とんねるず主義+

クラシック喜劇研究家/バディ映画愛好家/ライターの いいをじゅんこのブログ 

コンビとは(6)テレビか映画か 上

2010年07月16日 19時31分23秒 | マーティン&ルイス
前回記事コンビとは(5)ジェリー・ルイスを書いてから、はや半年以上過ぎてしまいました。

1950年代前半にアメリカで活躍したお笑いコンビ、ディーン・マ-ティン&ジェリー・ルイスと、とんねるずを、比較研究している連載です。

ディーン・マ-ティン、ジェリー・ルイスそれぞれが、コンビ解散後に単独で出演した映画も、DVD等でこの半年間にかなり観ることができました。それもふまえつつ、彼らがホストをつとめたテレビバラエティ「コルゲイト・コメディ・アワー」(1950~55)にフィードバックしながら、とんねるずとの共通点をまとめてみたいと思います。

前にも書いたように、マーティン&ルイスととんねるずの共通点は非常に多いです。とりわけ、テレビバラエティにおけるスタンスやふるまいには、きわめて似たところがたくさんあります。
(「コルゲイト・コメディ・アワー(Colgate Comedy Hour)」の映像はYoutubeで見ることができます。米国発売のDVDボックスもあり。ただしリージョン1、日本語字幕はありません)

マーティン&ルイスとテレビとの関係を、以下にいくつかならべてみました。


○テレビというメディアで花開いた時代の寵児である

第二次大戦後、アメリカのお茶の間にテレビ受像機が急速に普及するようになり、NBC、CBS、ABCの3大ネットワークは競ってドラマやバラエティ・ショーを作りはじめます。

それまで舞台、映画、ラジオが活躍の場だったコメディアンたちにも、テレビは否応なしに影響を及ぼしました。チャップリンのようにテレビを毛嫌いした芸人が多かったようですが、いやでもテレビに出なければ人気を維持できないというのが、当時の風潮だったようです。

そんななか、テレビによって人気爆発し、テレビによって育てられた最初のコメディアンが、マーティン&ルイスでした。

彼らのキャリアそのものは、舞台で始まりました。それからラジオ、そして映画へというステップ自体は、従来のコメディアンたちと同じ。決定的に違っていたのは、彼らがテレビによって顔を売った、という点です。

もちろん彼らの主演映画はつぎつぎに大当たりして、巨万の富をもたらし、ふたりを国際的なスターにしました。しかし、ざんねんながら映画はこのコンビのすばらしさの十分の一も伝えてはくれません。彼らのほんとうのすばらしさを知るには、舞台かテレビを見るしかなかったのです。



○お茶の間にマーティン&ルイスそのものをさらけだす

マーティン&ルイスは、みずからの出自や人生そのものをテレビを通してさらけだすことで、視聴者に親近感をもたせることに成功しました。

「コルゲイト・コメディ・アワー」のコントを見ていると、それぞれの出身地や本名、コンビ結成のいきさつなどなどが、ふんだんにネタにもりこまれているのがわかります。おそらく当時のファンならだれでも、ディーン・マ-ティンが鼻を整形していることや、ジェリー・ルイスを最初に坊主頭にしたのがディーンだったことなどを、テレビを通して知っていたでしょう。

それは、とんねるずファンならだれでも成増と祖師谷大蔵を知っていることと同じです。ふつうなら内輪ネタで終わることを全国のお茶の間の前にさらけだして、視聴者との”仲間意識”を共有するのです。





○コマーシャリズムとの戯れ

「コルゲイト・コメディ・アワー」は、その名にも冠されたコルゲイトという会社がスポンサーの、一社提供番組でした。コルゲイトは歯磨き粉や台所洗剤の老舗メーカーで、番組中では関連商品のCMがこれでもかというくらいに流されます。

マーティン&ルイスは、これを逆手にとって、いわば自分たちの雇い主であるコルゲイト社をさんざんからかいました。

たとえば、こんなやりとり。


ディーン:下品なネタはやめろよ。クリーンにいこうぜ。オレたちのスポンサー(コルゲイト)の製品みたいにクリーンにな。

ジェリー:ハイッ!ボクはコルゲイトの商品ユーザーとしてカンペキに満足しております!なにもコルゲイトに媚びを売ろうってんじゃありません。コルゲイトがボクらにこう言うよう命令するから言ってるだけですっ!


あるいは、


ジェリー:じゃあディーン、これからボクが君の歌紹介をするから、マックス飛んでけ(Max, Fly away)!

ディーン:マックス・フライ・アウェイ?意味わかんないんだけど。

ジェリー:この番組は一社提供だから、コルゲイトはよその企業のCMをやらせないだろ?だけど、ボクたちふたりともゴルフをやるから、ゴルフボールが欲しいじゃない?「マックスフライ」はゴルフボールのメーカーさんだから、さりげなく名前を出すと宣伝になって、お礼にゴルフボールを送ってきてくれるんだよ。マックスフライさん、事務所のほうへすぐ送ってくださいね、よろしく!


この「マックスフライ」についてのやりとりを見た時は、とてもおどろきました。「番組中に企業名を出すとお礼に商品を送ってくる」という業界のしきたりを、わたしはとんねるずを通して知っていたわけですが、同じことが50年以上前のアメリカですでにおこなわれていたんです。

しかも、そのこと自体をネタにして、つまり視聴者にコマーシャリズムの裏側をバラして、マーティン&ルイスは遊んでいたんです。



○テレビという新興メディアとの戯れ

ハリウッド映画はその歴史の最初期から自己言及的な作品をつくっていましたが、同じようなことを、映画よりも新しい芸術であるテレビでやったのが、マーティン&ルイスだったのかもしれません。

ジェリー・ルイスは、スタッフが観客の拍手を煽ろうとするのを見て「お客さんたちは別に拍手したくないのに、あそこにイヤホンつけて立ってる野郎が”拍手しろ”ってうるさいんだよ。おかしな商売だよね、テレビって」と言うのをお約束のネタとしていました。

ディーン・マ-ティンがコント中にセリフを忘れれば、ジェリーがADさんのカンペをひったくってきて、カメラの前でコントの筋を堂々と確認してしまう。そんなふたりを見て、お客さんは大爆笑。

バラエティ・ショーがつくられる過程そのものをおもしろがったのが、若くて頭のキレるジェリー・ルイスでした。しかし、このようなメタ的なおもしろさは、マーティン&ルイスの主演映画ではまったく見ることができません。おそらくジェリー・ルイスは、テレビでやれることをなぜ映画でもやろうとしないのか、と、頭のかたいパラマウントの製作陣に苛立っていたんじゃないかと思う。



だから、コンビ解散後、自分が監督として映画をコントロールできるようになってからジェリー・ルイスがつくりあげたのは、それまでの映画の常識をくつがえすような斬新なコメディのかずかずでした。

はっきり言って、ジェリー・ルイスは映画作家として天才的です。わたしが特に大好きなのは『底抜けてんやわんや』(1960)ですが、『底抜けもててもてて』(1961)や『底抜けいいカモ』(1964)などの作品で彼がとりいれたテレビ的手法には、ほとんど唖然とさせられました。どれもこれもすばらしい!

ジェリー・ルイス監督の作品は、もっと見直されるべきです。特に、お笑いをやっている若いひとたちにはぜったいに観てほしい。

ジェリー・ルイス キング・オブ・コメディDVD-BOX

ちょっと話がずれてきました。

とにかくここで言いたかったのは、マーティン&ルイスにとってテレビでは可能だったメタ・フィクショナルな笑いの手法は、映画のほうではさっぱり生かせなかった、という事実です(ジェリー・ルイス単独作品がいかにすばらしくても、それはもはやマーティン&ルイスのコンビの笑いではなかった)。

このことは、とんねるずにも共通することなのでしょうか・・・?

と、ここで時間となりました。つづきは次回。






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