自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆IoTを地方に

2017年03月30日 | ⇒トピック往来
  正直、この講演を聴くまではICT(Information and Communication Technology)とIoT(Internet of Things)の違いも理解していなかった。ICTといえば、パソコンやスマートフォンなど情報通信機器がインターネットを介してネットワークとしてつながるというサービスの総称だったと理解している。では、IoTとは何ぞや。それが、2020年には鮮明になる。電力網と情報網が束ねられる。「スマートグリッド(Smart Grid)」。簡単に言えば、電力網に接続しているすべてのモノはインターネットにつながるというのだ。

  先日(今月27日)石川県加賀市のホテルで、元Googleアメリカ本社副社長兼日本法人代表取締役の村上憲郎氏の講演があった=写真=。講演の主催者は「スマート加賀IoT推進協議会」、地域の行政と産業界でつくる団体だ。IoTは物体(モノ)に通信機能を持たせ、インターネットに接続し相互に通信することで、自動認識や自動制御、遠隔計測なとどいったこれまになかったイノベーションを起こすといわれる。産業革命でもある。それを取り込もうと地方が動き始めている。

  講演を聴いて印象的だったIoTの先端的なキーワードをいくつか列記してみる。「スマート・コンタクトレンズ(Smart Contact Lens)」は目の弱った糖尿病の人たちたちのために眼球の毛細血管で血糖値を管理するものだ。身体障がい者の機能回復のために神経系統にIoTを活用することも進んでいる。「スマート義手」は脳から指令を送り、義手(機械)を動かす。神経系統とIoTデバイス(機材)の結合のことを「インプランタブル(Implantable)」と言い、人間のハンディを克服するために期待されている。

  冒頭の「スマートグリッド」の場合、遠く離れた高齢者の「見守り」というアプリも開発されるだろう。テレビやエアコンの電力消費量を遠くにいる親族がチェックすることで見守りになる。従来のインターネットの活用は人と人だったが、人とモノ、モノとモノなど多様なコミュニケーションが可能になるのがIoTの世界だ。

  村上氏の講演では「ビッグデータ」の話なども出たが、「AI(人工知能)」も長足の進歩を遂げている。そのポイントが言語処理。「推論機構」という、複雑な前提条件からIf、Then、言葉のルールを駆使して結論を推論するハードウエアの開発だ。村上氏が上げた、近い将来、AIに取って代わられるかもしれない仕事がたとえば、簿記の仕訳や弁護士の業務を補助するパラリーガルだという。

  では、加賀市ではIoTをどのように活かすことができるのか。自分なりに思案してみた。同市には片山津、山代、山中と有名な温泉地がある。インバウンドの客が増えている。そこで、スマートフォンとIoTを組み合わせた観光ガイドや、英語・中国語・スペイン語の客に対する多言語対応や双方向性といったことが必要だろう。さらに、温泉地を観光した日本人やインバウンドの人たちがツイッターやフェイスブックでどのようなことをつぶやいたのかを分析する「ソーシャルリスニング(Social Listening)」を活用することで新たなサービスの提供も可能ではないだろうか。

  また、加賀市といえば橋立港を中心とする漁業の街だ。漁獲はこれまで漁師の経験と勘に頼っていた。漁業の後継者は減っている。では、衛星通信で漁船同士が魚群探知機の情報を共有してはどうだろう。情報交換をすることで漁船の燃費の節約、労働力の交換、漁業資源の管理保護ということも可能かもしれない。「スマート漁業」の先駆けになる。

  今回の村上氏の講演でもIoTは医療分野が先行している印象だ。しかし、経済的にも社会的にも病んでいる地方にこそIoTが必要だ。加賀市でも人口減少が確実に進んでいる。働きやすい第一次産業や第二次産業、インバウンドなど多様性なニーズに対応する第三次産業を創出するためにもIoTが欠かせない。「IoTで産業革命を起こさねば、加賀市の未来はない」。地方の叫びが聞こえたような講演会だった。

⇒30日(木)朝・金沢の天気   はれ
 
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