【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「休暇」:月島警察署前バス停付近の会話

2008-06-11 | ★門33系統(豊海水産埠頭~亀戸駅)

月島警察署かあ。最近は警察も大変だよなあ。
とくに、秋葉原の無差別殺人みたいな事件が起きるとねえ。
でも、警察の大変さっていうのは、ときどきドラマになるけど、刑務所の刑務官の大変さっていうのは、あまり見ないな。
門井肇監督の「休暇」は、その刑務所の刑務官の話。
死刑囚の刑が執行されることになって、その支え役をやる代わりに、1週間の結婚休暇をもらう刑務官を小林薫が物静かに演じている。原作は吉村昭。
死刑囚を西島秀俊が、これも、もの静かに演じている。
どんな事件を起こして死刑を宣告されたのか、まったく説明がない。
老夫婦の亡霊みたいなのが現れるんだけど、ヒントにすぎないしね。
妹が面会に来るんだけど、これまた、ひとことも会話を交わさない。
観ているほうがじれったくなるほど、沈黙のシーンが続くんだけど、それがかえって哀れさを誘うのよねえ。
主役たちはみんな、ことば数が少ないんだけど、そのぶん、ことばにできない心情がふつふつと伝わってくる。
西島秀俊、いいわよねえ。感情を抑えに抑えている彼が、最後に一度だけ感情を爆発させる。
この映画の脚本家が、彼でやくざ映画を撮りたいとか言ってたらしいけど、香港の渋いギャング役でも観てみたいな。
トニー・レオンが出ているような映画ね。
それにしても、刑務官には“支え役”なんていう仕事があるとは知らなかった。
首をくくって落ちてくる死刑囚を処刑台の下で支える、文字通りの“支え役”。
バタつく足を止まるまで支えておかなきゃいけない。それを小林薫は、自ら買って出てしまう。
そういう仕事を選んだんだっていう、静かな決意よね。
もう若くはないんだけど、子持ちの女性と結婚して、新しい家庭をつくりあげていくんだっていう決意なんだろうな。
普通の職業ではありえない決意よね。
しかも、死刑の日程が決まっても、当日まで死刑囚に悟られてはいけないなんて・・・。
死刑囚には、そのときになって突然、刑の執行を言い渡すんだけど、現実にもそうなのかしら。
だとしたら、それこそ怖いなあ。心構えも何もなく、突然「今から執行だ」って言われるんだぜ。
ほんと、死刑囚だけにはなりたくないなあ。この映画、犯罪抑止の映画になるかもね。
茶化すな。近頃の日本映画には珍しい、抑制の効いた、おとなの映画なんだから。
ああ、なんでもかんでも字幕を入れてしまうようなテレビ番組とは対極のつくりよね。
そのせいか、観客はほとんど入っていなかったけどな。
地味な映画だからね。でも、ほんとうに大切なことは一見、地味なことがらの中にあるものよ。
警察だって、日常は地味な職業なんだよな。



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「ザ・マジックアワー」:豊海水産埠頭バス停付近の会話

2008-06-07 | ★門33系統(豊海水産埠頭~亀戸駅)

こういう波止場が、ギャングたちの抗争の場になるんだろうな。
そう?いまどき、そんなこと、映画の中くらいしかないんじゃないの?
「ザ・マジックアワー」とか?
うん。港町のギャングどおしの抗争に巻き込まれる売れない俳優の物語。
映画の撮影だと思って殺し屋の役を演じる役者が佐藤浩市。本物の殺し屋だと思ってしまうギャングの親分が西田敏行。間でこの策略を仕切るのが、妻夫木聡。
それぞれの勘違いから生まれるトンチンカンなやりとりが、まあ、おかしい、おかしい。
脚本・監督が三谷幸喜だから、おもしろいのは折り紙つきなんだけど、今回はとにかく、佐藤浩市の怪演に尽きる。
いつもクールな二枚目の佐藤浩市が、ここまではじけた演技をしたのは初めて見たわね。
ナイフをなめるだけで、あそこまで笑わせてくれるとは、まあ、ユカイ、ユカイ。
覆面を取ろうとするシーンの顔の演技も最高だったわよ。
指の二丁拳銃だって、負けず劣らずの怪シーンだ。
名俳優が役柄上、大根役者がやる演技をしているところが、なんとも錯倒的な感じがして、オーバーでなく、おなかの皮がねじれちゃうわよね。
受ける西田敏行は、いつもどおり、余裕しゃくしゃくで、これまたユカイ、ユカイ。
妻夫木聡は「憑神」を観たときには、本格的なコメディはちょっと難しいかなあと思ったんだけど、今回はどちらかというと狂言回しに回って、思いの他、気にならなかった。
しかも、三谷幸喜の前作「THE 有頂天ホテル」は観ているときは笑えるんだけど、終わってしまえば余韻の残らない映画だったのに対して、今回はちゃんと余韻の残るところが凄い。
タイトルからして、「THE 有頂天ホテル」っていうのは、深い意味がない身も蓋もないタイトルだったけど、「ザ・マジックアワー」っていうのは、結構ホロリとさせる意味合いを含んでいて、案外侮れない。
前回はホテルという人間臭い場所を舞台にしたわりに、ギャグが細切れで血の通った人間味を感じさせる人物があまりいなかったけど、今回はギャングと映画俳優の世界という、見るからにフィクションに徹したことで、逆に主役の佐藤浩市に人間的な心情を感じさせる結果になったんだから、おもしろい。
売れない映画俳優の悲哀が生きた。
「THE 有頂天ホテル」より、これまでの三谷幸喜の最高傑作「ラヂオの時間」に近い印象だよな。
あれも、抱腹絶倒の中に、右往左往するラジオマンの心情が浮かんでただの喜劇になっていなかったもんね。
最初の撮影所のシーンがちょっと長いかな、と思ったらちゃんとラストシーンに生かされていたし、生前の市川崑が見られたのも映画ファンとしては感慨深いものがある。
年老いた俳優をやる柳沢慎一だって、ほんとうに設定どおりに昔の白黒映画で活躍していた俳優なのよ。
え、そうなのか。お前もさすがにむだに年はとってないな。
あ、誤解しないでよ。リアルタイムで彼の映画を観ているわけじゃないんだから。
しかし、あの年であのピストルさばきが出てくるとは思わなかった。
きっと、波止場での抗争シーンをいくつもこなしてきたんでしょうね。
もし、この波止場で映画の撮影があったら、いちど観に来たいな。
マジックアワーにね。



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都02系統と35本の映画たち

2008-06-06 | ■通ったバス停、観た映画(一覧)

ふたりが走破したのは、都バス<都02系統>

あじさいの季節にふさわしく、マイコの紫の和服が目に残ったわね。
映画としては「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」が圧倒的だった。
梅雨の季節に観るには、暑苦しいって。
つゆ、知らなかったねえ。
あああ、さらに湿度が上がったわ。


●大塚駅前:「歓喜の歌
⇒新大塚:「君のためなら千回でも
⇒大塚四丁目:「チーム・バチスタの栄光
⇒大塚三丁目:「人のセックスを笑うな
⇒大塚二丁目:「エリザベス:ゴールデン・エイジ
⇒大塚車庫前:「菜緒子
⇒茗荷谷駅前:「ぜんぶ、フィデルのせい
⇒小日向四丁目:「ペネロピ
⇒小石川四丁目:「明日への遺言
⇒春日二丁目:「潜水服は蝶の夢を見る
⇒伝通院前:「トゥヤーの結婚
⇒富坂上:「ノーカントリー
⇒春日駅前:「フローズン・タイム
⇒真砂坂上:「マイ・ブルーベリー・ナイツ
⇒本郷三丁目駅前:「4ヶ月、3週と2日
⇒湯島四丁目:「黒い土の少女
⇒湯島三丁目:「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程
⇒上野広小路:「モンゴル
⇒御徒町駅前:「クローバーフィールド HAKAISHA
⇒東上野一丁目:「王妃の紋章
⇒新御徒町駅前:「うた魂♪
⇒元浅草三丁目:「大いなる陰謀
⇒三筋二丁目:「フィクサー
⇒寿三丁目:「アイム・ノット・ゼア
⇒蔵前駅前:「あの空をおぼえてる
⇒本所一丁目:「相棒
⇒石原一丁目:「つぐない
⇒石原二丁目:「隠し砦の三悪人
⇒石原三丁目:「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド
⇒石原四丁目:「丘を越えて
⇒太平一丁目:「ブレス
⇒太平二丁目:「山のあなた 徳市の恋
⇒太平三丁目:「アフタースクール
⇒錦糸公園前:「山桜
⇒錦糸町駅前:「JUNO/ジュノ


●関連サイト⇒Blog Ranking(映画全般)


「JUNO/ジュノ」:錦糸町駅前バス停付近の会話

2008-06-04 | ★都02系統(大塚駅~錦糸町駅)

なんだ、このどでかいドーナツは?
このオブジェがドーナツに見えるなんて、あなたもティーンエージャー並みの想像力しか持ってないのね。
悪かったな。でも、おかげで「JUNO/ジュノ」はおもしろく観れたぜ。
16歳の高校生ジュノが妊娠しちゃった子を養子に出そうとするアメリカ映画。
立派なおとなとしては、まゆをひそめそうな話なんだが、結構共感して観れたのは、俺がティーンエージャー並みの想像力を持っているおかげだろうな。
そんなの自慢にならないって。おとなとしてはまゆをひそめるほうが正常よ。罪悪感も何もなく、平然として妊娠して里親を探して、犬の子でもあげるように渡そうとするんだから。あの赤ちゃんがどう育つかと思うと、心配で心配で・・・。
そのあたり、日本人とアメリカ人じゃ感覚が違うのかもしれないけど、主役のエレン・ペイジがやたらキュートだから、何でも許せちまう。
男と女で感覚が違うんじゃないの?あなたも男だし、監督は男だから、子どもができることの重大性がわからないのよ。
脚本は、女だぜ。
まだまだ若い。
若い女がどう行動するのか、っていうのがこの映画のポイントじゃないか。エレン・ペイジみたいな高校生、ひょっとしていそうな感じ、しないか。
ハードキャンディー」で小憎らしい娘を演じた子よ。
え?あの、すべての男が震え上がったホラー映画「ハードキャンディー」の主役をやった小娘か。大のおとなを手玉にとって、恐ろしかったなあ。それが「JUNO/ジュノ」では、あんなにおしゃまで憎めない高校生を演じるなんて、信じられないな。
でも、「JUNO/ジュノ」の中で彼女が好んで観ていた映画は、ホラー映画よ。
ますます、女は信じられないな、老いも若きも。
どうせ、私は“老い”のほうよ。
おい、おい。自虐的になるな。
まあ、若い彼女を取り巻く人々がみんな、どこかヘンだし、監督が「サンキュー・スモーキング」のジェイソン・ライトマンだから、正論を言う人を煙に巻くようなユーモラスな映画になってのは、たしかね。
サンキュー・スモーキング」?ああ、あの弁舌さわやかで頭がからっぽの男を描いた映画か。あれはおもしろかった。もっと評判になっていい映画だ。
あの映画も凝ったタイトルバックだったけど、「JUNO/ジュノ」もタイトルバックからして快調。
うん、話は結構重いはずなのに、風船みたいにぴょんぴょん弾む映画で、憎めない。監督と俳優たちの才能がぴったり一致したんだろうな。
この映画のあっけらかんとした愛らしさ、監督は違うけど、「リトル・ミス・サンシャイン」を思い出したわ。
なんだ、結局、おまえも気に入ってるんじゃないか、この映画。いま風のアメリカ人情喜劇の佳作ってところだな。
エレン・ペイジの前作が「ハードキャンディー」なら、こんどの映画は「ソフトドーナツ」って感じだしね。
ほら見ろ、やっぱりドーナツだろ。
でも、このオブジェは、ドーナツじゃないと思うけどなあ。



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