アスカ・スタジオ

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2005-08-21 09:00:45 |  映画ナ行
市井にふんだんに見られる話である。恋愛を諦め見合い結婚をする。只それだけの話である。なのに膨らみと詩情が漂う。楠田浩之の脚本もさることながら、木下恵介の門下生、川頭義郎の手腕に負うところが大きい。松竹に初出演の若尾文子は、従来の大映調には無い役を貰い進境を示す。今後どしどし他社作品に出演すればまだまだ伸びる可能性ありと見た。←1957年に書いた文です。

石浜朗との恋は発端が突発的で感心しないが、浜辺でのラブシーン、殊に志津子が結婚を断るシーケンスは叙情味あり秀逸。彼女の父は落ちぶれた田舎周りの役者。兄は土方。母は父が失敗した時投身自殺したという不幸な娘。叔父夫婦の許に世話になっている。

気が弱く、石浜を諦めきれず、夫婦が持ち出す縁談にも乗り気になれない。若尾は如何にも元気のない、心に重荷を背負った雰囲気を醸し出す。彼女が日頃大映で演じている茶目っ気娘からはどうしても想像がつかない。

叔父の東野英治郎は相変わらずの芸達者。養子床屋を演じ咳払い一つも極く自然、セリフ一つも堂に入り観客を笑わせる。兄の佐田啓二は今までの二枚目オンリーから脱皮。今年男優主演賞をとっただけあって体当たり的演技。杉田弘子扮する居酒屋の女に、船中で母の死を話す所など、彼が投げる花束の水に溶け込むがような詩情の発露を感ずる。佐田も巧くなったものだとつくづく感じた。

彼が良くなってきたのは「美しき歳月」あたりからだが、その彼が志津子の相手に断りを言いに行き、かえって認めてしまうところは、これまた田村高広個人の人格が滲み出る。結婚後、まだ石浜を想い、しょんぼりしている彼女を、大きな愛で慰めるに至り、感銘がほとばし出でる。

「僕は今まで愛したことも愛されたこともない人を嫁さんに欲しいと思ったことは一度もないんだ」妻を労るこの言葉は、真の偉大な愛でなくて何であろう。愛というものに対して只上っ面だけの通り一遍な解釈に陥らず、その真理を深く求め、しかも生活と現実に即した物語として表現した。実に立派。

夫が海へリクレーションに行く時、志津子が「思い出の貝殻を捨ててください」という心理も頷けるものである。加うるに「雲がとっても青いので..」を主とした木下忠司の音楽は、ラストシーンで父が面の中で流す涙と共に、叙情味を盛り上げ快い作品に仕上がっている。
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