に勧めるそれは、動かなくなった廃用身を切断(Amputation)するものだった。患者たちの同意を得て、つぎつぎに実践する漆原。が、やがてそれをマスコミがかぎつけ、当然、残酷でスキャンダラスな「老人虐待の大事件」と報道する。はたして漆原は悪魔なのか?それとも医療と老人と介護者に福音をもたらす奇跡の使者なのか?人間の誠実と残酷、理性と醜悪、情熱と逸脱を、迫真のリアリティで描き切った超問題作。

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