映画と音楽そして旅

主に懐かしい映画や音楽について…
時には新しい映画も…

(35) ムーン・リヴァー (映画「ティファニーで朝食を」)

2005-09-18 00:00:10 | 映画音楽
   広くて豊かなムーン・リヴァー    いつの日か着飾ってあなたを渡る
   私に夢を見させてくれたのもあなた 張り裂ける思いをさせたのもあなた
   あなたがどこへ流れていこうとも   私はあなたについて行くわ
 窓辺にもたれてオードリー・ヘップバーンが、ギターを弾きながら少しハスキーな声で口ずさむこの「ムーン・リヴァー」は、当時この映画を観ていなかった私でも、知っているぐらい有名な曲になりました。
 アメリカ西部や南部に住む人たちにとっては、この歌詞の「あなた」つまりミシシッピー河を越えて、目指すはニューヨーク…そのニューヨークに住む一般市民にとっては、ティファニーはアメリカの繁栄の象徴であり,憧れの存在であったようです。
 地方出身のホリー(A・ヘップバーン)は上流社会を指向しています。ティファニーのショウ・ウインドウの、眩いばかりのきらめきを眺めながら、粗末な朝食を摂るのが日課でした。今は軍隊にいる弟と一緒に住むために土地を買いたい…そのためには金が要る…と男たちから金を取り上げて暮らしています。
 作家志望のポール(ジョージ・ペパード)と知り合ったところへ、別居している夫が現れ…とお話はすすんで行く訳ですが…
 面白いのは二人が一日で三回の「初体験」をする場面です。一つ目はあの憧れのティファニーでのショッピングでした。お金がない彼はなにかの景品でもらった安物の指輪に、彼女のイニシャルを彫って贈ります。この注文をビジネス抜きで引き受けた店長も、心の広い人物で心温まる場面でした。
 ニつ目は彼女を図書館に連れて行くこと。彼女は彼の著書を探し出して、公共のものだからという係員の制止を無視して彼に無理にサインをさせます。
 三つ目はホリーの「指導」でポールは万引を体験します。万引した玩具の面をつけたまま一目散に逃げる二人の姿のおかしさ…ニューヨークは自由の街、手足を思い切り伸ばせる街…というセリフが出てきますが、ほんとにその通りのようですね。
 同居していたズバリ「キャット」という名前の猫…どこかで聞いたような話ですが…を放しますが、思い直して必死に探します。やがて猫を見つけたときの彼女の喜び…ここで彼女は「愛」というものを感じます。ハイ・ソサエティに憧れていたホリーはポールへの愛にも気づきます。雨の中でのラスト・シーンはロマンチックで感動的でした。
 資料によれば「ムーン・リヴァー」を作曲したヘンリー・マンシーニは、グレンミラー楽団のアレンジャー兼ピアニストを経て、この映画のブレイク・エドワーズ監督と知り合い映画音楽を手がけるようになり「シャレード」「ひまわり」などを作曲していますが「「ムーン・リヴァー」は最大のヒットになりました。
 A・ヘップバーンの歌について、歌手でピアニストの鈴木重子さんは「シンプルで人の心の柔らかな部分にしみいるような素直な歌い方」と評しています。この音楽は1961年度アカデミー「喜劇映画特別賞」を獲得しましたが、この映画…喜劇なんだと今更気がつきましたが、最後の方は哀愁を帯びてよかったですね。