自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★能登半島、歌のツーリズム

2019年05月21日 | ⇒トレンド探査

   歌手の石川さゆりさんが春の褒章(今月21日発令)で学問・芸術分野などに贈られる紫綬褒章に選ばれた。石川県の住民の一人として、石川さゆりさんの功績は大きいと評価している。それは昭和52年(1977)にリリースされた曲『能登半島』(作詞・ 作曲 · 阿久悠、三木たかし)のヒットによる観光効果だ。

   「十九なかばで恋を知り あなた あなた 訪ねて行く旅は 夏から秋への能登半島」。恋焦がれる女性の想いが込められた歌は能登への旅情を誘い、能登観光の第2次ブームを創った。翌53年に半島の先端・珠洲市への日帰り客数は130万人を記録(三菱UFJリサーチ&コンサルティング「平成22年度旧きのうら荘見直しに係る検討業務報告書」)。その記録はまだ塗りかえられていない。

        では、能登観光の第1次ブームはいつだったのか。昭和32年(1957)、東宝映画『忘却の花びら』(主演:小泉博・司葉子)が公開された。「忘却とは忘れ去ることなり、忘れ得ずして、忘却を誓う心の哀しさよ」の名文句で始まるNHKラジオの連続ドラマ『忘却の花びら』(菊田一夫作)は、戦後の混乱期から落ち着きを取り戻し、マスメディアによる大衆文化が定着を始めたころのヒット作品だった。

   その映画のロケ地が輪島市の曽々木海岸であったことから、観光地としての能登ブームに火が付いた。横長のリュックを背負った若者が列をなしてぞろぞろと歩く姿を「カニ族」と称する言葉もこのころ流行した。さらに、昭和39年(1964)9月に国鉄能登線が半島先端まで全線開通、同43年(1968)に能登半島国定公園が指定された。マスメディアのPR効果、移動手段の確保、名勝としてのお墨付きを得て本格的な能登半島ブームが起きた。

   しかし、これまでの歌や映画によって誘われる旅情というはもう通用しないかもしれない。次世代の観光はこれまで旅行会社が取り上げなかった、あるいは観光地図にもなかった辺地、隠れた文化度の高い地域などが観光の対象となっていくのではないだろうか。「本当の田舎を見てみたい」や「何か体験をしてみたい」という要求が高まっている。いわばマス型からプライベイト型観光へとシフトが進んでいるように思える。

   新たな観光地は、個人を納得させる文化や歴史、伝統、農法、漁法、景観、人々の立ち居振る舞い、生業(なりわい)、自然・生態系といった地域資源をどれほど有するかがバロメーターとなるだろう。この点を踏まえれば、平成23年(2011)に「能登の里山里海」が国連機関である食糧農業機関(FAO)によって世界農業遺産、正式には「世界重要農業資産システム(Globally Important Agricultural Heritage Systems=GIAHS)」に認定された意義は大きい。

   世界農業遺産は次世代に継承すべき農法や生物多様性などを持つ地域の保存を目指していて、持続可能な伝統農法を見直すよう世界に求めている。家族や人の営みをベースにしていて、プライベイトな探訪型観光になじむ。国際的な評価を得た「能登の里山里海」の地域資源をいかにして活用してツーリズムへとつなげていけばよいのか、次なる能登観光のテーマでもある。

⇒21日(火)午後・金沢の天気    はれ


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