【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「武士の家計簿」

2010-12-07 | ★橋63系統(小滝橋車庫前~新橋駅)

「武士」と「家計簿」。この水と油みたいに相反する要素を一緒にした企画の勝利だな。
小説とか戯曲とかではなく、新書版の研究書が原作。人が見落としそうなところに目をつけるなんて、森田芳光監督、まだまだ隅に置けないわね。
それを物語にする技術は一流だから、こんなチャーミングな異色作ができあがる。
森田芳光って、最初は「の・ようなもの」とか「家族ゲーム」とか撮り方が独特で、作家性の強い映画監督として登場してきたような印象なんだけど、丸くなったというか、こなれたセンスで映画を撮るようになってきた。平明な名作を撮れる監督になりつつある。
ほんとうにいろんなジャンルの映画を撮っていて、その懐の深さには感心するしかない。
今回は、幕末の加賀藩の財政に携わる下級武士とその一家の物語。
彼の役職は御算用者、いまでいえば経理係だ。
武士といえば刀を誇りとする世の中で、そろばんを誇りとする変わった武士。
森田芳光には「そろばんずく」なんていうタイトルの映画もあったけど、この映画の主人公はそろばんずくでそういう職業についているわけではない。
いわば天職。
その彼の薫陶を受けた息子が、明治維新後は軍の会計職に抜擢される。
つまり、武士の世の中から、軍事、経済の世の中に変わる節目で、はからずも先見の明を持ってしまった一家っていう見方もできる。
長い目で見れば、その軍事も第2次大戦で行きづまり、経済もいまや来るところまできてしまったんだけどね。
映画はそんなシニカルな視点から描くことは巧妙に避けて、貧しいけれど明るく生きた武士一家の家族愛の物語に仕上げている。
借金まみれの家計をなんとか立て直そうと奮闘する姿は、とても武士には思えない。
まるで、あなたみたい。
そう、俺も鯛はしばらく食べてない・・・って、そういう話じゃないだろう。
でも、そういうところに共感させていく監督の腕前はタイしたものよ。
タイ、だけにな。
フォローありがと。
鯛のエピソードもそうだけど、そのあとに子どもを肩車するカットを何気なく挿入しているのが最後に効いてくるとか、細かいテクニックを追っていくと、森田芳光がいかに計算して映画を撮っているか、よくわかる。
ただほのぼので終わるのかと思うと、「こどもが事故にあったらそれも運命だ」なんてギョッとするようなセリフで映画を引き締めているしね。
引き締めているといえば、祖母役の草笛光子。とくに何をするわけでもないけれど、実は彼女の存在がこの映画を引き締めているんじゃないかと俺はにらんでいるんだ。
いかにも武士の家系といった凛としたたたずまいは、貴重よね。
サマーウォーズ」のおばあさんみたいな存在。
あそこまで大活躍はしないけど、居るだけでその場の空気が変わる。
まるで俺みたい。
あなたの場合、悪いほうへ空気が変わるけどね。
おいおい、お前のはフォローになってない。





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