たびにでるたび

***旅に出るたび **胸につもる何かを *ほんの少し、眠る前に

男の人

2008-06-29 03:21:58 | Weblog
むかしなじみのようなひとで
冗談ばかり言うけれどちょうど話が合う
仕事や音楽の話で熱く語り合えるひとだ
よくお互いの彼氏彼女の話もしていた

年上だけど、
以前そのひとがお金がないときによく奢ってあげたりしていて
今度は私が奢ってもらった
話す元気もなかなか出ない私を家に泊めてくれて
少しずつ話せるようになった

もう、悲しくて涙も出なくなっちゃった と言うと
そうかぁ とそのひとは言いながら馬鹿みたいに煙草をたくさん吸う
つられるように私も煙草をたくさん吸う

昔、4年いっしょに暮らし結婚寸前までいった人がいたんだ
と 彼が話してくれた
いっしょに暮らすってのはさ、やっぱり思うようにいかないこともあるよね
ただつきあってたまに会って、っていうのとは違うと思うんだよね
ただ愛してるだけでどうにかなるもんじゃない

うん、と私は頷くしかできない

男はさ、きっとみんな
一畳でもいいから絶対に自分だけのスペース ってのが必要なんだよ
時間をやりくりするとか、そういうことじゃないのかもしれない
二部屋あるところに住んでいたら少しは何か違ったのかもな

正しい努力をできる奴が成功するんだよ
もちろん運だってあるけど、それだけじゃない
すごい奴はみんな見えない所でもたくさん考えてたくさん努力してる
それが、否応なしに結果に出ちゃってるんだよね

いい線いきそうだな、って感じるバンドマンはみんな
仕事でもクリエイティブにバリバリやって結果を出して周りの人からも一目置かれて
そういうことできるような奴だからバンドだっていいライブが出来て人が集まる
要は、人なんだよ


たくさん話をして、
あたしは1人で勝手によっぱらって
でもそのひとが冷静に話してくれる人で
よかった

「今、すごく大事なことを言うけど、いい?
 おまえは、厳しすぎるんだよ。
 人にも、自分にも」

うん、
わかるんだ
いつもあるはずのない「完璧」を求めてしまうんだ
漠然とした、大きな、「完璧」を
そこへ至るまでの手順だって無鉄砲で危なっかしくて
怪我をするのが自分1人ならそれでもいいか、って思ってしまうんだ
いつも届かないギリギリの目標ばっかり決めて
子供の頃からずっとそうだった
だけど
大人になって
求めるものの大きさに比例して
怪我のリスクだって高くなるんだ
それなのに
あたしは同じ方法しか知らないままで
だんだん追いつけなくなるんだ
自分が届きたいものに
それで焦ったり諦めたり苛立ったり
それは
きっと近くにいる人にも伝わってしまう
それでも、あたしの周りにいる人が楽しそうだと
それだけで自分も心の底から楽しい気持ちになれるの
誰かが幸せそうだと、それだけで嬉しくなるの
だから、人のことを先になんとかしたい って
そればかりいつも考えている

それはちょっと違うよ、
と彼が言う
どんなに周りが幸せでも、
自分が幸せじゃなかったら
「みんな」が幸せじゃないんだぜ?
もっと自分が幸せでいることを本気で考えなくちゃいけない
自分が幸せになることがみんなを幸せにするんだ

いつだったか ずっと前に
同じことを誰かに言われたことがあるんだけど
あたしは酔ったせいなのかうまく思い出せなくて
もう朝だったのでふたりとも眠ることにした

本を読むその人の横でで眠ろうとしたら、
急に
それまでしばらく出なかった涙が
止まらなくなって
吐きそうで
人の隣で眠ることが久しぶりなんだと思い出した
怖かったの
ずっと
ここ二ヶ月くらい、
家に帰るのが怖かったの
同じベッドにいても
嫌な顔をされて溜め息をつかれて目をそらされて
話しかけることも部屋で音楽を聴くことも
触れることも 全部拒まれながら家にいることが
怖かったの
毎日、家に帰ろうとすると足が震えて動悸が強くなって
でも諦めたくなかった
わかりあう努力をちゃんとしたかった
出て行けなんて言葉を言わせたくなかった
今でも怖いの
毎日、あの家に帰るのが怖いんだ

あたしが泣いている顔を見られたくないのを知ってか
そのひとはぎゅっと頭を抱いてくれて
大丈夫、
つらすぎることは忘れてもいいんだよ、
今は忘れて、
早くその家を出て、
自分のことを考えろ、
大丈夫、大丈夫、

そんな言葉を聞きながらいつのまにか眠ってしまって
相変わらず3、4時間で目は覚めて
何度もうたた寝を繰り返して
そのひとと同じ頃に起きて煙草を吸って
あんまり何も喋らずにいっしょに部屋を出た

夜更けにたくさん話したからかな、
なんだかすごく気持ちがフラットに近づいた
ちょっと軽くなった


どこにもいたくないし
どこにも行きたくないし
どこにも帰りたくないけど
でも
家に帰って眠って
少し先の未来と、もう少し先の大きな未来を
冷静に具体的に考えたいなと思えるようになった