いつだったか、こんな約束をした記憶がある。
『俺はいつか、最高のゾイド乗りになる。そしてお前の設計したゾイドに乗る』
『じゃあ僕はそのために、最高のゾイドを設計する』
荒唐無稽な、子供同士の、馬鹿な約束。
民生用のモルガに乗せてもらい、そいつが制御系を弄って、俺が動かす。そんな遊びをしていた頃の。
いつしか時が過ぎて、記憶の片隅に追いやられていた約束。
……それは、突如として果たされることになった。
「こちらです、少尉」
女性研究員に案内され、クルツ・エアハルトはその機体と対面した。
「暫定型式GS-102X、機種名ヴェナトラプターです」
「こいつが……」
華奢とも言える、細い体つき。それに似合わぬ鋭い牙と爪。獰猛さを感じさせる切れ長の緑色をした目。
先発機であるヴェロキラプトル型ゾイド、レブラプターを彷彿とさせるカラーに塗装されたその機体は、ガイロス帝国の軍備再編に伴い導入される予定の新型機だった。
「テストは明日より開始します。では」
そう言うと、研究員はその場を去る。
(テスト……か)
クルツは、心の中でため息をついた。
自分が目指していた「最高のゾイド乗り」とはほど遠い、現在の状況。
軍備再編のために試作されるゾイドをただ乗りこなし、性能をお偉方に見せるだけ。
いい加減、嫌気が差す。
「ま……今回限りの仲だが、上手くやろうや」
それでも最低限、搭乗するゾイドに声を掛けるのは忘れない。
低い唸り声が、クルツの耳に聞こえた……ような気がした。
起動から走行、射撃と、淡々とテストが進行してゆく。特に問題もなく、いつもの試験と変わらない。
しかしクルツは、不可思議な感覚にとらわれていた。
このゾイド、ヴェナトラプターからは、不思議な既視感を得る。
どこかで感じた操縦感覚。
『お疲れ様です』
通信が入る。
『一時間後に、レブラプターとの実戦テストを行いますので、用意を』
「……了解」
機体をハンガーに戻し、各部をチェックする。サーボモーターや各種武装を、自分で一つ一つ確認してゆく。いつもの癖、というよりは儀礼のようなものだ。一回限りの間柄とはいえ、可能な限り、最高な状態で動かしてやりたい。
クルツなりの、ゾイドに対する愛情表現と、彼を知る者は評する。
そして「いつものように」、コアとコクピットの神経接続回路のパネルを開ける。
「ん?」
そのパネル裏に、幾重にもテープで巻かれた、板状の物体があった。
演習場に、二機のゾイドが対峙する。見た目、両機に大きな差異はない。ヴェロキラプトル型ゾイド、レブラプターとヴェナトラプター。
『……君のことだから、このディスクを見つけるだろうと思ったよ』
ヴェナトのコクピットの中で、クルツは回顧する。
『ま、こんな手の込んだ事しなくてもよかったんだけどね』
昔から、あいつはこうだった。無駄に手のかかった事が好きで、そのくせ照れ屋で。
『……とりあえず、聞いてほしい』
さっき聞いたディスクをもう一度再生しながら、クルツは前に立つレブラプターを見据える。
『約束を、覚えているかい?』
正直に言うと、言われるまで思い出さなかった。
『ヴェナトラプターは……残念ながら、全部ってわけでもないんだけどね。僕の造ったゾイドだ』
模擬戦が開始された。ヴェナトが躍動する。
『主に制御系のプログラミングを担当してね。君に合うように』
自然に素直に、ヴェナトはクルツの操縦に従い、駆ける。
『……もう、僕は先が短い。ヴァルハラで電磁波を浴びすぎてね……。君が聞いているころにはもう生きていないだろう。だから早く、ヴェナトが君に会って、これを君が聞いている事を願うよ』
「……ああ」
跳躍、ヴェナトがレブラプターに飛び掛る。
脚部の爪を閃かせ、上からレブラプターをヴェナトが襲う。恐ろしい跳躍力と瞬発力。並みのゾイドとゾイド乗りでは、反応する事すら難しい。
しかし、レブラプターも並みではない。搭載したオーガノイドシステム、そしてイオンチャージャーにより活性化されたゾイドコアの反応速度は凄まじく、ヴェナトの踏みつけを間一髪で横に避ける。
ヴェナトの追撃。踏み込んで、右腕の爪を叩き込む。が、それが届く前、ヴェナトを強い衝撃が襲う。
「……がっ!」
弾き飛ばされ、クルツは気付く。尻尾で迎撃されたのだ。踏み込んだために打点がずれ、致命的なダメージは負わずにすんだが。
間合いが開く。牽制がてら、ウェポンバインダーから模擬弾を放つが、当たらない。
(あのレブの乗り手も相当なモンだな)
胸中で愚痴る。それに呼応するかのように、ヴェナトが甲高く吼えた。
「……ったく、そういうトコ、アイツにそっくりだな、お前」
そいつに突っ込まれた気がして、照れ隠しに口に出す。
「じゃあ……、行くか!」
スロットル全開。ヴェナトが力強く、大地を蹴る。
今度は跳ばず、低い姿勢から爪を突き出す。レブラプターが横に逃げた。間髪入れず、カウンターサイズを展開。すれちがいざま、レブの右脚に斬りつける。
(……ここだ!)
相手の体制が崩れた。トドメを刺すなら、このタイミングだ。
「っおおおぉぉ!!」
膝を沈め強引に機体を停止、さらにそのエネルギーを利用して、バック転の要領で宙返りしながら後ろへ跳ぶ。
逆宙から繰り出された蹴り、ヴェナトの爪が、レブラプターの首に突き刺さった。
「……はは、最高だ、ヴェナトラプター。いや……」
あいつの造った最高のゾイド。なら、その名前をお前に預ける。
ヴァルハラに旅立った、あいつの名前を。
「お前の名前は……」
『俺はいつか、最高のゾイド乗りになる。そしてお前の設計したゾイドに乗る』
『じゃあ僕はそのために、最高のゾイドを設計する』
荒唐無稽な、子供同士の、馬鹿な約束。
民生用のモルガに乗せてもらい、そいつが制御系を弄って、俺が動かす。そんな遊びをしていた頃の。
いつしか時が過ぎて、記憶の片隅に追いやられていた約束。
……それは、突如として果たされることになった。
「こちらです、少尉」
女性研究員に案内され、クルツ・エアハルトはその機体と対面した。
「暫定型式GS-102X、機種名ヴェナトラプターです」
「こいつが……」
華奢とも言える、細い体つき。それに似合わぬ鋭い牙と爪。獰猛さを感じさせる切れ長の緑色をした目。
先発機であるヴェロキラプトル型ゾイド、レブラプターを彷彿とさせるカラーに塗装されたその機体は、ガイロス帝国の軍備再編に伴い導入される予定の新型機だった。
「テストは明日より開始します。では」
そう言うと、研究員はその場を去る。
(テスト……か)
クルツは、心の中でため息をついた。
自分が目指していた「最高のゾイド乗り」とはほど遠い、現在の状況。
軍備再編のために試作されるゾイドをただ乗りこなし、性能をお偉方に見せるだけ。
いい加減、嫌気が差す。
「ま……今回限りの仲だが、上手くやろうや」
それでも最低限、搭乗するゾイドに声を掛けるのは忘れない。
低い唸り声が、クルツの耳に聞こえた……ような気がした。
起動から走行、射撃と、淡々とテストが進行してゆく。特に問題もなく、いつもの試験と変わらない。
しかしクルツは、不可思議な感覚にとらわれていた。
このゾイド、ヴェナトラプターからは、不思議な既視感を得る。
どこかで感じた操縦感覚。
『お疲れ様です』
通信が入る。
『一時間後に、レブラプターとの実戦テストを行いますので、用意を』
「……了解」
機体をハンガーに戻し、各部をチェックする。サーボモーターや各種武装を、自分で一つ一つ確認してゆく。いつもの癖、というよりは儀礼のようなものだ。一回限りの間柄とはいえ、可能な限り、最高な状態で動かしてやりたい。
クルツなりの、ゾイドに対する愛情表現と、彼を知る者は評する。
そして「いつものように」、コアとコクピットの神経接続回路のパネルを開ける。
「ん?」
そのパネル裏に、幾重にもテープで巻かれた、板状の物体があった。
演習場に、二機のゾイドが対峙する。見た目、両機に大きな差異はない。ヴェロキラプトル型ゾイド、レブラプターとヴェナトラプター。
『……君のことだから、このディスクを見つけるだろうと思ったよ』
ヴェナトのコクピットの中で、クルツは回顧する。
『ま、こんな手の込んだ事しなくてもよかったんだけどね』
昔から、あいつはこうだった。無駄に手のかかった事が好きで、そのくせ照れ屋で。
『……とりあえず、聞いてほしい』
さっき聞いたディスクをもう一度再生しながら、クルツは前に立つレブラプターを見据える。
『約束を、覚えているかい?』
正直に言うと、言われるまで思い出さなかった。
『ヴェナトラプターは……残念ながら、全部ってわけでもないんだけどね。僕の造ったゾイドだ』
模擬戦が開始された。ヴェナトが躍動する。
『主に制御系のプログラミングを担当してね。君に合うように』
自然に素直に、ヴェナトはクルツの操縦に従い、駆ける。
『……もう、僕は先が短い。ヴァルハラで電磁波を浴びすぎてね……。君が聞いているころにはもう生きていないだろう。だから早く、ヴェナトが君に会って、これを君が聞いている事を願うよ』
「……ああ」
跳躍、ヴェナトがレブラプターに飛び掛る。
脚部の爪を閃かせ、上からレブラプターをヴェナトが襲う。恐ろしい跳躍力と瞬発力。並みのゾイドとゾイド乗りでは、反応する事すら難しい。
しかし、レブラプターも並みではない。搭載したオーガノイドシステム、そしてイオンチャージャーにより活性化されたゾイドコアの反応速度は凄まじく、ヴェナトの踏みつけを間一髪で横に避ける。
ヴェナトの追撃。踏み込んで、右腕の爪を叩き込む。が、それが届く前、ヴェナトを強い衝撃が襲う。
「……がっ!」
弾き飛ばされ、クルツは気付く。尻尾で迎撃されたのだ。踏み込んだために打点がずれ、致命的なダメージは負わずにすんだが。
間合いが開く。牽制がてら、ウェポンバインダーから模擬弾を放つが、当たらない。
(あのレブの乗り手も相当なモンだな)
胸中で愚痴る。それに呼応するかのように、ヴェナトが甲高く吼えた。
「……ったく、そういうトコ、アイツにそっくりだな、お前」
そいつに突っ込まれた気がして、照れ隠しに口に出す。
「じゃあ……、行くか!」
スロットル全開。ヴェナトが力強く、大地を蹴る。
今度は跳ばず、低い姿勢から爪を突き出す。レブラプターが横に逃げた。間髪入れず、カウンターサイズを展開。すれちがいざま、レブの右脚に斬りつける。
(……ここだ!)
相手の体制が崩れた。トドメを刺すなら、このタイミングだ。
「っおおおぉぉ!!」
膝を沈め強引に機体を停止、さらにそのエネルギーを利用して、バック転の要領で宙返りしながら後ろへ跳ぶ。
逆宙から繰り出された蹴り、ヴェナトの爪が、レブラプターの首に突き刺さった。
「……はは、最高だ、ヴェナトラプター。いや……」
あいつの造った最高のゾイド。なら、その名前をお前に預ける。
ヴァルハラに旅立った、あいつの名前を。
「お前の名前は……」
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