【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「イースタン・プロミス」:勝どき駅前バス停付近の会話

2008-06-21 | ★門33系統(豊海水産埠頭~亀戸駅)

ここから死体を捨てれば、潮の流れに沈んだまま浮いてこないかな。
なに、物騒なこと言ってるのよ。
だって、「イースタン・プロミス」では、そんなことを言いながら死体を捨ててたじゃないか。
そしたら、計算と違って、死体が上がってきちゃって、警察に見つかっちゃった。
まるで1960年代の「太陽がいっぱい」みたいな展開だなと思ったら、意外にもそうじゃなかった。
そもそもが、ロンドンで暗躍するロシア・マフィアの世界の話だからね。「イースタン・プロミス」って、東欧組織によるイギリスでの人身売買契約を示す言葉らしいわよ。
マフィアのボスが日本テレビの「バンキシャ!」に出てくる元検察官・河上和雄みたいな親指顔系のおじさん。日本でも河上さんをボスにして犯罪映画をつくったらおもしろいのにな。
なんか、映画をおちょくってる?
とんでもない。「イースタン・プロミス」は、近頃珍しく硬質でスタイリッシュな映画だった。アラン・ドロンとかリノ・バンチュラが活躍していたころのフランス暗黒街映画みたいな匂いもあるし、香港映画の「インファナル・アフェア」みたいな匂いもある。
趣味悪デヴィッド・クローネンバーグが監督だから、もっとキモチ悪さ全開の映画なのかなと思ったら、最初から最後までまともな犯罪映画なんで、びっくりしたわ。
珍監督から出発したデヴィッド・クローネンバーグが、いつごろからこういう映画をものにする名監督になっちゃったのかな。
ブライアン・デ・パルマが、珍監督から出発して名監督になっちゃったようなもんかしら。
ほとんど全編、濡れたように悩ましい夜のロンドンが舞台。そこで展開されるのは、味気ない銃撃戦とかじゃなく、ナイフが肉体を切り裂く、見るからに痛ましい戦い。
女性からすれば、見所はなんといっても主演のヴィゴ・モーテンセンよね。寡黙で知的で肉体も頑丈で、その立ち居振舞いがなんとも気をそそる。
俺は、ナオミ・ワッツだな。ふつうの助産婦の役なんだけど、暗い町の中に彼女が出てくると、どうしてもデヴィッド・リンチの「マルホランド・ドライブ」の異様な世界を思い出してしまう。
あ、デヴィッドつながり。
趣味悪つながり。
でも、その相乗効果もあって、映画がいっそう深みを増したともいえるわよ。
まったく、その通りだ。こんなに深みのある映画も、近頃ちょっとない。
罪を犯す者も犠牲になる者も、貧しいロシアを離れ、ロンドンに流れてきた人間たちだっていう背景がまた、ただの犯罪映画に終わらせない人間的な味わいを生んでいる。
「ゴッドファーザー」ほど華麗ではないけれど、ある民族が異国で生きていくことの哀しみが全編を覆っている。
ラストはハッピー・エンドなの?
うーん、難しい質問だな。すべてが解決しているわけじゃないし、もしかしたら続編が出来るかもしれないな。
ヴィゴ・モーテンセンには、まだまだ隠された部分がありそうだしね。
決して、大河ドラマのつくりじゃないんだけど、続編を観てみたい気分にはさせるよな。
監督も続編をつくるって約束してくれないかしら。
俺たち東洋人との約束な。
東洋人との約束?
ああ。これがほんとの「イースタン・プロミス」。
あなた、やっぱり、映画をおちょくってる?


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ふたりが乗ったのは、都バス<門33系統>
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