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家族

2009-01-11 20:17:15 |  映画(カ.~キ)
 旅の無理が祟ったようだ。大阪で見慣れぬエスカレーターに乗るのに戸惑いを見せた祖父源造が新幹線の車中で囁く。「富士山が見えるよ」。だが、耳を貸す家族は居なかった。
 大阪で様態が変だった赤ん坊が東京で天に召される。早苗の簡素な葬儀をする上野の教会で、母民子は長崎の教会で挙げた精一との結婚式を思い出す。要所で現れるフラッシュ・バックが麗しい。

 一日遅れて乗った上野発の夜行列車。雪の青函連絡船で聞こえる赤ん坊の泣き声に噎ぶ民子が哀れである。ローカル線を乗り継いで辿り着いた最果ての地。「えらかとこに来てしもたばい」精一の嘆きを余所に、炭坑節を唄い、凍てた地に鍬を振るって見せる源造。だったのに。
 その祖父が静かに息を引き取る。旅の途中で次男の家に立ち寄った。温暖の瀬戸内に面した地で厄介になるつもりだったのに。と思うと切ない。次男にもその訳があった。これも家族の悲哀だ。

 季節は巡る。雪が溶けて、北の国にも訪れる春。誕生した牝牛を譲り受ける夫婦にも、新しい命の誕生が近い。
 去った家族。訪れる家族。「カトリックは辛かばい」精一の言葉に、湧き上がる笑いと希望が春の小川のように瑞々しい。

 寅さんシリーズが前年から始まっていた。シリーズ第三作を前に山田洋次監督は素晴らしいロード・ムービーを創り上げた。
 主役井川比佐志の妻に倍賞千恵子。父に笠智衆。弟に前田吟が固め、渥美清や太宰久雄もカメオ出演している。みんな、みんな、名匠山田洋次を支える、演技達者な家族である。

 1970年.日(松竹)[監督]山田洋次[撮影]高羽哲夫[音楽]佐藤勝[出演]井川比佐志。倍賞千恵子。笠智衆。前田吟。[上映時間]1時間47分[私の評価]89点

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6 コメント

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Unknown (kazoo)
2010-01-24 16:23:30
この映画の最初の方結婚式のシーンを撮られた伊王島にわたくしは住んでいました。
そしてこの映画のロケの際
笠智衆さんがぽつんとロケ隊から離れて休んでいる所に出くわしたんです。
ランドセルの中からノートを出して
破った一枚を「サインしてちょうだい」ってつもりで、でも何も言えずに眼前に突き出して頼んだら、微笑んで書いてくれた優しい人でした。
長じて彼が凄い役者さんだと知って、あの優しい笑顔と寡黙な横顔を思い出しなんとも言えない気持ちになりました。
この作品、わたくしにとっても思い出深い1本です。
kazooさんへ (アスカパパ)
2010-01-25 16:46:52
そうでしたか。
それは、忘れられない映画になりますね。
kazooさんの体験談をお聞きして、笠智衆さんは、映画の上でも、実生活でも、分け隔てのない温厚なお方だったということが想像出来ます。
笠智衆さんが出演された映画は、小津安二郎監督の「一人息子」(1936年)に始まり、最後に観た、黒澤明監督の「夢」(1990年)まで、何十本観たかな?。日本映画史に残る至宝ともいうべきお方ですね。

地図で、伊王島を確認させていただきました。
いま改めて、朧気ながらも映画の風景が思い浮かんできました。
Unknown (kazoo)
2010-01-25 18:53:40
>日本映画史に残る至宝ともいうべきお方ですね。

本当に。本当に!!!
随分若い頃から老け役専門みたいになっていらっしゃるようですが、今、なんというか、佇まいだけで説得力を持つという役者さん、少なくなったような気がしてなりません。

わたくし、昔の邦画の新藤栄太郎さんとか、伊藤雄之助さんとか、ほんっとうにステキだったなあって思うんですけれども、善も悪も併せもって『生活』を感じさせる役者さんが少なくなったように思うのは、やっぱり時代もあるのでしょうね。人間の「顔」が変わってきたって気がしています。

「一人息子」これまた未見です。
アスカパパさんは上質の邦画を沢山観ていらっしゃって、羨ましいのと同時に勉強になります。

同感です。 (アスカパパ)
2010-01-26 16:46:24
>善も悪も併せもって『生活』を感じさせる役者さん

悪役をこなせなければ、真の名優とは呼び難いですよね。且つ、生活の匂いがするような、三拍子揃った役者さんですか。
お挙げになった二人の方は、言えそうですね。と、ここまで書いて、いま、ふと、三國連太郎さんの顔が浮かびました。その三國さんが最近、週刊誌の対談の中で、現在の俳優は(云々)と言って居られたのを思い出しました。「息子も含めて」と、厳しい言葉でした。

笠智衆さんは、「一人息子」では、学校の先生役で、主演者を引き立てる、彼独特の、渋くて、地味な、目立たない脇役に徹しておられます。
縁の下の力持ち。私の好きな言葉です。
阿川さん (kazoo)
2010-01-27 09:10:30
三國連太郎さん!!!!
ああ、そうですね!!!
阿川佐和子さんのインタビューでしたでしょうか。(わたくし、阿川さんのファンでもあります。うふふ)
私も読んで「プロだなあ・・・」って思うのと同時に三國さんのこれからの果てない道を思うと・・・だったりもしました。

笠智衆さんの
>彼独特の、渋くて、地味な、目立たない脇役に徹して
いやあ、観たい!

思えばお2人共含羞の人でもあるような。
Re:阿川さん (アスカパパ)
2010-01-27 18:39:11
阿川佐和子さんのファンでいらっしゃいますか。

そうです。
阿川さんのインタビュー記事を思い出して書きました。

「一人息子」は、今で言う入試センター試験(当時は共通一次試験と言っていたと思います)の国語に出題されました。
「豆腐屋には豆腐しか作れない」の名言を吐かれた小津安二郎監督、流石と思います。

「家族」も、映画検定に出題されているだけあって、これぞ名画の部類に入りそうです。

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