自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★不払いの悪循環

2005年07月29日 | ⇒メディア時評
   これでもか、これでもかと問題が噴出してくる。NHKは28日、ビール券購入をめぐり不正があったとして、福井放送局のチーフ・カメラマン(46)を懲戒免職処分にしたと発表した。チーフ・カメラマンは、2000年6月から2004年12月にかけ、取材協力者への謝礼との名目でビール券を局に購入させて4830枚を換金し、354万円をだまし取った。チーフ・カメラマンは「単身赴任などで生活費がかさむと思い、不正を始めた。洋服代などに充てた」と話しているという。カメラマンは全額を弁済している。

    新聞などによると、チーフ・カメラマンは127回にわたり上司の印鑑を勝手に持ち出してビール券の発注伝票に押印していた。おかしな話である。一つには、私文書を偽造したとしても、なぜ個人が4830枚ものビール券を局から引き出せたのか。ちょっとした謝礼なら常識的に言えば1回につき10枚が相当である。すると5年間で483回分の謝礼ということになる。1年で平均97回、月平均で8回も謝礼があるのか。次に、不正で得た金を「洋服代などに充てた」とする理屈である。他のテレビ局のカメラマンがこの話を聞けばせせら笑うだろう。カメラマンは10㌔以上もあるカメラを操作する。移動中もカメラを手放さないものだ。だから常に動きやすい服装で、夏だったら襟付きの半そでポロシャツにスラックスという服装だ。このカメラマンはブランドもののスーツを着込んで仕事をしていたというのか。そうでない限り、「洋服代など」という理屈が理解できない。

   うがった見方をすれば、このカメラマンはビシっとスーツで決めて、夜の繁華街を札ビラを切りながら闊歩していた、ということだろうか。しかも、去年7月に元チーフプロデューサーによる6230万円にも上る番組制作費不正流用が発覚したが、カメラマンはその後も不正行為を続けていたことになる。悪質である。

   こうなるとカメラマンが悪いというより出金する管理業務がなぜチェックできなかったのかと首をかしげたくなる。4830枚ものビール券をなぜ買い与えてしまったのか。一連の不正事件で浮かんでいるのは、管理業務のチェック体制の甘さである。この方が罪が重い。監督責任を問われて、福井放送局長や放送部長ら5人が減給、副部長ら2人が譴責(けんせき)処分、ほか2人を厳重注意を受けているが…。

   NHKは今年度の予算で、受信料の不払いが45万件になると想定して事業計画を立て、受信料収入は前年度比1.1%(72億円)減の6478億円を見込んでいる。ところが次々とさらなる不祥事が発覚し、5月末の受信料不払い件数は当初見込みを上回る97万件に上り、6月末には100万件を突破したとみられる。こうなると「不払いの数が多いから払わない」という悪循環が出てきて、不払いの勢いが止まらなくなる。受信料の不払いが増えれば今度は番組制作費も削減され、番組が「劣化」することにもなりかねない。

   この悪循環を断ち切るにはこれしかない。金品で不正を働いた者は業務上横領の罪で警察に告訴してけじめをつけ、退職金は一切払わない。この2点がなければ国民は納得しないだろう。弁済しているから告訴しないとNHKが言い訳しているのであれば、国民は「カメラマンが『オレよりもっと悪いヤツがいる』と、警察にベラベラしゃべられてはNHKが困るからだろう」とNHK自体を勘ぐってしまう。

⇒29日(金)午前・金沢の天気  曇り時々晴れ
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