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本と音楽とねこと

もう一人、誰かを好きになったとき

荻上チキ,2023,もう一人、誰かを好きになったとき──ポリアモリーのリアル,新潮社.(2.12.24)

 『帰っていいのよ、今夜も』で最悪だったのが、ワイフに愛人との関係がばれてしまい、男、愛人、妻が、ドロドロの修羅場を演じるくだりだった。

 なんでそんなにバレるようなダサいヘマやらかすかね、あまりに脇が甘すぎるんじゃね?

 というのは、別としても、最悪だなあ、醜悪だなあ、もう、不快指数100%。

 あるいは、恋人、夫や妻の「不貞」を疑い、相手のスマホを盗み見したり、探偵雇って、尾行させる、バカ女にバカ男、、、

 少し前まで、よく通る大きな交差点に、興信所のえらいでっかい看板が出てて、それを見るたびに、不快だった。
 腕組みをして怒りの表情を露わにした女の写真と、「浮気調査承ります」、たしかそんなコピーだったと思う。

 あー、人間、そこまで墜ちられるものなんだねえ、、、

 ポリアモリーあるいはノンモノガミーとは、複数愛、同時に複数の人を愛し、交際する、その在り方。
 ポリアモラスとは、複数愛的、同時に複数の人を好きになる、そんな感受性の在り方を指し示す。
 ポリアモラスな人のことを、ポリー/ポリアモリストと呼ぶ。

 そもそも、 「交際する」とか、「つきあう」ってなに?

 なんらかの場を共有し、相互に相手のこころにダイブして、「一つになった」感覚に陥り、相手のことを、損得勘定抜きに、愛おしみ、慈しむこと?

 セックスすること?

 それとも、その両方?

 よくわかんないな。

 本書では、深海菊絵さんが考案した、ポリアモラスであるかどうかを判定する尺度が紹介されている。

1 交際相手がいるのに他の人を好きになったことがある
2 夫や妻がいるのにデートしたいと思う相手が現れたことがある
3 すでにパートナーがいる人を好きになったことがある
4 実は浮気をしたことがある
5 実は二股をかけたことがある
6 実は不倫をしたことがある
(p.14.)

 わたしのあたまの辞書には、「浮気」、「二股」、「不倫」という項目は存在しない。浮気→本気、二股→二人をシェア、不倫→正倫、だろうよ。

 法は、しばしば、クソである。

 民法をみてみよう。

(重婚の禁止)
第七百三十二条 配偶者のある者は、重ねて婚姻をすることができない。

(同居、協力及び扶助の義務)
第七百五十二条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

(裁判上の離婚)
第七百七十条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2 裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

 つくづく、クズな法だと思うよ。

 重婚禁止なんて、偏狭な、一棒一穴主義だな。キモチワルイ。

 なぜ同居せんといかんと?パートナー同士が、お互いのもとに通う、ってのも、あるわけやん?

 だから、この世に、「不貞」など、存在しない、って言ってるだろ。
 いま、2024年だぜ?家父長制全盛期の明治じゃねえんだよ。

 パートナーが、強度の精神病で回復の見込みがないときは別れていいよ、って、ずいぶんと、冷てえんだな。
 愛していれば、見捨てないで、自らの生存をかけて、ケアしないと、いけないんじゃないの?

 法って、怖いね。
 作った奴の、度量のなさがそのまま表れるから。

 法がクソなら、法の外に出ればいい、ただ、そんだけのこと。
 そして、それは、そんなに難しいことじゃない。

 ポリーが、モノガマス(一対一の排他的性愛を望む状態を指し示す)な人(モノアモニスト)を愛すると、けっこう、面倒になることが多い。

 でも、人は変わる、変えられる。

 ポリーの「きのコ」さん、28歳の、「不倫相手」の彼は、モノアモニストからポリーに変貌する。

(前略)やがて彼に、大きな変化が見られた。きのコさんのデートを許容するようになっていっただけではない。彼もまた、「他の人とデートをしたい」と告げてきたのだ。
「そうなんだ、行ってらっしゃい、と送り出したら、『とても楽しかった!』って笑顔で帰ってきて。『それはよかったね!』っていう感じで。向こうも、開かれていったというか」
 今では互いに、「こんな人を好きになったよ」「この前新しい彼女ができたよ」という会話を交わすようになっている。そのような変化をした自分たちに、誇りにも似た感覚を持っているという。
(pp.25-26.)

 嫉妬という厄介な代物がある。

 ただ、相手を、モノ化、道具化しないで、一個の独立した人格を備えた人間として尊重しているのであれば、恋人が、他のパートナー(メタモア)と思う存分デートを楽しんできたとしたら、それを、メタモアを妬むことなく、喜んであげられる、つまり、コンパージョンの感覚をもつことができるのではないだろうか。

 コンパージョンという感情を具現化すると、以下のようになる。

「自分の好きな人は素敵なので、他の人から好かれるのは当然だと思う」
「好きな人が楽しいのが一番嬉しい」
「大事な家族であるペットが、招いた友人に可愛がられたら嬉しい。(コンパージョンは)それと似ています」

 つまりは、コンパージョンとは、「自分が好きな人が、他人から受け入れられていく様子と、嬉しそうな様子をみて、幸福と満足感を覚える」、そうした感覚、感情であるといえる。
(p.115.)

 また、そこから得られる自己肯定感や自尊感情もある。

 (コンパージョンには、)「嬉しさ」「愛しさ」のようなものもあれば、「嫉妬感情や交換不安などをマネジメントできている自分への誇らしさ」「相互の自由についてのリスペクト」のような感覚(がともなう)。
(p.121.)

 煉さん(男性、37歳)とあすみさん(女性)は婚姻関係にあるポリーだ。

 嫉妬とかは本当になくて。煉さんはいろんな人と仲良くしていて、私は人と仲良くするのが得意じゃないなって思うので、羨ましさはあります。でも、羨ましいからやめろみたいには思わないですし。あとはたまたま、自分がとても構ってほしい時に、他の方とのデートが入っていたら、寂しいなとは思う。でもそれは、(デートしたい時に)仕事が入っていて忙しいという時と変わらなくて。一瞬寂しいだけで、後から大事にしてくれるって分かるし。
(あすみさん、p.109.)

 なかなか、そうもいかないというのも、わかる。



Roxy Music - Jealous Guy

(わたしは、ジョン・レノンより、ブライアン・フェリーの「ジェラス・ガイ」の方が好き。)

 「傷つけるつもりはなかったんだ、、、泣かせちゃってごめん、、、僕はしがないやきもちやきなんだよ、、、」

 まー、可愛い心情ではあるけれども、開き直るのは感心しないな、、、もっと大人になれよ、、、

 ポリーがモノアモニストの相手とうまくやっていこうとするのであれば、他のパートナーとの関係を秘匿すること、それも必要悪、ということもあろう。

 言わぬが花、ということだ。

 実際問題として、モノ規範が根強く心身に刷り込まれたモノアモニストが、ポリーがどうしてもポリーでしかありえないということ、それを理解するのは、難しい。

 たしかに、「ラディカル・オネスティ(徹底した正直さ)」を貫き通すのが理想ではあるが、人間、どうしてもわかり合えないところもあるよね、ってこと。

 2020年、米国、マサチューセッツ州のサマービル市では、「婚姻関係にないパートナー同士のヘルスケアへのアクセスの問題(病院に入院するパートナーに面会できないことや、パートナーの健康保険に入れないことなど)、それだけではなく、ポリアモリーの人々の権利を保障するために、「ドメスティック・パートナーシップは二人の人物(two persons)により構成される」という条例原案の、「二人の人物」を「人々(people)」書き換えた改定条例案を、市議会が全会一致で可決した。(pp.216-217.)

 このあまりの彼此の格差に、同性婚、それ以前に、夫婦別姓さえいまだに法制化されない日本の惨状に、あらためて深い失望を覚えざるをえない。

 本書に、さまざまなことを学び、わたし自身の考えを深めることができた。
 文句なしにおすすめしたい一冊である。

 家父長制と性差別、モノアモリー、モノガミー、これらの根深い関連について、米国、ニューヨーク州の「オナイダ・コミュニティ」において、ジョン・ハンフリー・ノイズが主導して展開され失敗に終わった「複合婚」の実験的試み、アナキストにして(おそらく)ポリーでもあった大杉栄が、伊藤野枝らと四角関係に陥り、恋人、愛人の一人、神近市子に首を刺された日蔭茶屋事件、ハナ・アレントによる活動(action)、仕事(work)、労働(labor)の概念を援用した、恋愛、性愛とディーセント・ワークとのバランスの問題、ポリーは恋愛強者、恋愛弱者が闇堕ち(フェミサイド、ミソジニー、性加害等)するのを予防する、テックによるVRの可能性(ムーンショット)等々、論じきれなかったことも数多い。
 しかし、性根尽きたので、ここまで。おしり、いったーい。

 こんな感じでレビューを書き溜めて、リライトすれば、本の原稿に流用できるかな。



Sting - If You Love Somebody Set Them Free

 PANTAさんが、スティングと会ったときのことを、どこかのインタビューで読んだんだけど、探し出せない。
 たしか、こんな話。

 ホテル高層階のバー。
 そこに、長身の彼女と現れるスティング。
 彼女がシガレットケースから煙草を取り出すと、
 スティング、さっとライターの火を差し向ける、、、

 くあー、スティング、まじ卍、かっけー!
 ファッキンクール!

私が愛する人は一人だけじゃない──。日本における複数愛の実態を探る。相手の合意を得たうえで、ふたり以上の恋人やパートナーを持つ──そのような関係性をポリアモリーという。不倫や浮気とは何が異なる? 嫉妬の感情は生まれないのか? 子育てはどのように行うのか? 社会のなかで抱える困難とは? 日本に暮らす当事者100人以上に取材・調査してその実態を伝える、国内初の複数愛ルポルタージュ。

目次
第1章 ポリアモリーとは何か
第2章 ポリーたちの葛藤
第3章 ポリアモリーとの出会い
第4章 ポリアモリーは「性に奔放」なのか
第5章 嬉妬は克服できるのか
第6章 二人のポリー女性との対話
第7章 複数愛者と単数愛者の恋愛
第8章 ポリアモリーと家族
第9章 日本にポリーはどれくらいいるのか
第10章 ポリアモリーと結婚制度


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