映画と音楽そして旅

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(28) 映画「誰が為に鐘は鳴る」

2005-08-28 01:03:56 | 映画
 十代初期に見た映画は従姉とのお付き合いのため、大体はぼけっーとして観たものが多いが、この映画は珍しく私が本気で観たくて、観たという忘れられない作品だ。
   戦いの山野に咲出し灼熱の恋!!待望の文芸巨編いよいよ公開迫る!!
 今でもしつかり覚えているキャッチ・フレーズや、渋い表情のゲーリー・クーパーと短髪のイングリッド・バーグマンが写ったポスターに、思わず惹き込まれてしまった17歳の私だった。
 第一次大戦のあと王制から共和制に変わったスペインで、1936年に軍部や右翼を中心とした勢力が反乱を起し、以後三年間にわたって両派が凄惨な内戦を展開した。原作者のアーネスト・へミングウエィは、記者として内戦を見聞した体験からこの小説を書いた。
この映画は共和派を支援するため、義勇兵として駆けつけたアメリカ人青年と、市長だった父をフアッショ派に殺され、共和派ゲリラと行動を共にするスペイン娘との恋物語だ。
 フアッショ派に丸坊主にされて、やっとここまで伸びてきた…という感じの、バーグマンのボーイッシュ・カットの髪型と、北欧系の端正な顔立ち、特にクーパーとの出会いのシーンでの、こぼれるような満面の笑みが、私にはとても可愛くチャーミングに見えた。
 生か死か…の危機的な状況下で二人が交わした有名なセリフ…「Kissの時に鼻は…」こんな会話が暗くなりがちな画面を、時には明るいものにした。
 燃えるようなロマンスと共に、戦争の非情さを描くのも忘れてはいない。冒頭で負傷した仲間が手足まといになるのを防ぐために、クーパーは止むなく仲間を射殺する。冷たい銃口を前に死を覚悟した仲間はクーパーに叫ぶ。「アディオス!」と…。共和国防衛という共通の目的と掟とは言え、やりきれないものを感じた。
 スペイン内戦は各国が最新兵器を続々と投入し、さながら新兵器の実験場だったといわれる。この対立の構図はそのまま第二次大戦に、引き継がれ更に多くの人命が失われた。
 
 この映画の外には彼女の映画を全く観ていないのも不思議なことだが、この謎に迫るため彼女の年譜を追ってみた。この映画が作られた1943年頃は彼女がハリウッド・スターとして最も輝いていた頃だった。しかし商業主義優先の映画界への不満から、独立して作った作品は評判が悪く失敗だった。
 ここでイタリアの監督ロベルト・ロッセリーニと恋に落ちる。夫と娘を捨てイタリアへ渡った彼女は、不道徳なスキャンダルとを起したとしてハリウッドから追放されたため、アメリカ映画から一時姿を消すことになった。
 「誰が為に…」が公開された1952年頃は彼女の新作は、イタリアン・リアリズム風の作品ばかりで、そこにはあの華やかなイメージはすでに感じられなかった。その後ハリウッドへの復帰や「追想」でのアカデミー再受賞の頃には、私の映画熱はすでにピークを越えていた。
 78年の「秋のソナタ」を晩年の作品として、1982年8月29日ついに帰らぬ人になった。最後の時には母の過去のすべてを許した娘の姿があったという。
 その日は奇しくも彼女の67歳の誕生日でもあった。
 「誰が為に鐘は鳴る」このタイトルはイギリスのある詩人の詩の一節だそうだ。
 私はこの鐘を今は亡き大女優イングリッド・バーグマンに対する、愛惜と鎮魂のために鳴らしてやりたい…と思う。                                たそがれ